東日本大震災から10年 いま伝えたい想い
サントリーホールディングス株式会社
コーポレートサステナビリティ推進本部 CSR推進部
榎 悠里 さん
震災発生後、当社では「サントリーグループとしてどのような被災地支援を行うべきか」と従業員にアンケート形式で意見を募り、個人や部署単位で案を出し合いました。そうした社員の声も踏まえて、「漁業支援」と「子ども支援」を大きな柱に、地域に寄り添った支援を展開する方針を固めました。その後、支援を進めていくにあたりパートナーを探していたときに、震災直後からいち早く被災地に赴き、活動を行っているセーブ・ザ・チルドレンに出会いました。
当社では、震災以前から社会貢献活動の一環として、自然の大切さを伝える環境教育「水育(みずいく)」や、サントリーホール・美術館を通じた音楽や芸術ワークショップ、サントリーラグビー部サンゴリアス・バレーボール部サンバーズによるスポーツ教室など、幅広い分野で次世代育成に力を入れています。復興支援活動に取り組むにあたり、セーブ・ザ・チルドレンとともに被災地の皆さまのニーズについてヒアリングを行い、まずは東北の主要産業である漁業の未来を担う水産高校の学生への奨学金支援(*1)を行うことに決定しました。
また、福島県出身の従業員からの声も受け、原子力発電所事故の影響を受ける福島県の子どもたちへの支援として、事故の影響が少ない場所で子どもたちがのびのびと遊ぶことのできる場を提供したほか(*2)、「フクシマ ススム プロジェクト」(*3)を立ち上げ、県内5ヶ所の放課後児童クラブ(学童保育)の支援や子ども支援に取り組むNPOへの助成事業なども実施しました。
当社は、子どもまちづくりクラブ(*4)で活動する子どもたちの夢をかなえたいと、2013年に「石巻市子どもセンター らいつ」(*5)を、2016年には山田町ふれあいセンター 「はぴね」(*6)の建設を支援しました。
私自身は当時の活動に直接関わってはいませんが、現在も定期的に現地を訪問しています。先日、らいつを訪れた際には、子どもたちが施設にWi-Fiを導入するかについて、付せんを使いながら議論していました。一般的には職員が決めるような内容でも、子どもたちが主体的に考えて議論し運営している様子を見て、この場所が「子どもたちが主体的に運営し、想いを伝えることのできる場」であり続けていることを実感しました。そして、過去に通っていた子どもたちが、時を経て子どもたちをサポートする立場の職員となっていたり、「らいつ」や「はぴね」を拠点に地域の商店街でイベントが開催されたりしているという話を聞くたびに、大変うれしい気持ちになります。
また、建設の支援だけにとどまらず、建設後も当社のコンテンツを活用して、施設のスタッフの皆さまと相談しながら、さまざまなプログラムを通じたサポートを継続して行っています。過去には、サントリーフラワーズによるフラワーワークショップやサントリーサンバーズによるバレーボール教室、仙台フィルハーモニー管弦楽団と連携したコンサート、日本工芸会の講師を招いた陶芸絵付け体験教室などを開催しました。どのプログラムも参加した子どもたちが真剣な表情で取り組んでくれていた様子がとても印象に残っています。
当社は創業の精神のひとつである「利益三分主義」という価値観を大切にしています。セーブ・ザ・チルドレンとの活動を通して、この価値観が会社としての社会貢献活動に対することだけでなく、従業員のなかで「自分ごと」としてより身近に感じられるようになったのではないかと考えています。
セーブ・ザ・チルドレンと一緒に支援活動を進めるなかで、子どもたちが自ら積極的に行動を起こしている様子を見たり、保護者などから「子どもの新たな可能性に気が付いた」という声を聞いたりしました。従業員にとっては、こうした様子や声を見聞きするなかで、ときには自身の子どもと姿を重ね、個人としての支援活動への向き合い方にも変化があったように思います。実際に、社内で次世代教育へさらに力を入れたいというムードが高まり、ボランティア活動への参加者を募集すると多くの社員が手を挙げるようになったほか、個人としてもセーブ・ザ・チルドレンの活動に賛同し寄付をするようになった従業員の話も耳にします。
これからも従業員一人ひとりが「自分ごと」として支援を身近に感じていくために、会社としても引き続き一丸となって東北の被災地の皆さまに寄り添った活動を行うことが大切です。今後も、従業員の意見を大切にしながら、セーブ・ザ・チルドレンのような迅速に対応し、活動するパートナーとの連携や、実際に現地に赴き、そこにいらっしゃる皆さまとのヒアリングや協働などを通じて、岩手県・宮城県・福島県の皆さまに寄り添うことを大切に、息の長い支援を続けていきたいと思います。