シンポジウム「体罰のない、ポジティブな子育てを~『長くつ下のピッピ』の作者とスウェーデンの子ども観に学ぶ~」を開催しました

2018年6月11日、スウェーデン大使館にて、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンはスウェーデン大使館およびスウェーデン文化交流協会との共催により「体罰のない、ポジティブな子育てを~『長くつ下のピッピ』の作者とスウェーデンの子ども観に学ぶ~」と題したイベントを開催しました。

2017年、セーブ・ザ・チルドレンが国内で実施した調査では、日本に住む大人2万人のうち60%が「しつけのために子どもをたたくこと」を容認している、ということが分かりました。一方国際社会では、家庭を含むあらゆる場面での子どもに対する体罰等をなくすための法制化や社会啓発などの取り組みが確実に進んでいます。

今回のシンポジウムは、「Never Violence!」という有名なスピーチを行い、子どもへの暴力のない社会の実現のために尽力をしたスウェーデンの児童文学作家、アストリッド・リンドグレーンの功績にスポットをあてると同時に、世界ではじめて子どもに対するすべての体罰を禁止したスウェーデンの事例などをもとに子どもへの暴力に関する国際的な取り組みや実態を学びながら、日本の子どもたちについて考える機会となりました。

当日は、子どもに対する暴力に関する国連事務総長特別代表のマルタ・サントス・パイス氏による基調講演の後、アストリッド・リンドグレーン氏のひ孫であるヨハン・パルムベリ氏、ウプサラ大学附属子ども病院小児科医のスティーブン・ルーカス氏が登壇し、講演を行いました。その後、セーブ・ザ・チルドレン・スウェーデン事務局長エリサベット・ダリーン氏のファシリテーションで、マルタ・サントス・パイス氏、スティーブン・ルーカス氏、児童虐待防止全国ネットワーク理事の高祖常子氏、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン国内事業部子ども虐待の予防事業プログラム・マネージャーの瀬角南が登壇し、パネルディスカッションを行いました。当日は、研究者、子ども・子育て支援に携わる行政職員やNPO/NGOスタッフ、学校関係者、報道関係者、一般参加者など93名が参加しました。



◆基調講演「Protecting children from violence and ending corporal punishment」

まず、子どもへの暴力に関する国連事務総長特別代表のマルタ・サントス・パイス氏が、世界中の子どもたちが体罰を含むあらゆる形態の暴力を受けている状況と、その根絶にむけた国際社会の取り組みについての基調講演を行いました。その中で、1979年にスウェーデンが世界で初めて家庭を含むあらゆる場面での体罰等の禁止の法制化を実現して以降、世界では現在までに50ヶ国以上が子どもに対するあらゆる形態の暴力を法律で全面禁止していること、子どもに対する暴力を根絶することはとても遠い道のりであると感じられるけれども、決して先延ばしが許されるものではないことを伝えました。

パイス氏
は、2015年に採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のターゲット16.22030年までに「子どもに対する虐待、搾取、人身売買およびあらゆる形態の暴力および拷問を撲滅する」と掲げられたことは、子どもに対するあらゆる形態の暴力をなくすチャンスであると語りました。また、子どもに対するあらゆる形態の暴力をなくすための意思表明として法律で禁止することが、各国の政府に求められると強調しました。



◆講演「アストリッド・リンドグレーン―長くつ下のピッピからネバー・バイオレンススピーチまで」
続いて、子どもへの暴力をなくすために力を尽くしたスウェーデンの児童文学作家アストリッド・リンドグレーンのひ孫、ヨハン・パルムベリ氏が、リンドグレーンの生い立ちや子育てへの考え方、リンドグレーンの有名な「Never Violence!(暴力は絶対だめ!)」スピーチを紹介しました。スウェーデンでも、かつて親が子どものしつけとして体罰等を使う時代があったことや、リンドグレーンの「子どもへのしつけに暴力はいらない」という熱く明確なメッセージについての話がありました。



◆講演「スウェーデンの経験―体罰等禁止が成し遂げたこと」
スティーブン・ルーカス氏は、スウェーデンにおいて、どのように子どもに対する家庭を含むあらゆる場面の体罰等が法律で全面禁止されたのか、また法改正を経てスウェーデン社会でどのような変化があったのかを、データとともに説明しました。スウェーデンでは、1979年の法改正の後に、親の体罰に対する容認度やその使用が著しく減少したことが分かりました。具体的には、過去1年間に子どもをたたいた親の割合は27.5%(1980年)から2.8%(2011年)、激しくたたいたことのある親の割合も3.0%から0.2%へと減少しました。また、親による0~17歳の子どもの虐待死は15人(1970年)から4人(2010年)へと大きく減りました。こうしたデータに基づき、ルーカス氏は子どもへの体罰等を禁止したことにより、暴力の予防が進み、子ども、親や養育者、そして社会全体にも良い影響が広まっていると語りました。



◆パネルディスカッション
最後のパネルディスカッションでは、まず、日本における子どもに対する子ども虐待や体罰の現状を高祖氏と瀬角から報告しました。高祖氏は、日本での虐待相談対応件数が増えていることや国内法の現状、そして法改正の必要性を訴えました。瀬角からは、2017年にセーブ・ザ・チルドレンが国内で実施した調査「子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指して」の結果と提言の紹介がありました。回答者2万人のうち60%が「しつけのために子どもをたたくこと」を容認し、子育て中の回答者の約7割が過去に1回以上子どもをたたいていたものの、同時にたたかない、怒鳴らない子育てへの高い関心を寄せていたことを報告しました。

その後、会場から寄せられた質問に答える形で、議論が進みました。その中では、法改正とともに、法改正に関する啓発キャンペーンや親や養育者への支援が欠かせないということが複数の登壇者から強調されました。牛乳パックやバスの停留所の看板など、日常の風景や場面を通して大規模に展開された、スウェーデンや他国の具体的な啓発キャンペーンに関する事例も共有され、同時に法律に関する啓発のみならず、ポジティブな子育てを親や養育者が学べる支援が大事であることが確認されました。

パネルディスカッション全体を通して、「暴力は絶対ダメ!」という考え方や、体罰等によらないポジティブな子育てを日本国内でも普及するにあたって、実践的なヒントを得ることができました。



参加者からのアンケートでは、「重いテーマでしたが非常に前向きに熱くお話を聞くことができました。時代・国と問わず普段の努力が必要と思いました」「法律の制定が社会をかえられる、ということが印象的だった。社会がかわる取り組みをすれば20年後には変化が得られる、ということが分かった」といった感想が寄せられました。

セーブ・ザ・チルドレンは、子どもをたたかない、怒鳴らない社会の実現を目指して今後も活動を続けていきます。
(国内事業部)

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