コミュニティの参加による、よりよい学校運営の改善のために(vol.1)(2014.09.22)

2010年から今年の5月まで、イラク南部バスラ県で小学校の改善事業を実施しました。これから3回のシリーズで、この事業の背景を振り返るとともに、4年間の事業の活動の内容と成果をお伝えいたします。

イラクはかつて中東の中でも高い生活水準と高い教育水準を誇っていました。しかし、1979年のサダム・フセイン政権発足からの長年にわたる実質的な戦時経済の下で、教育施設などの社会インフラへの投資は著しく減少し、疲弊したままの状態が続きました。

フセイン政権が倒れた2003年以降は、国際社会から多額のイラク支援が実施されてきましたが、その成果は地方の学校や病院などの社会インフラに届くまでには至っていませんでした。その結果、多くの小学校では建物の老朽化が進み、教室やトイレなどは壊れ、劣悪な状態となっていました。


校庭には瓦礫やごみが放置されているために使用できない状況になっていた。


窓ガラスが割れたままになっている中で授業を受けていた。


教員も設備が整わない部屋で仕事をせざるを得なかった。

しかし、万一支援が届いて施設が修復されたり、新しい備品が設置されたりしても、すぐに壊れてしまい、1年後には以前の姿に戻ってしまうことが多くありました。

こうした状況に対して私たちが現地で実施した調査を通じて分かったのは、
?質の悪い備品が与えられている上、適切な修復がなされていない、
?壊れてもまたもらえるという意識があるため大切に使わない、
?教育局が迅速に対応できる以上に多大なニーズが存在している、
という3点でした。

この結果から、単なる修復や備品供与の繰り返しは問題の根本的な解決にならないことが明らかになり、より良い解決法を探る必要性が確認されました。

まず私たちは、地域の住民たちが「学校は自分たちの財産である」という意識を持ち、その維持や改善を政府や行政にただゆだねるのではなく、自分たちが当事者であると認識することが大切だと考えました。その上で、地域住民を含めた様々な関係者が学校の運営・改善活動に参加し、それぞれの役割を担い、協力できる能力を育成するための事業を計画・実施しました。

2010年からの4年間、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンがイラク南部バスラ県において実施した小学校改善事業の具体的な活動は次の3つです。
1. 様々な関係者の意識向上と協力強化
2. 学習環境の整備
3. 学校における「子どもの参加」の促進




これから3回のシリーズで事業の詳しい活動と成果のご報告をしていきます。


■1. 様々な関係者の意識向上と協力強化

関係者の意識向上と協力強化をはかるために最初に実施したのは、日本のコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)*と同様の考えのもと、学校運営委員会の立ち上げでした。
*学校と保護者や地域の皆さんがともに知恵を出し合い、学校運営に意見を反映させることで、一緒に協働しながら子どもたちの豊かな成長を支え「地域とともにある学校づくり」を進める仕組み(文部科学省)

委員会の立ち上げに先立ち、学校施設毎に学校関係者(校長や教員)、行政(教育局の職員、地方議会議員)、保護者、地域の人々(地域住民、宗教指導者、現地市民団体スタッフ)に集まってもらい、様々な関係者が協力して学校の改善に自ら取り組む重要性や、学校運営委員会の意義などについて話し合いました。地域の人々は、子どもたちの学習環境が良くなることに対して非常に積極的で、活動への深い理解を示してくれました。

その後、各関係者の代表が一堂に会し、学校運営委員会が目指すもの、活動方針、活動理念、委員会活動の簡単な規定などを策定し、委員の選出や役割分担を行いました。

学校運営委員会が設立された後、運営委員会による学校改善計画の立案が行われました。セーブ・ザ・チルドレンのスタッフは各学校を訪問し、学校施設の修復や備品の整備などを含む学校改善活動の計画、実施、評価などに対して細やかに助言を与え、各学校運営委員会が自分たちで活動を進められるよう支援しました。

その後も、2周目、3周目の学校改善サイクルに伴い、委員会の再編成(委員会の目的やルールの再検討、委員の選定等)、改善計画の立案、活動の実施を支援しました。3周目の学校改善計画では、各学校が主体となり、子どもの権利や子どもの参加に対する教師・親の理解促進、衛生教育セッション、清掃等の活動を自発的に実施するようになりました。



学校運営委員会のミーティングの様子。学校改善活動は順調に継続されている。

学校運営委員会の設立以外には、教職員や教育局の職員に加え、親や地域住民の学校運営・改善に対する意識向上を狙い、報告会や研修を実施しました。報告会では、前年度から行われた活動の実績とその評価結果や今後の活動予定について学校運営委員より発表され、多くの参加者から積極的に関与したいという声が聞かれました。こうした活動を通じて、「学校運営委員会を通じた学校改善」や「子どもの参加」に対する親・地域住民の意識は確実に向上してきました。

学校運営委員会に運営委員として参加したウェサム先生の声をお届けします。

「私は過去、学校ではとても厳しい先生とみられていました。子どもたちを叱るときに暴力に訴えることもしばしばで、子どもたちの意見に耳を貸そうとはしませんでした。子どもたちを叱るのは子どもたちのためを思ってのことで、子どもたちに望ましい態度を身に着けてほしいと思ったからです。しかしながら、問題は増えるばかりで一向に良くならず、自分自身も後悔ばかりでした。

学校運営委員会と子どもクラブが出来た後、私は運営委員となり、子どもクラブに関わるようになりました。今では2年がたち、様々な研修に参加し、行動が変わってきたことが自分でもわかります。子どもたちに接するにしてももっと優しいやり方があるのを知りました。子どもたちの中にも光るものを見つけられるようになり、もっと意見や気になることを話すように促すようにしています。子どもたちも今では私になついてくれるようになりました。私が自ら子どもたちの話を聞くようにし、子どもたちも様々参加するようになる中で子どもたちの攻撃性もやみ、能力や想像力を育むことが出来ることがわかりました。」


運営委員会に関わることで子どもたちへの接し方が大きく変わったと語るウェサム先生

次回は「2. 学習環境の整備」についてご報告いたします。

この事業はみなさまのご寄付と外務省日本NGO連携無償資金協力による助成により実施しました。ありがとうございました。


*2014年9月現在、イラク北部では戦闘によって多くの子どもを含む避難民が発生しています。セーブ・ザ・チルドレンは、2014年6月に戦闘が始まって以来、避難民への支援活動を実施しています。
(リンク)【イラク北部での戦闘開始から2ヶ月、120万人を超える避難民に援助団体が懸命の対応(2014.08.14)】

(イラク担当:利川)
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