コミュニティの参加による、よりよい学校運営の改善のために(vol.3)(2014.12.22)

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(以下、SCJ)は、2010年から今年の5月まで、イラク南部バスラ県で小学校の改善事業を実施しました。3回のシリーズで、この事業の背景を振り返るとともに、4年間の事業の活動の内容と成果をお伝えしています。

これまで2回にわたり、イラク南部のバスラ県で実施したコミュニティ参加型の学校運営改善事業についてご報告してきました(第1回目記事はこちら第2回目記事はこちら )。今回は、学校における「子どもの参加」の促進についてご報告いたします。

子どもの参加は子どもの権利の一つであると同時に、学校の主な利用者である子ども参加の実現は、学校環境の改善において大きな意味を持ちます。そのためには、学校における子どもの権利に関する第一の義務履行者である教員がその概念を理解することが不可欠です。

この事業では、まずは子どもの参加に関する専門家を招へいし、関係者に対してトレーナー研修を行いました。研修は、子どもに関する概念からはじまり、子どものニーズ、子どもの権利と権利条約、子どもの参加とその実践、子ども会を通しての子ども参加の促進などの項目について、それらを単なる概念や理論に留まらず実際の状況に応じて判断できるように、ロールプレイやグループワークなどの参加型アクティビティを織り交ぜながら進められました。

その後、研修を終了したトレーナーが中心となり、対象校の校長や子ども会を担当する教員に対しても研修が実施されました。


また、対象校それぞれにおいて、参加を希望する約30名の子どもたちからなる子ども会を立ち上げました。学校による子ども会のメンバーを選ぶにあたっては、年齢のバランス、男女共学の場合は男女数の平等、保護者の意見などが考慮されました。選ばれた子どもたちは、それぞれ絵画セッション、読書セッション、学校改善活動検討セッション、植物栽培セッション、演劇セッションなどの活動ごとのセッションに分かれて活動を楽しみました。同時に、各セッションの活動では子どもたちが学習環境に対する意識を高めたり、自らの意見を表現したりすることを促す要素を含めており、子どもたちが学校改善活動等へ参加し、意見を発表する力を養う場となりました。

また、親・地域住民の子ども参加への理解促進のために、子ども会がイベントを実施し、親子が一緒に楽しめるゲームに加え、自分たちが行っている改善活動の発表を行いました。更に、5・6年生からなる子どもたちの代表が集まり子ども会総会を開催し、子ども会での活動を振り返りながら、子どもたちが「最も重要な変化」であると感じたことを取りまとめ、教育局職員、親、地域住民を前に発表しました。

総会に参加した子どもたちからは、「自信がついた」「参加することや自分の意見を述べることの重要性がわかった」「今までにはない新しい体験をした」等、肯定的なフィードバックがありました。発表を聞いた教育局職員、親、地域住民からも、子ども会総会に満足し、総会を通じて子どもの参加の意義について理解を深めた、との肯定的な感想が聞かれました。


演劇セッションの様子。劇を通じて、子どもたちが子どもたちに、
学校をよくするための活動への参加をよびかける。


壁画セッションで校内の美化について壁画をしている様子


子ども会総会にて


子ども会に参加した生徒たちの声を紹介します。

「学校に行ってもずっと友達もできず、授業にもついていけないために学校が嫌いになり、不登校になりました。それでもお父さんに言われ、学校に何とか行くようになったところへ、子ども会が出来たことを聞いたので加わることにしました。数ヶ月が経ち、自分が変わり、学校が好きになっていることに気づきました。授業にもついていけるようになり、友達もたくさんできました。家族も子ども会のイベントや総会に参加してくれ、すごく頑張ろうと思いました。お父さんは学校運営委員会のメンバーになりました。ずっと学校や地域を手助けできるよう頑張りたいです」ザイナブさん(10歳)


子ども会に参加して学校に再び通うようになったザイナブさん

「内気で自信がない自分の性格は、まるで悪夢のようでした」とナバさん(12歳)は語ってくれました。ナバさんは勉強熱心なのですが、極度の恥ずかしがり屋なため、自己肯定感が低い生徒でした。「自分には出来ることがたくさんあるのは知っていたけれど、どうやってそれを示したり、説明したりすればいいかわかりませんでした。そのためにいつも孤独を感じていました。」ナバさんは絵が得意だったので、親や教員に促され、躊躇しながらも、子ども会の絵画セッションに参加することにしました。

ナバさんの描く絵はすぐに子ども会担当教員や他の子どもたちに認められ、絵画コンテストで賞をもらうまでになり、ナバさんは内気な性格を乗り越えることができました。ナバさんは、賞を取れたことよりも自分の弱い部分を乗り越え、子ども会でのチーム精神やリーダーシップを学んだことのほうが重要だと思っています。ナバさんは、今ではほとんどの活動に参加するまでになりました。「これからも子どもの権利と子どもの参加を学んで自分に自信をつけるようにします。内気な性格を子ども会で乗り越えた自分の経験を、兄弟や友達に伝えていきます。」とナバさんは力強く語ってくれました。


子どもクラブでの活動を通して内気な性格を克服したナバさん

、友達を作り、学校をますます好きになりました。自分たちが学ぶ環境やその改善に対しても意識が向上し、改善活動への参加も増えています。また、子どもたちだけではなく、教員や親や地域住民たち大人も、子ども参加の重要性を理解し始めています。教員たちは、この事業が終了した後も子どもの参加促進のための活動が推進されるよう「子どもの参加促進」ネットワークを立ち上げました。




当事業は、2014年5月をもちまして終了いたしました。セーブ・ザ・チルドレンでは、イラクでの子ども支援活動を継続して実施しています。詳しくは、グローバルサイトをご覧ください。


*2014年12月現在、イラク北部では戦闘によって多くの子どもを含む避難民が発生しています。セーブ・ザ・チルドレンは、2014年6月に戦闘が始まって以来、避難民への支援活動を実施しています。
(リンク)【イラク北部での戦闘開始から2ヶ月、120万人を超える避難民に援助団体が懸命の対応(2014.08.14)】

(イラク担当:利川)










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