(公開日:2015.10.09)
【福島:放射能リテラシー(14)】 「避難している人はいつ帰れますか」 ~ 留学生からの質問 ~
- 日本/東日本大震災/福島
「自分を取り巻く放射能に関する問題に当事者意識を持ち、自分の考えを自分の言葉で語る」、これは今、福島の子どもたちに必要な、とても大切な力のひとつかもしれません。とは言え、毎日、目に入る除染作業やテレビの原発関係のニュースは、だんだんと日常化され、問題意識が薄れていく、、、。これもまた、今の福島のひとつの側面。子どもたちが、福島で起こっていることを自分たちの課題として考えられるようにするにはどうしたらいいでしょか?
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、福島の子どもが放射能について学び自ら判断できる力を養うために、2013年11 月から、子どもを対象とした「放射能リテラシーワークショップ」を行っています。今回のブログでは、7月に福島市立福島第一中学校3年生30人が参加したワークショップで行った「福島のここが知りたい!~留学生からの質問~」のワークをご紹介します。
福島のここが知りたい
福島では、原発事故後、多くの変化がありました。学校や公園、公共施設には空間放射線量を測るモニタリングポストが設置され、テレビやラジオでは、毎日天気予報のあとに各地の放射線量が告げられます。除染が各地で行われ、町には除染で出た土が緑や青いバックに包まれて置かれています。初めて福島を訪れる人にとっては、びっくりするようなことでも、福島にいると、だんだんと慣れてしまい、「なぜ?」「どうして?」と深く考える機会を見失ってしまうことがあります。
そこで、今回、東北大学の留学生の助けを借りて、それぞれの留学生の福島についての質問に答えてみる、というワークをしました。このワークは、東北大学経済学研究科国際交流支援室の松谷基和准教授に多大なるご協力のもと、実現しました。ワークに協力してくれたのは、南アフリカ出身のジェレミーさん、ドイツ出身のニコラスさん、そして中国出身のテイテイさんです。この3人は、今年6月に福島の現状を学ぶためのスタディ・ツアーに参加していて、福島市の果樹園や小学校なども訪問した経験があります。
ジェレミーさん(南アフリカ) テイテイさん(中国) ニコラスさん(ドイツ)
今回のワークショップでは、留学生が出してくれた3つの質問の中から、グループごとにひとつの質問を選んで、どのように説明するかを考えることにしました。
1) 食べものの安全性:給食の食材は測定しているが、それ以外ではどのようにしているか
2) 放射能の影響:放射線の影響を心配するか否か
3) 避難者の帰還:避難者はいつ帰れるのか。移住せず、帰ることを待ち続けている
人は福島にどんな想いがあるのか。
【動画:ジェレミーの質問】
ジェレミーさんの質問を見てみましょう。
子どもたちは、「自分の考え」をピンクのカードに、「その理由」を黄色いカードに、そして、「もう少し詳しく留学生に説明するために知りたいこと」を緑のカードに書いていきます。ワークをする時に気をつけることは、ふたつ。「グループでひとつの意見にまとめる必要はない」、「異なる意見があったら、それも含めて説明するようにする」ということ。さぁ、どんな意見が出たでしょうか。各グループの発表を見てみましょう。
まずは、食品の安全性を選んだ2つのグループ。どちらのグループも、特に放射線量を自分で測ったりすることはなく、今、食品を心配しているという意見はありませんでした。「前は心配だったけど、今は気にしていません」「測定されて証明された食品を買っているから」という意見がいくつかありました。詳しく知りたいカードには、「売ることのできなった食材はどうするんですか」という声も。留学生に説明するという状況が、食品の放射線量について自分たちで具体的に考えるきっかけとなったようです。
放射線の影響について話し合った2つのグループはどうでしょうか。このテーマは、どちらも、グループ内で意見が分かれました。心配する、しない、そして両方の理由を互いに話しました。これまで、こんな風に自分の意見を言ったり、自分とは異なる他の人の考えを聞いたりしたことあったかな?
最後は避難者の行方について話し合ったグループ。このグループは一番苦心していたようです。「いつ帰れるか」については意見が分かれました。「人体に影響のない線量になったら帰れる」「自分で決められる」、という意見と帰れないという意見がありました。「人体に影響がない線量ってどのぐらい?」「えーっ?どのぐらいかなぁ」じゃぁ、緑のカードに質問として書いてみよう。
そして、他県に移住しないで、ずっと帰還できる日を待っている人たちについても考えてみました。「ペットと一緒だから、遠くに行けないと思う。」「住んでいた町には思い出がたくさんあるよ。」 自分が避難者だったらどうするかな、、、子どもたちは避難されている方々の気持ちに思いを巡らします。
そして、休憩をはさんで、NPO法人市民科学研究室の上田昌文さんが登場。子どもたちから挙がった質問に丁寧に答えていきます。上田さんは、これまでのワークショップでは、ファシリテーターとしてご協力いただいていましたが、今回は、大切なポイントを要所、要所で説明するアドバイザーとしてご協力いただいています。
続いて、セーブ・ザ・チルドレンから、「避難している人はいつ帰れるか」という質問に関連して、子どもたちの避難について話をしました。ここで子どもたちに知ってほしいことはふたつ。
ひとつ目は、子どもたちにとって住んでいたところに帰るか帰らないかを決めるのに大切なのは放射線量だけではないということ。全町避難指示のため自宅から離れて暮らしていた双葉郡楢葉町出身の子どもたちの声を例に挙げて説明しました。実は、福島一中で、このワークショップを行った前の週の7月6日には、9月に楢葉町の避難指示が解除されることが発表されていました。そして、その発表の数日後に、双葉郡楢葉町出身の子どもたちと町に帰るかどうかの話し合いをしたところ、多くの子どもたちにとって大切だと思うことは、線量とかインフラではなく、友だちが帰るか帰らないかということでした(その時の様子はこちら)。この話を福島一中の子どもたちに伝えると、みんな、ちょっと意外な様子。
そして、ふたつ目は、楢葉町のように国の指示で避難する地域だけではなくて、自分たちの意思で避難する「自主避難者」と呼ばれる人たちがいること。実は、子どもの自主避難者の中では、もっとも数が多いのは福島市の子どもなのです。「知ってましたか?」と福島一中の生徒に問いかけると、少しきょとんとした顔。「避難者」というと遠く離れたところでの出来事ととらえがちですが、実は自分の身近にも存在すること。そんなことをワークショップに参加した子どもたちは少し気がついたでしょうか。
留学生からのメッセージ
最後に、留学生から子どもたちへのビデオメッセージをみんなで見ました。ジェレミーさんは言います。「福島の人が、今、取り組んでいることは驚くべきことであり、遠い未来の人々は、『自分たちが今あるのは福島の人たちのおかげ』と言うと思う。」 ニックさんは、ガッツポーツで、「がんばって」とエールを送り、そして、テイテイさんは素敵な笑顔で「このままでいてください」と優しく語りかけてくれました。
【動画:留学生からのメッセージ】
このワークショップに参加した子どもたちは、これから進学や就職して、いろいろな場でいろいろな人と出会い、交流していくでしょう。「福島で何があって、自分はそのことについてどう考えるか」を話す機会も少しずつ増えていくかもしれません。そんな時、このワークショップを思い出しながら、自分の考えを深めることができるといいなと思っています。
(報告:福島事務所 五十嵐和代)
<放射能リテラシーワークショップについて>
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、福島プログラムの一環として、2013年9月から放射能テラシープロジェクトを始めました。このプロジェクトは、福島の子どもたちが、放射能ついて学び、さまざまな情報や報道を読み解き、自分なりに判断する力を身につけることを目的としています。昨年11月から試作版ワークショップが始まり、2015年7月現在、福島県福島市といわき市、双葉町、楢葉町の中学校、いわき市と郡山市の放課後児童クラブで実施しています。