【福島:放射能リテラシー(17)】 避難ってどんなこと?転校、引っ越し、家族、友だち

東日本大震災、それに続く福島第一原子力発電所の事故の発生からもうすぐ5年が経ちます。原発事故を経験した子どもたちの中には、学校が変わったり、住むところが変わったり、家族が離れ離れになったりなど、生活が大きく変わってしまった子どもも少なくありません。避難している子、避難を終えてもどってくる子、避難しないで福島で暮らしている子ども、、、それぞれどんな毎日を過ごし、どんな悩みを持っているのでしょうか。


セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが、NPO法人市民科学研究室の上田昌文(あきふみ)さんと共に、福島県の子どもたちを対象に行っている放射能リテラシーワークショップでは、自分たちの周りで起こっている福島第一原子力発電所の事故後に生まれた社会的な問題について知り、話し合う機会を作っています。


今回のブログでは、放射能リテラシーのブログ(16)に続き、2015年9月から10月にかけて、福島県いわき市立江名中学校で1、2年生が取り組んだ「避難ってどんなこと?~ 転校、引っ越し、家族、友だち~」というワークをご紹介します。





ワーク:避難ってどんなこと?~ 転校、引っ越し、家族、友だち~

今回のワークショップで行うワーク「避難ってどんなこと?~ 転校、引っ越し、家族、友だち~」は、原発事故後の住む場所をテーマにして、子どもたちの生活がどのように変わってしまったかを知り、それぞれの子どもたちがどんな不安や想いを抱いているかを考えることを目的としています。


まず、ワークの初めに、江名中学校の子どもたちに避難経験があるかを聞いてみました。すると、どのクラスでも、十数人の子どもたちがパラパラと手をあげます。江名中学校は海岸沿いにある学校で、この学区域には、放射能の影響だけでなく、津波で被災した家庭の子どもも大勢います。当時小学生だった子どもたちの多くは、一時期、別の学校に用意された仮設校舎にスクールバスで通ったり、友だちと離れ離れになったという経験をしています。また、国の指示でいわき市に避難して江名中学校に通っている子どもたちもいます。


そんな自分自身の経験を思い起こした後に、今度は、原発事故を経験した人たちが、今、どのような生活を送っているかを「避難」という言葉をキーワードにして確認してみました。避難した人、避難しなかった人、避難後にもどった人、もどらずそのまま移住した人、これからどうしようかと考えている人などをグループに分けた図を子どもたちに見せながら説明します。大切なことは、このグループ分けにすべての人があてはまるわけではないこと、「避難」とひと言で言っても、その形態はさまざまであること、そして、避難した人も、しなかった人も、その決断にはそれぞれの理由があること、これらをワークショップに参加した子どもたちがきちんと理解することです。避難の概念図はこちらをご覧ください。



「震災や原発事故の後、避難した経験のある人は?」 江名中学校2年生のワークショップで。


4人の子どもたちの悩み
次に、避難に関係してのハヤシさん、カワダさん、ミズタさん、タニさんの4人の悩みを紹介します。どんな悩みを持っているのでしょうか?


ハヤシさん(避難しませんでした): ぼくのうちは、避難しませんでした。今度、原発事故の後、転校した友だちがひとりもどってくるんだ。帰ってくるのはうれしいけど、友だちはどんな気持ちかな?住んでいたとこのこと、前の学校のこと、聞いてもいいかな?
カワダさん(国の指示で避難しました): 私が住んでいた町は原発から近くて、国の指示で今でも住むことができません。これまで、3回引っ越して、学校も4回変わりました。大変なこともたくさんあったけど、今の生活も慣れて、このままここに住みたいなと思うけれど、町のことも忘れたくないなと思っています。
ミズタさん(避難指示が解除になってもとの町にもどります):私の住んでいた町は、国の指示で避難を続けていましたが、来年、町に帰れることが決まりました。私の家族は帰ることになったけど、友だちや親せきは、今、住んでいるところにもう家を建てたりしたから帰らないんだって。町にもどれるのはうれしいけど、ちょっと複雑かも、、、。
タニさん(自主避難を終わりにして、もどります): ぼくは、事故が起こってから、お母さんと妹と自主避難しています。お父さんは、仕事があるので避難しないで、もとの家に住んでいます。今度、ぼく達、前の家に帰ることになりました。家族でまたいっしょに暮らせるのはうれしいけど、今の学校の友だちと別れるのはいやだな。新しい学校で友だちができるかも心配なんだ。


4人の悩みが紹介された後、参加者はグループに分かれて、それぞれの悩みについて、自分が感じたことをカードに書き出します。1年生も2年生も、たくさんの意見を書きました。さあ、どんなカードが出たでしょうか?



4人の悩みについて、自分の考えを書いていきます。江名中学校1年生のワークショップの様子。


子どもたちの意見:ハヤシさんとカワダさん
原発事故後もずっと福島で暮らすハヤシさんは、今度、避難から戻ってくる友だちに避難生活について聞いていいのかちょっと心配そう。そんなハヤシさんには「友だちなんだから聞いてもいいと思う」「変によそよそしくするのは逆に差別になる」という意見が多くあがった一方で、「少しずつ聞いて、大丈夫そうだったら聞いてみる」「傷つけるかもしれないから、聞かないほうがいい」という転校生を気づかうカードも出ました。


一方のカワダさんは、国の指示で避難が続き、引っ越し・転校を繰りかえしています。今の生活にやっと慣れてきましたが、ふるさとも忘れたくありません。「時々、町に帰ればいいんじゃない?」「前に住んでいたところの写真やビデオを撮って、忘れないようにする」「思い出のものを持って住んでいる人と仲よくなる」といったふるさとを忘れないようにするための意見と、「昔のことは忘れて、今を楽しもう」というような現実路線の意見の両方が出されました。また、カワダさんと同じような経験をした参加者から「自分も同じ。でも、今楽しく過ごせている。忘れたりはしたくないけど、今を楽しく過ごすのが大切。一時帰宅をしたりすればいい」といようなカードが出されました。


ハヤシさんとカワダさんのカード、たくさん出ました!一部をご紹介します。



ハヤシさんの悩みについて感じたこと。とても多くの意見が出ました。




カワダさんの悩みについての意見の一部。同じような経験をした参加者もいました。


子どもたちの意見:ミズタさんとタニさん
ミズタさんは、国の避難指示が解除されて、もとの町にもどりますが、同じ町の人でも帰らない人も多く、複雑な想いです。そんなミズタさんの悩みには、なかなか思いを寄せるのが難しそう。隣の子と話し合いながら、少しずつカードが出始めます。「ほかの人のことは気にしないで、帰れるなら帰ったほうがいいと思う」「もどれることに感謝するべき」「友だちや親せきに時々会いにくればいい」といった町にもどることを受けいれたほうがいいという意見が多数派である一方、「無理にもどらなくてもいいのでは」という意見も出ていました。


タニさんは、自主避難を終えて、もとの町にもどることになりましたが、今の学校の友だちと離れる寂しさと、新しい学校で友だちができるかどうかという不安を感じています。「大丈夫、友だちはすぐにできるよ」「自分から話しかけてみよう」という意見がとてもたくさん出されました。江名中学校の和やかな雰囲気がそのまま子どもたちのカードにも表れているようです。また、「前の友だちも大事だけど、前向きになれば新しい友だちもきっとできる」「友だちと別れても、つながれる何かを見つければいい」というような別れる友だちとの交流について意見を出す子どもや、「人は別れる時も出会う時もある。だから新しい友だちができる」といった、達観したカードを出す子どももいました。


ミズタさん、タニさんの悩みにも多くの意見が出ました。その一部をご紹介します。



ミズタさんの悩みについての意見。いろいろな視点からのカードが出ました。




タニさんの悩みについて感じたこと。新しい学校での新しい生活を応援するカードがたくさん!


それぞれのグループが、4人の悩みについていろいろなカードを書きました。内容が似ているカードをまとめて、グループごとに発表していきました。



「このカードとこのカード、似ているよね」江名中学校1年生のワークショップの様子。




今回のワーク「避難ってどんなこと?~ 転校、引っ越し、家族、友だち~」では、原発事故の後、生活環境が変わってしまった子どもたちの状況を、「避難」という切り口で考えてみました。原発事故からもうすぐ6年目を迎える今、「避難」や「帰還」の形はますます多様になっているようです。また、避難せずに福島県で生活されている方々もいろいろな想いを胸に日々過ごされていらっしゃるでしょう。



このワークショップに参加した子どもたちは、これから、進学したり、就職したりして、いろいろな経験を持つ子どもと知り合うでしょう。そんな時、ワークショップで話し合ったことを思い出し、出会った子どもたちが過ごしてきた日々を思いやることができるよう願っています。



「避難ってどんなこと?~ 転校、引っ越し、家族、友だち~」のワークは、4人の事例を再編集し、2016年4月に完成予定のセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの放射能を学ぶためのハンドブック「みらいへのとびら ~ 話してみよう、自分のこと、みんなのこと、放射能のこと ~」に収められます。ハンドブック版の4人の事例シートはこちらをご覧ください。ハンドブックができたら、みなさんもぜひやってみてくださいね。
(福島事務所 五十嵐和代)



<放射能リテラシーワークショップについて>
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、東日本大震災復興支援事業福島プログラムの一環として、2013年9月から放射能リテラシープロジェクトを始めました。このプロジェクトは、福島県の子どもたちが、放射能について学び、さまざまな情報や報道を読み解き、自分なりに判断する力を養うことを目的として、2013年11月から子ども向けの放射能リテラシーワークショップを実施しています。これまで、福島市、いわき市、郡山市、双葉町、楢葉町で主に小中学生を対象にワークショップを行っています。


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