その広告は、子どもたちへの影響を考えていますか?―子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン



あなたは、巷にあふれている色とりどりの広告が、子どもにもたらす影響について考えたことがあるだろうか?

これまで、子どもをマーケティングや広告の対象とした、様々な研究が行われてきた。国内では少子化の時代に入り、一人の子どもが両親と両祖父母の計6人分のポケットにある財布を独占できるようになったことを表す用語である「シックスポケッツ」から、近年ではさらに親戚や親の友人などのポケットが加わるとされる。この複数のポケットをターゲットとした現代のマーケティングや広告は、あらゆる手法を駆使して、子どもたちを含む消費者の欲求を刺激し、消費行動に影響を及ぼすことを目指す。

子どもは情報の性質を理解し、判断を下すための能力を養う発達途上にあり、見るもの、聞くものをそのまま受け入れる傾向がある。そのため、番組と広告の区別がつかない、広告の目的が理解できないなど、大人よりも情報に影響されやすいという特性を持つ。

■日本では、広告が子どもに及ぼす影響について、これまであまり問題視されてこなかった

日本では、一般的に広告はどちらかというと好意的に受け入れられ、その情報や表現が子どもに及ぼす影響については、あまり問題視されてこなかった。しかし、広告が子どもの嗜好や消費傾向、さらに自尊心や価値感にまで影響を及ぼすことは、ジュリエット・B・ショアの著書『子どもを狙え!キッズ・マーケットの危険な罠』や世界保健機関の食品広告と肥満との関係性の研究などを通して、広く検証されている。

そのため、諸外国では、子どもを対象としたマーケティングや広告に様々な規制が設けられている。例えば、カナダのケベック州やスウェーデンやノルウェーでは、12歳以下の子どもを対象とした広告は禁止されている。また、ベルギーやフランスでは、番組と広告の区別がつかない子どもに配慮して番組の直後にワンクッションを設ける、一定の時間を置いて広告を流すといった配慮を求めている。

広告表現の上で子どもに対する配慮が必要とされるのは、暴力や差別的な表現、親の買い物に対する子どもの影響力の拡大、友人関係に入り込み不安をあおる戦略、商業主義的な価値観の植え付けなど、多岐に渡る。

日本では、子どもに対する広告表現上の配慮は日本民間放送連盟の「児童向けコマーシャルに関する留意事項」をはじめ、業界ごとの自主規制を通じて行われているが、その規制力は限定的で、子どもは日常的に多くの広告に晒される環境に置かれている。

■「子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン」が完成

こうした状況を背景に、昨年9月にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが呼びかけ、NGO、企業、有識者、関連機関等から構成される「子どもの権利とマーケティング・広告検討委員会」(座長:松本恒雄 国民生活センター理事長)を発足させ、今年10月に、企業の広告やマーケティングにおいて子どもに対する影響への認識と配慮を促すことを目的とした「子どもに影響のある広告およびマーケティングに関するガイドライン」を完成させた。

ガイドラインは、何ら強制力を持つものではないが、子ども向け商品・サービスの広告やマーケティングを行う場合に留まらず、すべての企業があらゆる広告やマーケティングを行う際に、子どもに及ぼす影響、ひいてはより広く人権の尊重・推進という観点からそのあり方を見直す指針となることを目指している。

近年、国内では広告やPRにおいてその表現が差別的あるいは人権を侵害していると問題視され、発信元が対応を迫られることが増えている。以前にも増して情報の拡散力が高まっている状況や、2020年の東京オリンピック・パラリンピックも見据えると、人権を尊重し国際基準にも則した広告表現への配慮は、日本の企業にとって差し迫った課題とも言えるのではないか。

本ガイドラインが、責任ある広告・マーケティングに関する国内の議論を喚起し、子どもたちの健やかな成長や、子どもが本来持つのびやかな感性や自尊心を育み、非暴力や多様性の受容や持続可能性につながる価値観を醸成するような社会の形成への一助となることを願う。

FAIR MARKETING For Children~子どもに配慮ある広告を~コンセプト動画


アドボカシー・マネージャー 堀江由美子
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