モンゴル 事業開始から1年半「インクルーシブ教育推進事業」

モンゴル事務所では、多様なニーズを持つ子どもを受け入れる教育環境の整備を目指し、2018年3月から「誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業」を実施しています。今回は、1年目から現在に至るまでの事業の様子をお伝えします(事業の詳細は、過去の記事をご参照ください)。

うれしい変化
教員

2018年12月、事業の対象となる公立小学校8校とモンゴル政府運営の「生涯学習センター」8学級の教師などが、個別支援を必要とする子どもへの適切な指導のための研修に参加しました。研修の前後で理解度テストを実施したところ、研修を受けた教師の97.8%の知識が向上されたことが確認できました。


ウランバートル市の事業対象となる公立小学校の教師向け研修。
視覚障害の疑似体験を行っている様子(2018年12月撮影)

さらに、知識の向上とともに、教師たちがインクルーシブ教育に対して前向きな意識を持つようになっていることも感じられてきています。対象校の公立小学校の研修主任のトヤーさんは、「はじめは、この事業に関わるとさらに仕事の量が増えて大変だから、事業に参加するというのを聞いて少し『嫌だな』という思いでした。でも、研修を受けてから、インクルーシブ教育の大切さがよく分かりました。今は事業に参加できてよかったと思っていますし、一番の収穫は、特別な支援が必要な子どもに対する自分自身の態度が変わったことです」と率直に自分の思いを話してくれました。


ウブルハンガイ県の事業対象となる公立小学校の授業風景。教師が、個別の課題に取り組む子どもたちの
机の間をまわって、支援が必要な子どもがいないか確認している様子(2019年2月撮影)

別の公立小学校の教師のツェツェレクさんは、「事業に関わる前までは、『特別な支援が必要な子どもはかわいそうだな』と思っていました。だから、授業でも、特別な支援が必要な子どもには簡単な課題しか与えていませんでした。でも、事業に関わるようになってから、教師が適切な方法で支援をすれば、子どもたちは学ぶことができることが分かりました」と自身の変化について語っていました。

保護者
このような教師の意識の変化について、保護者も安心していることが聴き取りを通して分かりました。ウランバートル市に住む知的障害のある子どもを持つドルマーさんは、「子どもの入学のために、これまでに地域の学校3校を訪れましたが、どの学校の校長も私の子どもを『(障害のある子どもを対象にした)特別学校に入学させた方がよい』と言って、入学を断られてしまいました。途方に暮れていましたが、事業の対象となっている学校を訪れた時、校長はじめ、他の教職員が私の子どもを温かく迎えてくれました。毎日、安心して子どもを学校に通わせています」と安心した表情で話していました。

子ども
教職員の意識の変化に安心したのは、保護者だけではなく、子どももでした。対象となる生涯学習センターの学級に通うゾリグさん(10歳)は、「前の学校では、先生がクラスのみんなの目の前で僕の宿題を破ったり、僕を怒鳴りつけたりして怖くなって学校に行けなくなりました。そこで、家の手伝いをしながら、2年間自宅で過ごしていました。でも、今の学校に来てからは、先生たちは優しくて、私の好きなこともできるので毎日楽しいです」と自身の経験を話していました。

彼は、事業の一環で行った生涯学習センターと公立小学校との交流活動の「詩の朗読コンテスト」で、今年優勝し、セーブ・ザ・チルドレンが学校を訪問した時に、堂々と詩を朗読してくれました。


ウブルハンガイ県の事業対象となる公立小学校の授業風景。教師が「数あてゲームをしましょう!」と
声を掛けると楽しそうに活動に参加する子どもたち(2019年2月撮影)


今後取り組むべき課題-350人もの学校に通っていない子どもたち

ここまでお伝えしたように、研修前後で子どもたちを取り巻く環境に良い変化があった一方で、事業に関わる関係者にとって大きな課題も浮上しています。2019年3月から4月の間に実施した調査から、事業の対象となっている地域で、350人もの学校に通っていない子どもがいることが明らかになりました。

この350人の子どもたちのうち63.8%以上が障害のある子どもでした。なぜ学校に通っていない大半の子どもが障害のある子どもで、また、地域の人にも気づかれずに過ごしてきたのでしょうか。この問いに対する回答は、調査に携わったウランバートル市の地区の行政担当者の次の発言からその一因を知ることができました。
「今までは、障害のある子どもは、学校に行っても学べないと思い、学校に通っていない子どもとして数えていなかった」

現在、セーブ・ザ・チルドレンは、モンゴル教育省、地区の行政担当者、教職員など事業関係者全員と協力しながら、350人の子どもたちが教育を受けられるよう対策を立てています。

事業開始から1年半が経ち、教職員、保護者、子どもの前向きな変化を事業の現場で直接見聞きすることができるのは、この事業に関わるすべてのスタッフの大きな励みになっています。しかし、その一方で、学校に通っていない350人の子どもたちと保護者に対しての具体的な支援の実施は、これから本格的に始まります。子どもと保護者の話にしっかりと耳を傾けながら、一人ひとりのニーズに合った支援ができるよう、今後も最善を尽くして事業を進めていきます。

本事業は皆さまからのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
(報告:モンゴル駐在員 大場 ありさ)
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