(公開日:2020.03.13)
シリア危機9年 イドリブの衛星画像分析で深刻な破壊と避難状況が明らかに 紛争の激化で過密状態のキャンプがさらに劣悪な状態に
- プレスルーム
- •ハーバード・ヒューマニタリアン・イニシアティブ、セーブ・ザ・チルドレン、ワールド・ビジョンによる新たな衛星画像の解析で、子どもたちが耐え難い苦しみを経験していることが明らかになった。
- •北西部の最前線の2ヶ所の町で調査した結果、建物の三分の一近くが深刻な被害を受けているか破壊されているため、市民が家に戻ることはほぼ不可能。
- •衛星画像によると、紛争が10年目に突入する今、イドリブ北部にある2ヶ所の避難民キャンプは、2017年と比較するとそれぞれ100%と177%の規模で拡大している。
紛争により、シリア北西部イドリブ県では、同県45%にあたる地域から百万人近く(うち半数は子ども)が避難を余儀なくされています。避難を強いられた人たちは、過密状態の避難民キャンプで、非人道的な生活を強いられています。
2020年3月15日にシリア紛争が十年目を迎える中、ハーバード・ヒューマニタリアン・イニシアティブ、セーブ・ザ・チルドレン、ワールド・ビジョンは、2019年4月に始まった軍事攻撃が一般市民の生活に与えている影響についての分析結果を発表しました。2019年12月からだけでも100万人近くが家を追われました。
ハーバード・ヒューマニタリアン・イニシアティブの 「シグナル・プログラム」 が分析した一連の衛星画像によると、イドリブ県の南部と東部の複数の地域で、攻撃による深刻な被害が確認されています。分析をした研究者たちは、建物の三分の一近くが大きな被害を受けたか、破壊されたと推定しています。これらの地域の市民のほとんどが、攻撃の前または最中に避難しており、家屋や重要なインフラが破壊された今、家族が家に戻ることはほぼ不可能だろうと、セーブ・ザ・チルドレンとワールド・ビジョンは述べています。
別の一連の衛星画像は、2017年以降、面積が倍以上に拡大したイドリブ北部の避難民キャンプの様子をとらえています。非公式キャンプおよび公式キャンプが、以前は農地だった地域まで拡大しているのが分かります。どちらも、人口密度は2018年から高まり、2019年は特に急激に高まりました。
家族と避難民キャンプで暮らしているオスマンさん(9歳)は次のように話しました。
「攻撃を逃れるために、家を離れ、車でここに来ました。ぼくたちは住めるような場所を見つけることができませんでした。モスクにしばらくいたら、ここに連れて来られました。友だちもみんな離ればなれになってしまって、ぼくの町には誰も残っていません。彼らはそこにいる全員を殺しましたから。」
ファディさん*(15歳)は、空爆で腕を失い、村から避難しました。
「ひどい攻撃でした。マットレスと毛布と服以外は何も持てませんでした。腕を失ったとき、ぼくは死んだような気がしました。今は、弟と片腕でレンガ運びをして家計を支えています。」
ハーバード・ヒューマニタリアン・イニシアティブ「シグナル・プログラム」のケイトリン・ハワース氏は次のように述べています。
「私たちは2017年から2020年2月26日までの画像を見直し、対象となった地域や避難民を受け入れている地域の変化を評価しました。この期間中、主要なインフラや人口密集地域が空爆や地上戦の影響を強く受け、一部の地域はほとんど居住不可能になっているようです。衛星画像解析だけでは居住可能地域と空地を完全かつ正確に把握することはできませんが、以前居住していた地域の破壊とそこからの大規模な移動により、人道危機は事実上悪化しています。この人口は300万人を超え、その三分の一はわずか3カ月以内に移動しています。」
セーブ・ザ・チルドレンのシリア事業ディレクター ソニア・クシュは、次のように述べています。
「容赦ない爆撃は、数週間のうちにイドリブ県の大部分を無人にし、数十万人もの子どもや女性に壊滅的な影響をもたらしました。50万人の子どもたちが、トルコとの国境にある過密状態のキャンプで避難生活を送っています。ここでは、以前は日常だった眠るための暖かい場所や安全な水、栄養のある食事を得ることはできず、また、教育の機会もありません。避難している家族は、避難生活の限界を超えた状態にあり、現場で活動するパートナー団体は支援ニーズの大きさに圧倒されています。戦闘が劇的に縮小しない限り、シリア紛争10年目の今年は、最も血塗られた年になるかもしれません。子どもたちが大勢死傷したり、家を追われたりするのを、世界はいつまでも傍観していられないのです。」
ワールド・ビジョンのシリア難民事業ディレクターのヨハン・ムージ氏は次のように述べています。
「シリアの子どもたちは、飢え、寒さ、そして自分たちが目撃し経験したことに深い悲しみを感じながら、毎日のように私たちのところにたどり着きます。イドリブに住む人々の多くはシリアの他の地域出身で、短い人生の中で強制移住と紛争しか知りません。5歳や6歳の少年少女は、あらゆる種類の爆弾の名前をその音で呼ぶことができますが、教育の機会を逃したために名前を書くことすらできない子どももいます。いかなる子どもも、このような苦しみや身震いするような経験から守られるべきです。私たちは彼らを支援するために努力していますが、十分に繰り返すことはできません。持続的な停戦だけがこの不幸を終わらせることができます。」
この調査は、9年間の紛争で最悪の人道危機を経験したシリア北西部で行われました。子どもたちは、この紛争の最初の犠牲者です。国連によると、2020年の最初の月に北西部で少なくとも77人の子どもたちが死傷しました。また、2月25日に、イドリブで10の学校と幼稚園が爆破され、9人の子どもが死亡、数十人が負傷したと伝えられました。この地域では、推定28万人の学齢期の子どもたちの教育が、深刻な影響を受けています。
セーブ・ザ・チルドレンとワールド・ビジョンは、すべての紛争当事者に対し、国際人道法と国際人権法を尊重するよう呼び掛けています。すべての当事者は、学校、病院、その他の重要な市民生活に欠かせないインフラを攻撃から守り、人口密集地での爆発兵器の使用を避けるべきです。爆発兵器の影響を極めて受けやすい子どもたちを守るためには、特別の努力が払われるべきです。また、すべての紛争当事者に対し、支援団体が支援活動をできるよう、現場への安全なアクセスを求めています。
国際社会にとって、それは、平和的な終結を確実なものとし、シリアの失われた世代の子どもたちの回復や復興に改めて焦点を当てる、重大な分岐点となるでしょう。国連安全保障理事会と影響力を持つ国々は、子どもたちを守るためにさらに多くの策を講じるという政治的意思を示さなければなりません。
編集者へのメモ:
・昨年、ハマ北部、イドリブ南部、アレッポ西部では、二つの大規模な軍事攻撃が開始された。一つは2019年の4月から8月にかけて、もう一つは2019年の12月から今日まで続いている。
・イドリブの人口の大部分 (45%以上) が住んでいる地域の推定減少率は、2019年3月と2020年2月に入手できた地図とオープンソース資料に基づいて算出された。これは、シリア政府がある地域を奪回し、住民の大多数が去ってさらに北に移動したことによる、領土支配の変化を表している。
・土地の広さは変化しているが、人口はほぼ同じで、子どもの50%を含む300万人以上。
・セーブ・ザ・チルドレンは、子どもたちの生活を救い、向上させる活動に取り組んでいます。私たちは、子どもたちが最も必要としているときに、保健医療、食料、シェルター、教育および子どもの保護サービスを受けられるように努めています。私たちは、すべての子どもたちが健康に成長し、質の高い教育を受け、安全に暮らせるようにすることで、その能力を最大限に発揮できるよう支援しています。
・ワールド・ビジョンは、シリア危機の影響を受けたすべての国の子どもと家族を支援する世界的な援助機関です。シリア北西部では、パートナーとともに、10を超える医療施設、保護活動、生活に不可欠な水と衛生の提供、避難所、冬用キット、基本物資による緊急支援を実施しています。
・ハーバード・ヒューマニタリアン・イニシアティブの 「人間の安全保障と技術に関するシグナル・プログラム」 は、ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の一部です。2012年以来、シグナル・プログラムは、人道上および人権上の緊急事態において、情報通信技術の安全、倫理的かつ効果的な使用を実践コミュニティに促してきました。ハーバード・ヒューマニタリアン・イニシアティブは、危機的状況にあるコミュニティに権限を与えるための研究と教育を実施しています。詳細については、https://hhi.harvard.edu/research/signal
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【本件に関する報道関係者からのお問合せ先】
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 広報 太田
TEL: 03-6859-0011 E-mail: japan.press@savethechildren.org
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