(公開日:2020.06.29)
体罰禁止についてモンゴル政府関係者インタビュー(1)
- モンゴル
国内で親・養育者などによる子どもへの体罰禁止を初めて盛り込んだ改正法が2019年6月に成立し、2020年4月に施行されました。日本は世界で59番目の体罰全面禁止国となり、今後ますます子どもを暴力から守る取り組みが求められています。
他国の取り組みを通じて学べることは多くあります。たとえば、モンゴルでは2016年に体罰が全面禁止となり、ここ3年間で、体罰を含めた子どもへの暴力を減らすためにさまざまな施策を実施しています。
今回、モンゴル労働社会保障省の大臣および家庭子ども青年開発局長にそれぞれインタビュー(※1)を実施し 、当時のモンゴル国内での体罰禁止の流れや、体罰禁止後の施策、現在の社会の変化などについて聞きました。
※1 局長とは2020年2月21日、大臣とは同年3月6日にウランバートル市内でセーブ・ザ・チルドレン モンゴル事務所のスタッフがインタビューを実施。
インフ・アマル家庭子ども青年開発局長へのインタビュー
Q.モンゴルにおける体罰禁止の流れや内容を教えてください
国連事務総長は、2003年から2006年にかけて実施した、すべての国連加盟国における子どもへの暴力について2006年に調査報告書を発表しました。調査によると、あらゆる社会環境の中で子どもへの身体的・精神的な罰が多いという結果が出ています。また国別で、この問題にどのような措置をとっているかを取り上げています。調査の結果、加盟国に対し親が暴力によらないしつけを学ぶための支援を政府が行うべきだという勧告をだしました。
モンゴル政府はこの勧告をすぐに受け入れて、2016年には子どもの権利法と子ども保護法を新たに制定しました。またドメスティック・バイオレンス(DV)防止法と教育法も改正しました。法令では 子どもの教育、養育に際し、親、法定保護者、親族、教員は非暴力的なしつけの方法をとらなければならないとしています。また子どもは、あらゆる場面で体罰等、虐待、ネグレクト(育児放棄)、不適切養育、搾取から保護されるとされています。
Q.子どもに対する体罰の法的禁止により、国の政策にプラスの影響はありますか
政策や法の改正により体罰等への従来の受容的な考え方が見直され、社会心理、伝統、文化、そして家庭教育が変化し始めています。以前は 子どもが悪いことや間違えをしたとき、体罰等は子どものしつけ方として受け入れられていました。現在、モンゴルでは、すべての成人が親として子どもと関わるときに、たたいたり、精神的な苦痛を与えない、肯定的なしつけ方を熱心に学んでいます。
また、法律の制定と施行にあたり、独立機関の家庭子ども青年開発局が新たに設置され、過去3年間で、多くの施策を講じてきました。法律の運用のため、政府は子どもを暴力から守り保護するための特別予算と年間の活動予算を割り当てています。その他の部分でも改善の余地はまだあります。
Q.体罰禁止後、子どもの体罰を実際に減らすために、政府はどのような取り組みを推進していますか
法律上、労働社会保障省および家庭子ども青年開発局は、モンゴルのすべての人々のために政策を立案し、戦略、目標、計画をたて、子どもへのあらゆる体罰等をなくす、効果的な対策を講じる責任があります。
国は2018から2020年、「肯定的なしつけをしよう!」キャンペーンを展開しています。キャンペーンでは、就学前と小中学校、高等学校の教員向けにファシリテーターを養成する講習会と、親向けに子どものこころや発達段階を知ったうえで関わっていく、肯定的な子育ての方法論の講習会を、数多く実施しています。
Q.上記のキャンペーンはどれくらいの規模で行われているのでしょうか
2018年には、肯定的な子育てを広めるため、教師と親を対象にした3種類の講習プログラムがつくられ、ファシリテーター1,578名、講師50名が誕生しました。また、ファシリテーターと講師を通して、8,240人の教師と53,600人の親が、855のトレーニングセッションに参加しました。
2019年には、家庭子ども青年開発局の地方支部に、統合計画に沿った取り組みを実施するよう求める通達を出しました。肯定的なしつけを広めるため、特別計画を作成し、21の県と首都で実施しました。
Q.こうした努力によりモンゴルの社会と保護者の態度や行動がどう変化していると思いますか
過去2年で実施した講習会や事業ついて、私たちは調査を実施しました。たとえば、講習会前後のアンケート調査では、肯定的なしつけをする親が45.7%から80.6%にまで上がり、肯定的なしつけを取り入れ、子どもと話したり、子どもと過ごしたりする時間を増やしたいと回答しています。肯定的なしつけを普及することは、あらゆる体罰等から子どもを守る一番の方法です。
Q.モンゴルで、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが関わる事業ではどのようなことがされていますか
国際協力機構(JICA)の「モンゴルにおける要保護児童支援制度の改善及び強化支援事業」では、セーブ・ザ・チルドレンとカナダのマニトバ大学が共同開発した、「毎日の子育てにおけるポジティブ・ディシプリン」プログラムの普及に取り組んでいます。2020年は、このプログラムのための75人のファシリテーターが研修を受け、親の肯定的なしつけを促進する30のグループができる予定です。DV傾向やアルコール依存など、子どもが法的支援を受けている親を対象とする計画です。今後は、教員200人をファシリテーターとして養成し、親に肯定的なしつけをするよう促すプログラムを企画する予定です。
2019年にポジティブ・ディシプリンのプログラムを受けている親の様子
Q.さらに肯定的な子育てを広げるためにどういったことが必要でしょうか
2018年にモンゴル全国児童評議会が出した勧告により、2019年に、2,764の機関や団体で親の評議会が設立され、講習会や啓発活動の計画が立てられています。子どもの保護は、家庭や子ども事業に携わる行政機関だけのものではありません。市民全体がその責任を負っています。国民の間で肯定的なしつけを促進することが重要です。これまで私たちは、子ども保護の枠組みを強化してきました。今後も子どもへ伝統文化を尊重する大切さも伝えつつ、子どもの発達支援や肯定的なしつけのための研修を実施していくことに注力する予定です。
2019年に肯定的な子育ての研修を受けた父親とその子どもたち
他国の取り組みを通じて学べることは多くあります。たとえば、モンゴルでは2016年に体罰が全面禁止となり、ここ3年間で、体罰を含めた子どもへの暴力を減らすためにさまざまな施策を実施しています。
今回、モンゴル労働社会保障省の大臣および家庭子ども青年開発局長にそれぞれインタビュー(※1)を実施し 、当時のモンゴル国内での体罰禁止の流れや、体罰禁止後の施策、現在の社会の変化などについて聞きました。
※1 局長とは2020年2月21日、大臣とは同年3月6日にウランバートル市内でセーブ・ザ・チルドレン モンゴル事務所のスタッフがインタビューを実施。
インフ・アマル家庭子ども青年開発局長へのインタビュー
Q.モンゴルにおける体罰禁止の流れや内容を教えてください
国連事務総長は、2003年から2006年にかけて実施した、すべての国連加盟国における子どもへの暴力について2006年に調査報告書を発表しました。調査によると、あらゆる社会環境の中で子どもへの身体的・精神的な罰が多いという結果が出ています。また国別で、この問題にどのような措置をとっているかを取り上げています。調査の結果、加盟国に対し親が暴力によらないしつけを学ぶための支援を政府が行うべきだという勧告をだしました。
モンゴル政府はこの勧告をすぐに受け入れて、2016年には子どもの権利法と子ども保護法を新たに制定しました。またドメスティック・バイオレンス(DV)防止法と教育法も改正しました。法令では 子どもの教育、養育に際し、親、法定保護者、親族、教員は非暴力的なしつけの方法をとらなければならないとしています。また子どもは、あらゆる場面で体罰等、虐待、ネグレクト(育児放棄)、不適切養育、搾取から保護されるとされています。
Q.子どもに対する体罰の法的禁止により、国の政策にプラスの影響はありますか
政策や法の改正により体罰等への従来の受容的な考え方が見直され、社会心理、伝統、文化、そして家庭教育が変化し始めています。以前は 子どもが悪いことや間違えをしたとき、体罰等は子どものしつけ方として受け入れられていました。現在、モンゴルでは、すべての成人が親として子どもと関わるときに、たたいたり、精神的な苦痛を与えない、肯定的なしつけ方を熱心に学んでいます。
また、法律の制定と施行にあたり、独立機関の家庭子ども青年開発局が新たに設置され、過去3年間で、多くの施策を講じてきました。法律の運用のため、政府は子どもを暴力から守り保護するための特別予算と年間の活動予算を割り当てています。その他の部分でも改善の余地はまだあります。
Q.体罰禁止後、子どもの体罰を実際に減らすために、政府はどのような取り組みを推進していますか
法律上、労働社会保障省および家庭子ども青年開発局は、モンゴルのすべての人々のために政策を立案し、戦略、目標、計画をたて、子どもへのあらゆる体罰等をなくす、効果的な対策を講じる責任があります。
国は2018から2020年、「肯定的なしつけをしよう!」キャンペーンを展開しています。キャンペーンでは、就学前と小中学校、高等学校の教員向けにファシリテーターを養成する講習会と、親向けに子どものこころや発達段階を知ったうえで関わっていく、肯定的な子育ての方法論の講習会を、数多く実施しています。
Q.上記のキャンペーンはどれくらいの規模で行われているのでしょうか
2018年には、肯定的な子育てを広めるため、教師と親を対象にした3種類の講習プログラムがつくられ、ファシリテーター1,578名、講師50名が誕生しました。また、ファシリテーターと講師を通して、8,240人の教師と53,600人の親が、855のトレーニングセッションに参加しました。
2019年には、家庭子ども青年開発局の地方支部に、統合計画に沿った取り組みを実施するよう求める通達を出しました。肯定的なしつけを広めるため、特別計画を作成し、21の県と首都で実施しました。
Q.こうした努力によりモンゴルの社会と保護者の態度や行動がどう変化していると思いますか
過去2年で実施した講習会や事業ついて、私たちは調査を実施しました。たとえば、講習会前後のアンケート調査では、肯定的なしつけをする親が45.7%から80.6%にまで上がり、肯定的なしつけを取り入れ、子どもと話したり、子どもと過ごしたりする時間を増やしたいと回答しています。肯定的なしつけを普及することは、あらゆる体罰等から子どもを守る一番の方法です。
Q.モンゴルで、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが関わる事業ではどのようなことがされていますか
国際協力機構(JICA)の「モンゴルにおける要保護児童支援制度の改善及び強化支援事業」では、セーブ・ザ・チルドレンとカナダのマニトバ大学が共同開発した、「毎日の子育てにおけるポジティブ・ディシプリン」プログラムの普及に取り組んでいます。2020年は、このプログラムのための75人のファシリテーターが研修を受け、親の肯定的なしつけを促進する30のグループができる予定です。DV傾向やアルコール依存など、子どもが法的支援を受けている親を対象とする計画です。今後は、教員200人をファシリテーターとして養成し、親に肯定的なしつけをするよう促すプログラムを企画する予定です。
2019年にポジティブ・ディシプリンのプログラムを受けている親の様子
Q.さらに肯定的な子育てを広げるためにどういったことが必要でしょうか
2018年にモンゴル全国児童評議会が出した勧告により、2019年に、2,764の機関や団体で親の評議会が設立され、講習会や啓発活動の計画が立てられています。子どもの保護は、家庭や子ども事業に携わる行政機関だけのものではありません。市民全体がその責任を負っています。国民の間で肯定的なしつけを促進することが重要です。これまで私たちは、子ども保護の枠組みを強化してきました。今後も子どもへ伝統文化を尊重する大切さも伝えつつ、子どもの発達支援や肯定的なしつけのための研修を実施していくことに注力する予定です。
2019年に肯定的な子育ての研修を受けた父親とその子どもたち