(公開日:2021.03.10)
【報告】『栄養の危機』報告書ローンチ&「東京栄養サミット2021」に向けたオンラインイベントを実施しました
- アドボカシー
セーブ・ザ・チルドレンは、2月24日に『栄養の危機』報告書ローンチ&「東京栄養サミット2021」に向けたオンラインイベントを開催しました。国内外の国際機関やNGOをはじめ、開発機関やアカデミア、民間セクター、学生など300人以上が参加し、世界的な栄養課題とその解決のために求められるアクション、さらに今年12月に日本政府主催で開催される「東京栄養サミット」に関する関心の高さが伺えました。
イベントでは、2020年12月にセーブ・ザ・チルドレンが発表した報告書「栄養の危機 (Nutrition Critical) 」についての発表に加え、外務省より東京栄養サミットに関する情報共有が行われました。また国内外から栄養支援に関わる登壇者を招き、マルチセクトラルなパネルディスカッションを実施しました。
イベントの冒頭、牧島かれん衆議院議員より、東京栄養サミットに向けた国際母子栄養改善議員連盟の取組みや、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で特に栄養不良の影響を受ける、子どもや女性に対する支援の重要性が述べられました。また昨年12月にカナダ政府主催で栄養サミットのキックオフイベントが開催されたことに触れ、栄養へのコミットメントを確保する「成長のための栄養:行動の一年」が始動しているなか、議連として日本政府へのサポートを継続することが述べられました。
続いてセーブ・ザ・チルドレンUK 栄養部長より、「栄養の危機 (Nutrition Critical) 」をもとに、世界の栄養課題と解決に求められるアクションについて解説がありました。5歳未満の子どもの死亡原因の約5割が栄養不良に起因する現状に加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2022年までに、さらに16万8,000人の子どもが栄養不良で亡くなることが予想されています。また状況の改善のために求められる、必須栄養サービスの強化や母乳育児の推進、栄養価の高い食料へのアクセスの確保、さらに栄養不良根絶の取り組みから子どもが誰一人取り残されないようにする、という4つの柱が事例とともに紹介されました。
セーブ・ザ・チルドレンは直接的な栄養支援にとどまらず、さまざまな関係機関や組織、分野と連携して子どもや養育者の社会的保護に取り組んでおり、食料安全保障と生計支援を行うことで、栄養価の高い食料へのアクセスを確保できると主張しました。現地で支援を行うNGOが、資金を柔軟に活用できる仕組みを担保することも、栄養改善のために重要なポイントとなります。
最後に、子どもの命や成長、可能性ある未来への障壁となる低栄養は子どもの権利の侵害であり、子どもの権利条約に基づいて、子どもや若者のエンパワーメント、ジェンダーや格差に配慮した栄養対策が急務であると強調しました。
次に、外務省国際協力局国際保健政策室長江副聡氏より、今年12月に東京都内で開催予定の「東京栄養サミット」について情報共有がありました。新型コロナウイルス感染症の状況を考慮しながら、オンライン、または対面との両方の可能性を視野に国内外からゲストを招き、ハイレベル・サミットとする意向が述べられました。
東京栄養サミットは栄養課題の解決に対する国際的な関心・取組を促進し、5つの柱(保健、食、強靱性、説明責任、財政)の分野において、資金・政策等のコミットメントを発表する場にするとともに、国内外の優れた栄養政策の事例や取り組みを世界に発信したいと話しました。
また9月の国連フードシステム・サミットをはじめ、栄養に関連するさまざまな機会やイベントを活用しながら相乗効果及びモメンタムを高め、国内外の幅広い関係者が栄養改善や持続可能な開発目標(SDGs)達成にむけて目標を提示できるよう、有意義な会合としていきたいと意気込みを述べました。
つづいて、栄養に関わるマルチセクターのパネルディスカッションが行われました。SUN栄養ユースリーダーのマイク・クンガ氏は、若い世代は、これまで以上に地球規模課題への取り組みや改革に向けた発信や貢献を強めているとし、ユースの役割の重要性を強調しました。さらに、マラウイが抱える深刻な栄養不良を改善するため、自身が指導する地域レベルでユース主体のコミュニティクラブや、家庭菜園や調理実習、さらにユース同士の栄養研修や啓発活動の様子が紹介されました。
また、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)で来日した際、山東昭子参議院議長、あべ俊子衆議院議員と若者と栄養について意見交換したことに触れ、東京栄養サミットにユースが参画できる仕組みを期待するとともに、自身が副議長を務める国連フードシステム・サミットのアクショントラック5(食料システムの脆弱性とショックに対する強靭性)においても、日本のユースの積極的な参加を呼びかけました。加えて国際協力機構(JICA)がマラウイで実施する栄養事業においてユースの能力強化に重点を置くことや、国連がユースプログラムの開発と支援をリードすることが提案されました。
Access to Nutrition Initiative (ATNI) 事務局長のインゲ・カウア―氏は、栄養への取り組みはSDGs達成において中心的な役割を果たしており、民間セクターの貢献も重要であることが説明されました。2013年に独立したNPOとして設立されたATNIは、主に食品・飲料メーカーの栄養に関する評価指標の作成とそれによる評価を行っています。
人々の食料安全保障と栄養改善のためにバリューチェーンの透明性を強化し、栄養に対しインパクトを与えるあらゆる企業が、東京栄養サミットで 「より良い栄養のための責任あるビジネスプレッジ」として、参加原則に沿ってSMART(具体的、測定可能、達成可能、適切、期限付き)なコミットメントを提出することに強い期待が示されました。またATNIは、栄養、食、保健分野において東京栄養サミットに向けた投資家への提言を策定しており、現在13兆6,000億米ドル規模の資産運用を行う60の機関投資家がこれに賛同していることが紹介されました。
世界銀行グループのミーラ・シーカー氏からは、人的資本の観点から栄養不良への取り組みの重要性が話されました。栄養不良は子どもの脳の発達に直接的な影響をもたらし、その後の就学や就労、健康の質など生涯にわたり多大な影響を与えるだけでなく、国のGDP(国内総生産)にも関係することが明らかとなっています。そのため、栄養への投資は子どもが胎内にいる時から2歳の誕生日までの「人生最初の1,000日」に集中することが重要だと強調しました。
また今回の新型コロナウイル感染症の世界的な大流行の影響により、発育阻害、消耗症、母親の貧血症が増加していると同時に、肥満は新型コロナウイルス感染症の重篤化リスクを高め、医療体制の大きな負担となっていることを指摘しました。世界の過体重および肥満の71%の人口は、低中所得国に集中しています。
世界銀行は、過去10年で栄養のポートフォリオを100倍に拡大させており、そのなかでも日本政府が拠出する「栄養への取組み拡充の日本信託基金」に謝辞を述べたほか、栄養への投資は道徳的な観点から必要なだけでなく経済的に利点があると強調し、多様な民間セクターにおいて栄養への投資の関心が高まることに期待が述べられました。
続いて、日本生命保険相互会社の須永康資氏より、同社の国内での取り組みや、世界銀行が発行する栄養をテーマとした「サステナブル・ディベロップメント・ボンド」への投資の経緯、また栄養が持続可能なヘルスシステムの実現のために不可欠であることが説明されました。
同社は戦後、無料診療や健康相談等を目的とした診療車サービスを実施したほか、経営する病院ではいち早く妊産婦・乳幼児の健康問題に深い関心を持ち、妊産婦への栄養指導や入院患者に対する栄養管理を実施しています。また万が一のリスクに備えることに加え「リスクを抑える」ヘルスケアサービスを提供することが、生命保険会社が果たすべき新たな役割だと述べ、そのうえで、よい栄養は病気になるリスクを軽減し、強いては持続可能なヘルスシステムの実現に繋がると強調しました。
最後に、中村丁次日本栄養士会代表理事会長より本イベント総括として、「栄養不良の要因や対策が分かっていながら、なぜ世界から栄養不良を根絶できないのか」という問いが投げかけられました。栄養不良の根本には戦争や貧困、無知、文化的価値観などさまざまな要素があり、解決のために多くの人々の絶え間ない努力が必要であることや、人々の食生活に根差した普遍的、継続的な栄養支援が重要であると強調されました。
また日本が戦後深刻な栄養不良に陥ったことに触れ、栄養改善のために実施された全国的な栄養調査や、栄養士による栄養指導や栄養教育を行ったモデルを「ジャパン・ニュートリション」とし、世界の参考になることを心から願うと述べました。
本イベントの参加者からは、途上国での栄養支援の成功事例や、東京栄養サミットのサイドイベント実施などにつき、数多くの質問が寄せられました。
セーブ・ザ・チルドレンは、今後も世界の栄養課題や東京栄養サミットに関して、発信とアドボカシー活動を継続していきます。
(アドボカシー室 大沼)
イベントでは、2020年12月にセーブ・ザ・チルドレンが発表した報告書「栄養の危機 (Nutrition Critical) 」についての発表に加え、外務省より東京栄養サミットに関する情報共有が行われました。また国内外から栄養支援に関わる登壇者を招き、マルチセクトラルなパネルディスカッションを実施しました。
イベントの冒頭、牧島かれん衆議院議員より、東京栄養サミットに向けた国際母子栄養改善議員連盟の取組みや、新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響で特に栄養不良の影響を受ける、子どもや女性に対する支援の重要性が述べられました。また昨年12月にカナダ政府主催で栄養サミットのキックオフイベントが開催されたことに触れ、栄養へのコミットメントを確保する「成長のための栄養:行動の一年」が始動しているなか、議連として日本政府へのサポートを継続することが述べられました。
続いてセーブ・ザ・チルドレンUK 栄養部長より、「栄養の危機 (Nutrition Critical) 」をもとに、世界の栄養課題と解決に求められるアクションについて解説がありました。5歳未満の子どもの死亡原因の約5割が栄養不良に起因する現状に加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、2022年までに、さらに16万8,000人の子どもが栄養不良で亡くなることが予想されています。また状況の改善のために求められる、必須栄養サービスの強化や母乳育児の推進、栄養価の高い食料へのアクセスの確保、さらに栄養不良根絶の取り組みから子どもが誰一人取り残されないようにする、という4つの柱が事例とともに紹介されました。
セーブ・ザ・チルドレンは直接的な栄養支援にとどまらず、さまざまな関係機関や組織、分野と連携して子どもや養育者の社会的保護に取り組んでおり、食料安全保障と生計支援を行うことで、栄養価の高い食料へのアクセスを確保できると主張しました。現地で支援を行うNGOが、資金を柔軟に活用できる仕組みを担保することも、栄養改善のために重要なポイントとなります。
最後に、子どもの命や成長、可能性ある未来への障壁となる低栄養は子どもの権利の侵害であり、子どもの権利条約に基づいて、子どもや若者のエンパワーメント、ジェンダーや格差に配慮した栄養対策が急務であると強調しました。
次に、外務省国際協力局国際保健政策室長江副聡氏より、今年12月に東京都内で開催予定の「東京栄養サミット」について情報共有がありました。新型コロナウイルス感染症の状況を考慮しながら、オンライン、または対面との両方の可能性を視野に国内外からゲストを招き、ハイレベル・サミットとする意向が述べられました。
東京栄養サミットは栄養課題の解決に対する国際的な関心・取組を促進し、5つの柱(保健、食、強靱性、説明責任、財政)の分野において、資金・政策等のコミットメントを発表する場にするとともに、国内外の優れた栄養政策の事例や取り組みを世界に発信したいと話しました。
また9月の国連フードシステム・サミットをはじめ、栄養に関連するさまざまな機会やイベントを活用しながら相乗効果及びモメンタムを高め、国内外の幅広い関係者が栄養改善や持続可能な開発目標(SDGs)達成にむけて目標を提示できるよう、有意義な会合としていきたいと意気込みを述べました。
つづいて、栄養に関わるマルチセクターのパネルディスカッションが行われました。SUN栄養ユースリーダーのマイク・クンガ氏は、若い世代は、これまで以上に地球規模課題への取り組みや改革に向けた発信や貢献を強めているとし、ユースの役割の重要性を強調しました。さらに、マラウイが抱える深刻な栄養不良を改善するため、自身が指導する地域レベルでユース主体のコミュニティクラブや、家庭菜園や調理実習、さらにユース同士の栄養研修や啓発活動の様子が紹介されました。
また、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)で来日した際、山東昭子参議院議長、あべ俊子衆議院議員と若者と栄養について意見交換したことに触れ、東京栄養サミットにユースが参画できる仕組みを期待するとともに、自身が副議長を務める国連フードシステム・サミットのアクショントラック5(食料システムの脆弱性とショックに対する強靭性)においても、日本のユースの積極的な参加を呼びかけました。加えて国際協力機構(JICA)がマラウイで実施する栄養事業においてユースの能力強化に重点を置くことや、国連がユースプログラムの開発と支援をリードすることが提案されました。
Access to Nutrition Initiative (ATNI) 事務局長のインゲ・カウア―氏は、栄養への取り組みはSDGs達成において中心的な役割を果たしており、民間セクターの貢献も重要であることが説明されました。2013年に独立したNPOとして設立されたATNIは、主に食品・飲料メーカーの栄養に関する評価指標の作成とそれによる評価を行っています。
人々の食料安全保障と栄養改善のためにバリューチェーンの透明性を強化し、栄養に対しインパクトを与えるあらゆる企業が、東京栄養サミットで 「より良い栄養のための責任あるビジネスプレッジ」として、参加原則に沿ってSMART(具体的、測定可能、達成可能、適切、期限付き)なコミットメントを提出することに強い期待が示されました。またATNIは、栄養、食、保健分野において東京栄養サミットに向けた投資家への提言を策定しており、現在13兆6,000億米ドル規模の資産運用を行う60の機関投資家がこれに賛同していることが紹介されました。
世界銀行グループのミーラ・シーカー氏からは、人的資本の観点から栄養不良への取り組みの重要性が話されました。栄養不良は子どもの脳の発達に直接的な影響をもたらし、その後の就学や就労、健康の質など生涯にわたり多大な影響を与えるだけでなく、国のGDP(国内総生産)にも関係することが明らかとなっています。そのため、栄養への投資は子どもが胎内にいる時から2歳の誕生日までの「人生最初の1,000日」に集中することが重要だと強調しました。
また今回の新型コロナウイル感染症の世界的な大流行の影響により、発育阻害、消耗症、母親の貧血症が増加していると同時に、肥満は新型コロナウイルス感染症の重篤化リスクを高め、医療体制の大きな負担となっていることを指摘しました。世界の過体重および肥満の71%の人口は、低中所得国に集中しています。
世界銀行は、過去10年で栄養のポートフォリオを100倍に拡大させており、そのなかでも日本政府が拠出する「栄養への取組み拡充の日本信託基金」に謝辞を述べたほか、栄養への投資は道徳的な観点から必要なだけでなく経済的に利点があると強調し、多様な民間セクターにおいて栄養への投資の関心が高まることに期待が述べられました。
続いて、日本生命保険相互会社の須永康資氏より、同社の国内での取り組みや、世界銀行が発行する栄養をテーマとした「サステナブル・ディベロップメント・ボンド」への投資の経緯、また栄養が持続可能なヘルスシステムの実現のために不可欠であることが説明されました。
同社は戦後、無料診療や健康相談等を目的とした診療車サービスを実施したほか、経営する病院ではいち早く妊産婦・乳幼児の健康問題に深い関心を持ち、妊産婦への栄養指導や入院患者に対する栄養管理を実施しています。また万が一のリスクに備えることに加え「リスクを抑える」ヘルスケアサービスを提供することが、生命保険会社が果たすべき新たな役割だと述べ、そのうえで、よい栄養は病気になるリスクを軽減し、強いては持続可能なヘルスシステムの実現に繋がると強調しました。
最後に、中村丁次日本栄養士会代表理事会長より本イベント総括として、「栄養不良の要因や対策が分かっていながら、なぜ世界から栄養不良を根絶できないのか」という問いが投げかけられました。栄養不良の根本には戦争や貧困、無知、文化的価値観などさまざまな要素があり、解決のために多くの人々の絶え間ない努力が必要であることや、人々の食生活に根差した普遍的、継続的な栄養支援が重要であると強調されました。
また日本が戦後深刻な栄養不良に陥ったことに触れ、栄養改善のために実施された全国的な栄養調査や、栄養士による栄養指導や栄養教育を行ったモデルを「ジャパン・ニュートリション」とし、世界の参考になることを心から願うと述べました。
本イベントの参加者からは、途上国での栄養支援の成功事例や、東京栄養サミットのサイドイベント実施などにつき、数多くの質問が寄せられました。
セーブ・ザ・チルドレンは、今後も世界の栄養課題や東京栄養サミットに関して、発信とアドボカシー活動を継続していきます。
(アドボカシー室 大沼)