モンゴルでのインクルーシブ教育事業:日本の書籍を翻訳し、モンゴルの先生に届ける

セーブ・ザ・チルドレンは、障害、ジェンダー、言語、宗教、国籍やその他の特徴に関わらず、すべての子どもが参加し、ともに学び、可能性を十分に発揮できるよう、個々の学習のニーズに対応した教育を提供できる環境の実現を目指しています。私たちは、このような教育をインクルーシブ教育と呼んでいます¹。

モンゴルでは、2018年3月から3年間、小学校を対象とした「誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業」を実施しました。2021年3月からは、小学校から中学校への移行期に注力した「モンゴルにおける義務教育期間を通した切れ目のないインクルーシブ教育推進事業²」を実施しています。これらの事業では、共通して、教師に対する指導法の研修や、地域社会に対するインクルーシブ教育に関する啓発活動、モンゴル全土にインクルーシブ教育を普及させるための政策提言などを行ってきました。

今回は、この事業の一環で作成し、2022年2月に完成した、イラスト付きのわかりやすい教師用教育指導本の第2回についてご紹介したいと思います。(第1回についてはこちらをご参照ください。)
今回作成した教師用教育指導本は、(第1回に引き続き)編者の月森久江氏および図書文化社のご協力・ご許諾をいただき、『教室でできる特別支援教育のアイデア 中学校編』という書籍をモンゴル語に訳して作成しました。


『教室でできる特別支援教育のアイデア 中学校編』モンゴル語版の表紙

この書籍を翻訳した背景は、モンゴルの中学校で各教科担任が指導を行う際、特別なニーズのある子どもに対する効果的な支援が普及しておらず、具体的な工夫の仕方を実用的に伝える教材が求められていたことがあげられます。

また、第1回で翻訳した『教室でできる特別支援教育のアイデア172 小学校編』を対象小学校16校の先生が日頃の指導や教職員会議で日常的に活用しており、小学校から中学校への移行期を支援する事業を開始するにあたり中学校向けもぜひ欲しいという声があがってきました。第1弾に引き続き、モンゴル国立教育大学の翻訳チームの皆さんにご協力いただきました。


モンゴル国立教育大学の翻訳チームの皆さん。第1回、第2回でそれぞれ翻訳した本を手に
(ウランバートル市スフバートル広場にて。左端の男性が来ているのはモンゴルの民族衣装デール)

書籍の文言をできるだけ忠実に翻訳することを主としながら、モンゴルの文化に当てはまらない点については、編者と図書文化社の許諾を得て調整しました。

例えば、国語の指導例で登場する日本の作品名を、『馬頭琴の誕生』に変えたり、歴史の指導例で鎌倉時代が登場する箇所を「1911年のモンゴルの独立運動について」に変えたりしました。

全体としては元の書籍の構成に従い、エッセンスはそのままに翻訳されています。翻訳チームのアイセルさんは、「この本には日本の先生が蓄積した興味深い経験が詰まっている」と感じながら翻訳したそうです。

2022年2月と9月に実施した2度の教員向け研修を経て、この翻訳本の概要を、対象とする中学校の先生方に伝えてきました。

その結果、少しずつ内容を実践する例も増えてきています。ウランバートル市第79番学校では、各教科の担当教員が、この書籍を使いながら、年間指導計画を作成しています。第37番学校では、担任の先生が、あいさつや身だしなみ、適切な言動について、書籍の内容を参考に指導を行っているそうです。


注意欠陥多動性障害のある子どもとの関わり方について講義を受ける中学校教員
(2022年9月、ウランバートル市)

最後になりますが、『教室でできる特別支援教育のアイデア 中学校編』編者の月森久江氏よりコメントを寄せていただきました。
『日本の児童生徒たちの支援や教育方法の普及のために書いた私の本が、国境を越えてモンゴルで翻訳され、活用されていることを大変うれしく思います。私の本は表題に、「アイデア」と書いてあります。指導する先生方は、この本の指導内容をヒントにモンゴルのさまざまな課題をもつ児童生徒へ、さらに個別の教材や指導方法を模索するよう研鑽を積んでいってください。いつか私が、直接皆さまへ講義できる日がくることを願っています。』

重ねて編者の月森久江氏と図書文化社のご協力に感謝申し上げます。
本事業は皆様からのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力からの支援で実施しています。

(海外事業部 モンゴル駐在員 松本ふみ)

¹Inclusive Education Position Paper | Save the Children’s Resource Centre
²本事業の詳細はこちらをご覧ください。【モンゴル 教育支援】中学校でも、すべての子どもが学ぶことができる環境を目指して:インクルーシブ教育推進事業の対象を小学校から中学校にまで拡大 (savechildren.or.jp)

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