【インタビュー】高校生への就学支援と外国につながる子どもへの日本語サポート:子ども給付金を利用した保護者の声:後編

セーブ・ザ・チルドレンは、経済的に困難な状況にあり、病気や障害がある、日本語を母語とせず支援を受けている、在留資格がないなど、生活上で特定の困難がある世帯の中学生・高校生を対象に新入学・卒業時期に給付金を提供する「セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金~新入学サポート2023~」を行いました。

前編に続き、給付金利用世帯の保護者Hさんに生活状況や子どもの学習面の困難などについてお話を聞きました。

前編の記事はこちら

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後編「個別で教えてもらうことができなくなり、子どもの成績はそこから一気に下がりました」
(高校1年生の父・Hさん、近畿地方在住)

■ついていけなくなる学校の勉強
数年前に東南アジアの国から来日したHさんの子どもは、日本語が母語ではありません。転入した小学校には、日本語指導員が常駐し、毎週2回、1日2時間ずつ2年間という枠組みで日本語個別指導を受けていました。しかし、個別指導が終わると学習言語としての日本語能力の習得が難しく、学校の勉強についていけなくなったそうです。

「中学1年生の2学期に、日本語指導の先生から個別に日本語を学べる期間が終わって、子どもの成績はそこから一気に下がりました。」
言語を習得するのにかかる時間や期間は一人ひとり異なるため、全員同じ時間数や、2年間という日本語指導の枠組みが子どもにとって十分ではなかったのでは、とHさんは感じています。

「お金を払って子どもに合う方法で日本語を教えてもらうことができれば、もっと勉強ができるだろうと思います。ただ、経済的にそうした学校には入れてあげることはできません。」

日本語が母語ではない子ども向けに、対面やオンラインの有料日本語学習コースがあります。しかし、低所得世帯の子どもたちはそうした費用の工面が難しく、学校や地域の無料教室に頼らざるを得ません。

子どもの様子から言葉の壁が、直接学校生活や学習面の困難につながるからこそ、一人ひとりの子どもに合った日本語学習の重要性を訴えるHさん。全員一律ではなく、それぞれに合った方法・期間・スピードで学習ができるような日本語指導の充実が求められます。



■ひとり親や低所得世帯向けのさまざまな支援を活用
Hさんの子どもは、学習面の補助として無料塾や地域の学習サポートも利用しています。
「高校受験のための塾に通わせてあげられず、行政主催の学習会に行っていました。そこでは、低所得世帯の受験生対象に、週1で塾の先生が教えていました。他にも小学校から中高生ぐらいまでの、ひとり親世帯の子どもたちが勉強を教わったり、おしゃべりしたり交流できる会があり、それには今も通っています。」

こうした、行政やNPOの取り組みは、子どもにとって個別の学びのサポートや安心できる居場所となっており、無償で利用できることが「ものすごいありがたいです」とHさんは言います。

大学生ボランティアに勉強を教わったり、いろいろな話を相談できたりする会に参加することを、子どもは毎週とても楽しみにしているそうです。そうした場所で自分の思いを伝えて、聞いてもらうという機会が、子どもの自信や意欲にもつながると、Hさんは感じています。

外国につながる子どもたちの中には孤立し、学校から遠ざかってしまう子どもたちもいます。2019年の文部科学省による調査  *では、外国につながる子どもたち約2万人が就学していない可能性があるか、就学が確認できていない状況にあるという結果が出ています。

外国につながる子どもたちは、さまざまな背景で孤立してしまいがちですが、Hさんの子どもが利用しているような学習支援や居場所支援は、外国につながる子どもたちの困難も包摂している状況がうかがえます。

*外国人の子供の教育の更なる充実に向けた就学状況等調査の実施及び調査結果(速報値), 文部科学省, 2019

■早いうちに高校進学情報を得られたこと
外国につながる子どもたちにとって高校の選択は一つの心配の種です。そんな中、Hさんは子どもが小学校の時に参加した外国につながる子どもたちの交流イベントで、特別選抜の制度を知ったと言います。

外国で暮らしていた子ども向けの特別選抜は、日本語での学習に困難がある生徒のために、受験科目が数学や英語といった科目に限定されたり、作文は日本語以外の言語でも可能とであったり言語上の配慮がある受験内容で、都道府県ごとや高校独自で設けられています。

「そのイベントで、こういう制度があって毎年9月ぐらいに説明会があるから来てくださいと言われました。中学1年から毎年説明会に参加し、その制度で受験しようと子どもとも話していました。説明会では、過去の受験問題をいただけ、それをしっかり勉強しておけば大丈夫と先生も言ってくれ、心強かったです」

Hさん自身、子どものためにアンテナを高く張り、さまざまな日本語学習や進学に関する情報を積極的に得るようにしていました。そうした情報を得ることで子どもと保護者の進学時の不安軽減につながっていたようです。

■帰国生徒向け支援がある高校へ通うことの良さと困難
Hさんが住む自治体には、帰国生徒向けの特別選抜がある県立高校が複数あり、子どもはそのうちの1校に入学しました。現在通っている高校では、週2、3教科の授業だけ同じクラスの生徒と一緒に学び、それ以外の教科は、同じ学年の中で、帰国生徒だけが集まる取り出し授業を受けています。

「授業をみんなと受けて、勉強が遅れてやる気をなくしてしまうより、日本語が分からない子どもたちと簡単な日本語を使いながら勉強して毎日学校へ楽しく行ってくれているほうが良いと思っています。」
Hさんは、高校で子どもに合ったかたちで勉強を進められていると感じます。

一方、そうした日本語支援がある高校は少なく、Hさんは子どもが通う学校が遠く離れているため通学時間、通学費の負担を感じています。家から一番近い場所を選びましたが、その学校でも電車で片道1時間半必要です。

「6時40分に子どもが家を出るので、お弁当を作るため毎日5時起きです。通学費もかなり負担ですね。もっと自治体で学校の費用補助を給付金の形でやって欲しいです。高校はもう給食じゃなくお弁当持参となっていて弁当の材料費も高くなっています。」

遠方から通わざるを得ないことで、通学費も高額になります。通学費の公的な補助はほとんどなく、そうした状況に加え、近年の物価上昇が低所得世帯の家計をさらに圧迫しています。


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今回話を聞いたHさんの子どもは外国につながっていますが、Hさん自身は日本出身で日本語に不自由はなく、言葉の壁を感じずに日本語の情報を理解することができました。また、積極的に情報を収集して日本語学習や勉強のサポート、進路に関する情報を早い段階で得て、子どもの進学の選択肢も広がりました。

一方、外国につながる子どもたちの中には、保護者自身も言語の困難を抱えていることも少なくなく、言葉の壁による情報格差が子どもたちの学びや進学に影響を及ぼしている現状もあります。

また、自治体によっても外国につながる子どもたちへのサポートには差があります。本来であれば、日本のどこに住んでいようとも、いつ来日しようとも、外国につながる子どもたちの学ぶ権利が保障されるような仕組みづくりが必要です。

セーブ・ザ・チルドレンは、今後も外国につながる子どもたちの生活状況や学びの環境について当事者や支援者の話を聞き、こうした仕組みづくりや制度の改善を訴えていきます。

(国内事業部 岩井)

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セーブ・ザ・チルドレンでは新入学サポート以外にも、子どもの貧困問題解決に向けさまざまな取り組みを行っています。活動の最新情報は随時こちらのページで更新しています。ご関心がある方はぜひご覧ください。



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