【カンボジア】子どもに対する暴力の撲滅に向けて少しずつ見えてきた小学校での変化

安全な場所であるべき学校での子どもに対する暴力が深刻なカンボジア。そのような状況を改善し、子どもたちが安心・安全に学校で学ぶことができるよう、セーブ・ザ・チルドレンは子どもたち、学校・地域の大人たちと協力して、暴力の撲滅に取り組んでいます。(カンボジアの学校における暴力の現状についてはこちらの記事 をご覧ください。)

セーブ・ザ・チルドレンが取り組む小学校における暴力撲滅事業の概要



少しずつ見えてきた変化


東部コンポンチャム州カンメア郡で活動を開始してから約1年が経ち、少しずつ変化が見え始めています。

「過去1ヶ月間に学校や通学路で暴力を受けたことがあるか」を子どもたちに聞いたところ、事業実施前の調査の結果は29.7%(2022年7月)でしたが、約1年後の調査では21.6%(2023年5月)へと減少しました。




また、教員たちと話をしていると、「学校内で暴力的なシーンを見る回数が減った」といった声や、「これまでは、子どもに対して叫んで叱ってしまうこともあったけれど、今は気を付けなくてはと思っている」といった声が聞かれました。

子どもに対する暴力の撲滅に向けて、学校で実施されている自主的な取り組みをご紹介します。

■ケース1:
アンドンダイ小学校では、家庭内暴力によって子どもの通学に支障が出ている家庭に対して面談を実施し、行政と連携して必要な支援を提供しました。エン・ライ・イム校長のコメントです。

「子どもに対する暴力についての啓発活動は、学校内だけではなく、地域の人たちに対しても実施しています。家庭内暴力が行われている家族と面談することもあります。女性と子どものための委員会や行政と連携し、その家族には奨学金も提供しました。」



事業でつくった子どもを守るための学校行動規範ポスターの前で話すエン・ライ・イム校長


■ケース2:
アンロンアック小学校では、校門前の道路を通る車の往来が危険であることが子どもたちによって課題としてあげられました。

そこで、下校時の安全確保のため、生徒会の発案で、生徒会メンバーと教員が看板を持って校門前に立ち、下校時刻に車の往来を止める取り組みを始めました。校内で交通ルールについて学ぶ授業も実施しました。


暴力撲滅に向けた行動計画の実施

このように、学校が自主的に暴力撲滅に向けて取り組むことを促すため、セーブ・ザ・チルドレンは事業対象の全43校にて、行動計画策定を支援しました。

まず、子どもたちが自分たちの学校で行われている子どもに対する暴力(体罰、いじめ、精神的な暴力など)について出し合い、可視化した後(詳しくはこちらの記事 )、教員や地域住民で構成される学校運営委員会と生徒会の子どもたちが中心となって学校行動計画を立てました。以下はその学校行動計画の実行例です。

■実行例:
・暴力を伴わないポジティブな行動と学校における行動規範について、朝会での啓発活動の実施
・子どもの権利、ジェンダー平等、学校で起きている暴力の問題について話し合う教師会合の実施
・生徒会メンバーによる、生徒間のポジティブな態度や交通ルールについて、授業時間を使ったアドバイスの提供
・生徒会メンバーによる、意見箱や、子どもの保護担当者、また校長を通じた、教師の不適切な指導行為についての報告

学校における暴力の予防と対応の促進に向けて

上記の子どもたちや学校による行動計画に沿った取り組みに加えて、子どもや教員、地域の大人の協力のもと、啓発活動、能力強化、規範や仕組みづくりなども実施しました。

■啓発活動

子どもたちが描いた絵やメッセージを活用した啓発ポスターとリーフレットを作成しました。暴力撲滅を訴えるにはどのような絵が良いかと考えて子どもたちが描いた絵の多くは、教員が長い棒を持って子どもを叱っている絵や、友だち同士で暴力を振るっている絵でした。




■能力強化

学校運営を支える学校運営委員会(教員および地域住民で構成)と生徒への知識の伝達を担う生徒会の子どもたちに対し、子どもに対する暴力とは何か、予防や通報の方法、そして、暴力の行使に大きな影響を与えるジェンダー平等について学ぶ研修を実施しました。


作成した研修マニュアル


■学校で子どもを守るための規範づくり

学校で子どもを守るための規範づくりにも取り組みました。カンボジアの教育省が作成した「学校における子どもの保護の実施マニュアル」に記載されている規範を参考に、子どもを傷つけないために「すべきこと」と「してはいけないこと」を教員と子どもに分けて作成しました。

子ども版は同マニュアルに記載されていませんでしたが、カンメア郡で子どもたちと議論する中で作成することになり、教員と子どもがともに取り組むことが大事であることから、どちらも記した1つのポスターを制作しました。

■地域との連携

学校で起こる暴力のすべてを校長や教員だけで対処できるわけではありません。各地域で子どもの保護を担う「女性と子どものための委員会」などの地域の制度や行政との連携も不可欠です。

そのため、事業では、暴力への予防・対応の強化や、学校における子どもの保護の取り組みへの予算増額に向けて、地域と学校の連携強化を進めています。


子どもの保護を強化するためにどのようなリソースがあるかを話し合う教育事務所スタッフや女性と子どものための委員会メンバー


このようなさまざまな取り組みを強化しながら、より自主的な取り組みを促し、カンメア郡の小学生が安心して学校に通えるよう支援を続けます。

本事業は皆様からのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力からの支援で実施しています。

(海外事業部 カンボジア駐在員 宮脇麻奈)
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