教育は危機下の生命線

サンディ*さん(9歳)。シリア北東部避難民キャンプにあるセーブ・ザ・チルドレンが運営する臨時学習スペースにて。

9月は大半の国・地域で新学年が始まる月であり、世界中の多くの子どもたちが夏休みを終えて学校に戻ります。その一方で、何百万人もの子どもたちが紛争や緊急事態に巻き込まれ、学校に戻ることができず、教育の機会を奪われています1,500万人近くの難民の子どもたちが、故郷を追われ、学習を続けることが難しい状況にあります。 

 

危機発生の当初から、教育は子どもを守り、命を救うことができます。不発弾から身を守る方法や病気の蔓延を防ぐ方法など、命を守るために不可欠なことを子どもたちが学べるだけでなく、子どもたちに精神的な安定をもたらし、必要不可欠な認知能力を取り戻す機会を提供することができるのです。 

 

セーブ・ザ・チルドレンが運営する「セーフ・スペース」は、極度の苦痛を感じている可能性のある子どもたちに不可欠な精神保健・心理社会的支援を提供します。表現アート、問題解決の練習をするゲーム、簡単な呼吸法などの学習活動は、子どもたちのこころの回復を促します。安全な大人のサポートを受けながら、友だちと一緒に学んだり遊んだりするというシンプルな日常生活こそが、子どもたちのウェルビーイング(健やかな成長)の鍵です。その後、読み書きのような学習を徐々に取り入れていきます。 

 

セーブ・ザ・チルドレンは、危機に見舞われた国々の子どもたちにとって、教育が重要であることも理解しています。子どもたちにとっては、学校に戻れるかどうかが最大の関心事なのです。  


現場で人道支援活動に従事する以下の4人のスタッフに、危機下で生きる世界中の子どもたちにとって、学ぶことがどのように命を守ることに役立っているのか、その経験を共有してもらいました。 

 

■ソハ・アブラマダン、セーブ・ザ・チルドレン緊急下の教育専門家、ガザ 


危機下では、教育は命を守るための情報を提供し、子どもたちの生存スキルと適応メカニズムを強化します。 

 

パレスチナ・ガザ地区にある私たちの学習スペースは、子どもたちが暴力や武力による深刻な心理社会的影響に対処できるよう手助けしています。こうした支援はとても重要な支援です。学習スペースにおいては、授業内容・活動内容がきちんと組み立てられ、時間割など一定の日課が組まれています。このような授業・日課を提供することで、日常性や安定の感覚を子どもたちに提供しています。学習スペースでは、危機に対処するスキルや子どもたち自身による健康管理を強化することに重点を置き、子どもたちがレジリエンスを身につけ、困難な環境でも健やかで安定した感情を維持できるよう促しています。 

 

現在シェルターで暮らす6歳のフダ*さんは、家族全員が殺害されるのを目撃し、深刻な心理社会的苦痛を受けました。フダさんは孤立し、他人との交流を拒みました。当初、フダさんの叔母は心理社会的支援や学習活動に参加するよう彼女を励まさなければなりませんでした。しかし、学習活動を重ねるにつれ、フダさんの態度は変わり始めました。髪をとかし、服を着替え、他の子どもと積極的に交流するようになりました。フダさんの叔母はこう言います: 


「フダは毎日学習スペースでの活動に参加したいとずっと言っています。髪をとかしたり、服を着替えたりするのを手伝ってもらうために、私を早く起こしてくれます。フダが再び毎日を生き生きと過ごせるようになったことを実感しています」 

 

アル・カラマ・シェルターにて支援活動を行っているスタッフは言います: 

 

「子どもたちは大きなトラウマを抱え、数多くの喪失に苦しみ、必要なサービスも不足していたため、当初はとても大変でした。心理社会的支援活動を何度か実施した上で、きちんと組み立てられた授業・学習プランに従って、学校や学習スペースに毎日通って学ぶことで、子どもたちは安心感を得て、悲しみやストレスに対処できるようになりました」 


教育は命を救います。教育はまた、レジリエンス、希望、そしてすべてを失ったコミュニティの再建の基盤をも提供することができます。 

パレスチナ・ガザ地区でセーブ・ザ・チルドレンが運営する学習スペースに通うシャディ*さん(8歳)といとこのアヤ*さん(13歳)。



■ガブリエラ・ワイジュマン、セーブ・ザ・チルドレン最高執行責任者、元グローバル人道局長 

 

2012年初頭、私は国連人道問題調整事務所(OCHA)に勤務していましたが、南スーダンでの活動を指揮するため、緊急に現地に赴くよう要請されました。南スーダンは独立したばかりで、東部にあるピボール郡では激しい戦闘が勃発していました。 

 

私たちは、保健、栄養、食料の安定供給、そして水と衛生という4つの人命に関わる分野に資金を集中させる予定でした。そこに教育は含まれておらず、人道支援のリーダーたちは、教育は後回しにすべきだと考えていました。    


私は、とある古い施設の中にある小さな会議室で、人道支援に携わる現地のチームとクラスター(注)のコーディネーターとの会議の議長を務めていました。資金調達会議を終え、南スーダンの首都ジュバの乾季の炎天下に出ると、セーブ・ザ・チルドレンの教育クラスター・コーディネーターが私に詰め寄り、こう言ったのです: 

 

「教育は命を救うものです!このことは世界的に合意されているのに、なぜ教育が軽視されているのでしょうか?教育が命を救うものだという論拠も説明します。」 

 

注:人道支援活動に際して、国連やNGOなどそれぞれの組織が個別に活動するのではなく、クラスター(分野)毎にリードする組織(リード・エージェンシー)を置き、リード・エージェンシーを中心とする組織間で協力・調整して支援活動の効果を高めるためのアプローチをクラスター・アプローチといいます。セーブ・ザ・チルドレンはユニセフとともに、教育クラスターのリード・エージェンシーとなっています。 

 

そして彼女が説明してくれた以下の内容を、私は一生忘れることはないでしょう。子どもたちには安全な場所が必要であり、危機下の教育がそれを提供するのだと。もし安全な場所が提供できなければ、子どもたちは結婚させられ、働きに出され、兵士としてリクルートされるでしょう。教育プログラムを通じて、子どもたちの見守りを行うことや、必要に応じて専門機関に子どもたちをつなぐことなど、追加的な支援も実施することができます。教育は子どもたちにとって最初に集える場所であり、そこで保護を受けることができるのです。 


危機対応の最初の段階における教育は、命を救うものです: 

それは安全のためのものであり、子どもたちが他の重要なサービスを利用するための入り口でもあります。 


それ以来、私は、危機下の教育が人命を救う分野であることを確信し、それを訴え続けてきました。セーブ・ザ・チルドレンの同僚は、私たちが子どもたちに関わる事項について子どもたちに代わって決断を下す際に、支援対象である子どもたちに対して、なぜそのような決断を下したのかを説明することなく、大人の目線で決定していることに気づかせてくれました。 

 

残念なことに、10年以上経った今も、子どもたちに代わって大人が下した決断は、説明責任を欠いています。また、パレスチナ自治区、イエメン、スーダンといった、教育が命を救う国・地域、より多くの子どもたちが日々を過ごし学ぶ機会を得られるようにする必要のある国・地域、そうしたすべての場所において、教育が最も必要とされるときに教育を後回しにするという決断をし続けているのです。 

 

トルコ地震で被災した子どもたちのためのチャイルド・フレンドリー・スペースを訪問するガブリエラ・ワイジュマン。



■ジャンティ・ソエリプト、セーブ・ザ・チルドレンUSA(米国)代表 

 

私たちが活動している現場の多く、特に紛争地域では、保健医療、水、公衆衛生、栄養、教育、シェルターなど、優先すべき課題が競合しています。残念ながら、教育の重要性が見過ごされたり、「人の命に関わるものではない」として優先順位が下げられたりする場合もあります。 

 

しかし、私たちはそうは思いません。危機下における教育は命を救うものです。子どもたちは、危機下で最も望むことは「学校に戻ること」だと私たちに言います。教育は、遊びとともに好奇心を刺激し、創造力をかき立て、子どもたちの発達を助けます。また、紛争下や精神的に不安定な時でも、心を穏やかにし、平常心を保つことを手助けします。重要なのは、友だちと一緒にいることも助けになるということです。これは、私たちの精神保健・心理社会的支援の重要な要素なのです。 

 

2023年にトルコで起きた地震の後、子どもたちが初めて私たちのセーフ・スペースに来たとき、多くの子どもたちは何も話さず、笑ったり遊んだりもしませんでした。しかし数週間後、活発で、うるさく(!)、おしゃべり好きな6歳から12歳の子どもたちに変わりました。私は、子どもたちが、非常につらい出来事を乗り越え始めただけでなく、再び子どもでいられることを素直に喜んでいる姿を目の当たりにしたのです。 


また、2023年にはウクライナを訪れ、教材があり、友だちと交流し、こころのケアのサポートを受けられる、デジタル・ラーニング・センターを訪問しました。当時、何十万人もの子どもたちが学校に通えていませんでした。私たちは紛争によって破壊された複数の学校を訪れました。 

 

子どもたちが学び、笑っているのを見るのは、素晴らしいことであり、心温まるものでしたが、驚くようなことではありませんでした。私は世界中のさまざまな危機において、このような光景を何度も目にしてきました。子どもたちは本当に回復する力(レジリエンス)があります。しかし、子どもたちが子どもでいられる場所があれば、その回復力はより発揮されやすくなるのです。 

 

ウクライナのハリコフでは、爆撃から子どもたちを守るために地下鉄の構内にて授業を実施。そうした地下鉄駅での学校で、リスニングテストを受ける子どもたち。 


 
■マヌエラ・ティユ氏、セーブ・ザ・チルドレンのパートナーであるユニバーサル・ネットワーク・フォー・ナレッジ・アンド・エンパワーメント・エージェンシー(UNKEA)/南スーダン教育クラスター共同コーディネーター 

 

ゴイさんは12歳の南スーダン人で、南スーダンのトランジットセンター(電車やバスなどの交通結節・ターミナルとなる場所)で2ヶ月以上暮らしています。 

  

紛争が始まる前、ゴイさんは当初スーダンに避難していました。その後、スーダンの首都ハルツームで紛争が勃発したため、家族とともに南スーダンに逃れました。悲しいことに、ゴイさんの両親は殺されてしまったため、現在は叔母や姉妹と一時避難所で暮らしています。 

 

ゴイさんはセンターにいる他の子どもたちとともに、精神面での対処を助けるこころのケアの支援や読み書き・計算など、必要不可欠な学習支援を受けています。しかし、ゴイさんは学校に戻りたがっています。学校の落ち着いた快適な読書や学びのための環境が恋しいのです。 

 

ゴイさんの状況は、避難民となった子どもたちに教育資源が不足していることを浮き彫りにしており、子どもたちの将来を保障するために、教育を優先的に支援することが喫緊の課題だということを物語っています。教育は優先されなければなりません。 


私たちは、すべての政府やドナー、組織に対し、危機下における教育が人命を救うものであることを認識すること、あらゆる危機対応の最初の段階に教育が組み込まれるようにすることを求めます。そうしなければ、数え切れないほどの命が失われてしまいます。   

 

*記載されている氏名はすべて仮名 

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