【イエメン 支援事業完了】国内避難民キャンプにおけるノンフォーマル教育支援

イエメンは、9年以上にわたる紛争により国民の3人に2人にあたる1,820万人が緊急・人道支援を必要としており、そのうち約半数が子どもです1 



 学習支援センターでの授業の様子

こうした状況で、子どもたちへの教育は大きな課題になっています。長期間にわたる紛争の影響により、2023年10月時点で約2,400の学校が空爆により損壊するか、軍事目的あるいは家を追われた人々の避難所など学校以外の用途で使用されていました2
 


半壊した学校

また、経済状況の悪化により、多くの世帯が子どもたちの学習に必要な学用品を購入できなくなりました。2016年からは教員への給与の支払いも不定期となり、2023年には約19万3,000人の教員が給与を受け取れていませんでした3

特に、紛争が激しい地域から国内の他の地域に逃れてきた国内避難民の子どもたちは、世帯収入の減少や頻繁な避難などにより、学習機会を得にくい状況にあり4、避難生活を送っていない子どもたちと比較して、学校を中退するリスクが2倍になることが指摘されています5

これらの要因により、イエメン全土で現在450万人を超える子どもたちが学校に通うことができていません6。これは10人中4人の子どもが学校に通えていないことを意味しています7

多くの子どもが教育を受けられない状況の中、ユニセフが実施した子どもの読解力を測る調査では、簡単な文章を読むことのできる子どもはイエメン国内に5%しかいないことが報告されています8

また、今回支援を行った南部ラヒジュ県にある多くの公立学校では、すでに定員を超えて生徒を受け入れており、国内避難民の子どもが新たに編入する余地がほとんどなくなっています。

仮に受け入れることができたとしても、公立学校は国内避難民キャンプから離れた位置にあるため、保護者は子どもの長距離通学が危ないと考え、公立学校に通うのを許可しないといったケースもあります。
 


ラヒジュ県はイエメン南部に位置する湾岸地域です
(出典: Berghof Foundation and Political Development Forum Yemen, Local Governance in Yemen: Resource Hub)


こうした状況を受け、2023年9月24日から2024年6月30日にかけて、セーブ・ザ・チルドレンは、現地パートナー団体のSOUL for Developmentと協働して、ラヒジュ県で国内避難民キャンプにおけるノンフォーマル教育支援を実施しました。

約1年間実施した支援事業について報告します。(事業の実際の活動の様子や子どもたちのインタビューがジャパン・プラットフォームのYouTube番組で紹介されています。こちらをご覧ください)

この事業では、国内避難民キャンプにある2つの学習支援センターの運営を行い、地域内で採用した教員が授業をすることで、子どもたちが教育を受けられるように支援しました。
 


学習支援センターに通学する子ども

授業が円滑に行われ、生徒たちが学習に集中できるように、学習支援センターに登録した818人の生徒へ筆記用具やノートが入った学習キットを、そして採用した55人の教員に対しては出席簿やノートなどが入った授業用キットを配布しました。
 


配布された学用品を用いて勉強する生徒

また、教員へは緊急下における教育のほか、心理的負担を抱えた子どもたちへ対処するための心理的応急処置(Psychological First Aid: PFA)や、生徒のコミュニケーションスキルや問題解決能力を伸ばすための社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning: SEL)などに関する研修を行いました。
 


教員研修の様子

さらに、長らく教育から離れてしまったことで授業についていけないなど、学習に困難を抱えている160人の生徒に対して、補習授業を実施しました。授業中は小グループによるグループワークも取り入れ、生徒が集中して能動的に学習に取り組めるような工夫をしました。生徒からは「授業が楽しい」といった声も聞かれました。
 


補習授業で身体を用いたアクティビティを実施している様子


セーブ・ザ・チルドレンは、子どもや保護者の声を活動に活かすことを大切にしています。子どもたちが授業外で取り組みたい活動について子どもたちの意見を聴き、ボードゲームや描画などの課外活動ができるように必要な道具を配布しました。
 


課外活動で書いた絵を見せてくれた女子生徒

また、国内避難民キャンプで避難生活を送る人たちの教育への関心を高めるために、保護者会や生徒会のメンバーが中心となり、教育の重要性を伝える活動を実施しました。事業期間中はイエメン国内でコレラが流行したため、適切な衛生習慣に関する啓発活動も併せて実施しました。
 


保護者会メンバーによる定期会合の様子

さらに教室内には換気扇が設置されておらず、子どもたちは湿度・気温が高い環境下で学習していました。十分に集中できる環境が整っていなかったため、教室へ換気扇を設置しました。加えて、学習支援センターには十分な教材保管用のスペースが無かったため、保護者会メンバーへ資材を提供して、保管用スペースの設置も実施しました。
 


教室に設置された換気扇

 

保護者会メンバーによって設置された授業備品や教材保管用のスペース


さらに、活動地域では、子どもたちの保護者も教育を受けておらず、教育への関心が低いという問題が保護者会から提起されたため、40人の非識字者の保護者に対する補習授業を実施しました。最も大きな変化として、補習授業を受けた保護者が自身の子どもに対し、学習支援センターに通学するよう積極的に働きかけていた様子が見られたという点が補習授業を担当した教員から挙げられました。

これらの取り組みの結果、2021年度の学期の中退率は女子53%、男子70%、2022年度は女子17%、男子22%と減少傾向にありましたが、この事業(2023年度)ではついに0%となり、大きく改善しました。また、最終試験の受験率も昨年は約8割でしたが今学期では全登録生徒の約94.1%にあたる770人が受験しました。生徒の学習成果も着実に改善されており、活動地域全体において教育の重要性が認識されつつあることを感じています。

セーブ・ザ・チルドレンは、紛争下においても、子どもたちが暴力などから守られ、安心・安全な環境で学習を継続することができるようイエメンでの支援を継続していきます。
本事業は皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しました。

(海外事業部 小山光晶)

1 OCHA, Yemen Humanitarian Needs Overview 2024, p.4.
2 OCHA, Yemen Humanitarian Needs Overview 2024, p.42.
3 OCHA, Yemen Humanitarian Needs Overview 2024, p.42.
4 OCHA, Multi-Cluster Location Assessment (MCLA), p.28.
5 Save the Children Hanging in the Balance: Yemeni Children’s Struggle forEducation 2024
6 OCHA, “Yemen Humanitarian Needs Overview 2024, p.42.
7 Save the Children “Hanging in the Balance: Yemeni Children’s Struggle forEducation 2024”, p4.
8 UNICEF “Impact of Education Disruption: Middle East and NorthAfrica - March 2022”,p.1

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