(公開日:2025.02.20)
【事業完了報告】ルーマニア・コンスタンツァ県に避難しているウクライナ難民の子どもたちとその家族に向けた教育と心理社会的支援事業
- ウクライナ
2022年2月24日にウクライナ危機が発生してから、丸3年が経過しました。危機が発生してから、700万人近くがウクライナ国外で難民となっており1、360万人以上がウクライナ国内で故郷を離れて避難民となっています2。当初はここまで避難生活が長期化すると想定していなかった人が大半でしたが、残念ながら現在も、これら避難している人が安全に故郷に帰れる目途は立っていません。
ウクライナの隣国ルーマニアでは、一時的保護を受けているウクライナ難民のうち、2024年12月末時点で約28%が18歳以下の子どもであり、その数は5万290人にのぼります3。ルーマニアでは、ウクライナの子どもたちがルーマニアの学校に行く権利が保障されていますが、実際には受け入れ側の学校のスペースや人員に十分なキャパシティがなかったり、言語の違いをサポートする仕組みが整っていなかったりするため、ウクライナの子どもたちがスムーズにルーマニアの教育システムに移行することは難しい状況です。ウクライナの授業をオンラインで継続して受けている子どもたちも多くいますが、その場合は自宅でオンライン授業を受けることになり、他の子どもたちや教員との対面での交流や、勉強以外の課外活動に参加したいというニーズも高くなっていました。
このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンでは、2023年3月からウクライナの隣国であるルーマニアに避難しているウクライナ難民の子どもたちとその家族を対象とした事業を行ってきました。
(詳細は下記のブログ参照)
●【事業完了報告】ルーマニアでのウクライナ難民支援:保健医療支援、教育、精神保健・心理社会的支援事業
●【事業完了報告】ルーマニアに避難しているウクライナ難民の子どもへの教育支援と心理社会的支援事業
これら2事業の後継事業として、ルーマニア・コンスタンツァ県で2023年11月20日から行った教育と心理社会的支援の事業が2024年10月31日に完了したので、報告します。
教育支援では、ウクライナの子どもたちと、脆弱な状況にあるホストコミュニティの子どもたちを対象とした放課後活動を行い、宿題のサポート、ルーマニア語、英語の授業や補習授業といった学習支援のほか、ゲームやスポーツ、工作やアートなどさまざまな活動を実施しました。事業期間を通して、計436人(ウクライナ人367人、ルーマニア人69人)が放課後活動に参加し、86%の子どもにおいてルーマニア語のレベルの向上が確認されました。また、心理社会的支援では、心理士と一緒に行うグループセッションや、地域のルーマニアの家族や子どもたちと交流する機会としてのイベント開催や遠足、サマーキャンプの実施等を通した社会的結束促進活動を実施しました。社会的結束促進活動には、事業期間を通して985人の子ども(ウクライナ人484人、ルーマニア人501人)と217人の養育者(ウクライナ人151人、ルーマニア人76人)が参加しました。このような活動に参加したウクライナ人の子どもに、ルーマニア人の子どもとの関係性について質問したところ、90%が「いつも、もしくはほとんどいつも周囲に受け入れられていると感じる」、89%が「いつも、もしくはほとんどいつも友だちを頼ることができる」、89%が「いつも、もしくはほとんどいつも友だち同士で助け合うことができる」と回答し、周囲と良好な関係性を築けている様子や、放課後活動や心理社会的支援でのさまざまな活動を通して友だちをつくることができている様子が確認できました。また、子どもたちのウェルビーイング(精神的・心理的な健康)の改善も認められました。
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放課後活動の様子
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ハロウィンイベントの様子
また、先行事業でウクライナ人とルーマニア人の子どもの間でのいじめや争いごとの報告があったことを受け、この事業では学校でのいじめ防止のための研修を地域の教員21人に行い、研修を受けた教員が子ども向け、養育者向けのいじめ防止に向けたセッションを行いました。子ども向けのセッションでは、1,557人の子ども(ウクライナ人233人、ルーマニア人1,324人)が参加し、養育者向けでは455人(ウクライナ人167人、ルーマニア人288人)が参加しました。セッションでは、ストレスや感情の浮き沈みにどのように対処するか、コミュニケーションの取り方、争いごとの解決方法に加え、必要な時は周囲に助けを求めるといったメッセージも含まれました。セッション後に子どもたちに実施したアンケートでは、他の人がいる前で笑い者にしたりしないでほしいといったことを周りに求める声が確認できたほか、セッションで行った活動はいじめ防止や根絶に役に立ったとの声が聞かれました。セッションを行った教員からは、セッション後の子どもたちのコミュニケーションの取り方について、特にお互いの意見に相違が見られる際の意見の伝え方や、グループ活動を行う際の協調性に向上が見られたとの報告がありました。
さらに、ウクライナ難民の養育者に向けたソーシャルワーカーによる個別支援や、グループ向けの情報共有セッションを行い、医療や子どもの教育といった基本的サービスの利用や、就労や法的支援に関する情報を共有し、ルーマニアにおける社会的な統合を促進するための支援を実施しました。事業期間を通して、586人のウクライナ難民の養育者が個別支援もしくはグループセッションに参加しました。セッション後のアンケートでは、9割以上の参加者が、共有された情報はルーマニアでの社会的な統合のために役立ったと回答しました。さらに、ルーマニアの学校の新年度が始まる9月前には、新年度に合わせてルーマニアの学校に子どもを通わせたいウクライナ難民の養育者向けの支援を注力して行い、学校との調整や教員との間の通訳などを行いました。
このような数々の活動を通してウクライナ難民の子どもたちや養育者から聞かれたのは、同じようにウクライナから逃れてきた人々や、地域のルーマニアの人々と交流できる場があることへの感謝の言葉でした。
オレナさん(12歳)は、危機が始まるまでウクライナのオデーサにお母さんと妹と住んでいました。ルーマニアのコンスタンツァ県に着いたとき、オレナさんのお母さんはコンスタンツァも故郷のオデーサも海に面していて一緒だと言いましたが、オレナさんは故郷のようには全く感じられませんでした。
「ルーマニアに着いたとき、とても怖かったです。誰も知らないし、言葉もわかりませんでした。学校の友達と一緒に遊んだことを思い出してさみしくなりました。もう新しい友達を作れるとは思いませんでした。妹もとても悲しい気持ちになっていました。お母さんが励まそうとしてくれましたが、お母さんも心配しているのが伝わって、私も心配な気持ちになりました。」
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オレナさん(12歳)
「ある日、セーブ・ザ・チルドレンがやっている放課後活動のことを聞き、お母さんが私たちを連れて行ってくれました。その日から、全てが変わりました!そこは、私たちのような子どもが通える場所で、他のウクライナの子どもたちもいたので、もうさみしい気持ちになることはなくなりました。」
オレナさんは、ルーマニア語や補習授業といった学習支援、遊びやスポーツ、遠足といったさまざまな活動に参加し、だんだんと新しい友だちもつくることができました。一番楽しんだのは、演劇の活動だといいます。
「人前で演じたりダンスできるなんて思ったことがありませんでしたが、先生たちが教えてくれました。違う学校の子どもたちの前で発表もしました。緊張しましたが、みんなが拍手をしてくれた時とても嬉しかったです。これからももっといろいろな劇に参加したいです。」
「私たちが楽しんでいる姿を見て、お母さんも幸せそうにしています。私たちがいつも悲しい思いをしているわけではないことが分かるからだと思います。」
同じくコンスタンツァに住んでいるイリナさん(39歳)は、息子2人を連れて2022年6月にウクライナから避難してきました。息子たちが他の子どもたちと交流できる学習支援を探していたときに、セーブ・ザ・チルドレンが行っている放課後活動を見つけました。
「下の子は3年生でしたが、ずっとオンラインのクラスに参加していて学校には通っていませんでした。放課後活動のおかげで、教室や授業、他の子どもたちとのチームワークや秩序がどういうものなのかを理解することができました。また、母国語で他の子どもたちとコミュニケーションを取れる機会もとても重要です。交流するだけではなくて、心理士のガイダンスを受けながら争いごとや問題解決の仕方も学んでいます。紛争の経験をした子どもたちは、気持ちが落ち込みやすいですから…。」
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イリナさん(39歳)
子どもたちがいろいろな活動やイベントに嬉しそうに参加している姿を見ることが嬉しいといい、母親たちにとっても大切な交流の場になっていると語ります。
「セーブ・ザ・チルドレンが、母国から何百キロも離れた場所で子どもたちの居場所を作ってくれたことに本当に感謝します。母親たちにとっても、イベントがあれば手料理を持ち寄ったり、レシピを交換したりして、お互いのことをよく知るための機会になっていますし、多くの母親にとってこの放課後活動のつながりが一番の居場所になっています。」
ウクライナ危機が始まって、国内外問わず避難を余儀なくされた人は約1,000万人にものぼります。多くの子どもたちが学びや遊びの機会を奪われる中、避難先で不安や心配を忘れ、もう一度友だちや家族と安心して過ごせる場所を提供できたことは大きな成果であると考えています。
避難した人々の生活は今日も続いています。この事業で得られた経験や周りの人とのつながり、コミュニティの存在がプラスに働き、難民の子どもたちとその家族が前向きな気持ちを持ち続けられるよう、これからも支援を続けていきます。
(海外事業部・清水奈々子)
ウクライナの隣国ルーマニアでは、一時的保護を受けているウクライナ難民のうち、2024年12月末時点で約28%が18歳以下の子どもであり、その数は5万290人にのぼります3。ルーマニアでは、ウクライナの子どもたちがルーマニアの学校に行く権利が保障されていますが、実際には受け入れ側の学校のスペースや人員に十分なキャパシティがなかったり、言語の違いをサポートする仕組みが整っていなかったりするため、ウクライナの子どもたちがスムーズにルーマニアの教育システムに移行することは難しい状況です。ウクライナの授業をオンラインで継続して受けている子どもたちも多くいますが、その場合は自宅でオンライン授業を受けることになり、他の子どもたちや教員との対面での交流や、勉強以外の課外活動に参加したいというニーズも高くなっていました。
このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンでは、2023年3月からウクライナの隣国であるルーマニアに避難しているウクライナ難民の子どもたちとその家族を対象とした事業を行ってきました。
(詳細は下記のブログ参照)
●【事業完了報告】ルーマニアでのウクライナ難民支援:保健医療支援、教育、精神保健・心理社会的支援事業
●【事業完了報告】ルーマニアに避難しているウクライナ難民の子どもへの教育支援と心理社会的支援事業
これら2事業の後継事業として、ルーマニア・コンスタンツァ県で2023年11月20日から行った教育と心理社会的支援の事業が2024年10月31日に完了したので、報告します。
教育支援では、ウクライナの子どもたちと、脆弱な状況にあるホストコミュニティの子どもたちを対象とした放課後活動を行い、宿題のサポート、ルーマニア語、英語の授業や補習授業といった学習支援のほか、ゲームやスポーツ、工作やアートなどさまざまな活動を実施しました。事業期間を通して、計436人(ウクライナ人367人、ルーマニア人69人)が放課後活動に参加し、86%の子どもにおいてルーマニア語のレベルの向上が確認されました。また、心理社会的支援では、心理士と一緒に行うグループセッションや、地域のルーマニアの家族や子どもたちと交流する機会としてのイベント開催や遠足、サマーキャンプの実施等を通した社会的結束促進活動を実施しました。社会的結束促進活動には、事業期間を通して985人の子ども(ウクライナ人484人、ルーマニア人501人)と217人の養育者(ウクライナ人151人、ルーマニア人76人)が参加しました。このような活動に参加したウクライナ人の子どもに、ルーマニア人の子どもとの関係性について質問したところ、90%が「いつも、もしくはほとんどいつも周囲に受け入れられていると感じる」、89%が「いつも、もしくはほとんどいつも友だちを頼ることができる」、89%が「いつも、もしくはほとんどいつも友だち同士で助け合うことができる」と回答し、周囲と良好な関係性を築けている様子や、放課後活動や心理社会的支援でのさまざまな活動を通して友だちをつくることができている様子が確認できました。また、子どもたちのウェルビーイング(精神的・心理的な健康)の改善も認められました。
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放課後活動の様子
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ハロウィンイベントの様子
また、先行事業でウクライナ人とルーマニア人の子どもの間でのいじめや争いごとの報告があったことを受け、この事業では学校でのいじめ防止のための研修を地域の教員21人に行い、研修を受けた教員が子ども向け、養育者向けのいじめ防止に向けたセッションを行いました。子ども向けのセッションでは、1,557人の子ども(ウクライナ人233人、ルーマニア人1,324人)が参加し、養育者向けでは455人(ウクライナ人167人、ルーマニア人288人)が参加しました。セッションでは、ストレスや感情の浮き沈みにどのように対処するか、コミュニケーションの取り方、争いごとの解決方法に加え、必要な時は周囲に助けを求めるといったメッセージも含まれました。セッション後に子どもたちに実施したアンケートでは、他の人がいる前で笑い者にしたりしないでほしいといったことを周りに求める声が確認できたほか、セッションで行った活動はいじめ防止や根絶に役に立ったとの声が聞かれました。セッションを行った教員からは、セッション後の子どもたちのコミュニケーションの取り方について、特にお互いの意見に相違が見られる際の意見の伝え方や、グループ活動を行う際の協調性に向上が見られたとの報告がありました。
さらに、ウクライナ難民の養育者に向けたソーシャルワーカーによる個別支援や、グループ向けの情報共有セッションを行い、医療や子どもの教育といった基本的サービスの利用や、就労や法的支援に関する情報を共有し、ルーマニアにおける社会的な統合を促進するための支援を実施しました。事業期間を通して、586人のウクライナ難民の養育者が個別支援もしくはグループセッションに参加しました。セッション後のアンケートでは、9割以上の参加者が、共有された情報はルーマニアでの社会的な統合のために役立ったと回答しました。さらに、ルーマニアの学校の新年度が始まる9月前には、新年度に合わせてルーマニアの学校に子どもを通わせたいウクライナ難民の養育者向けの支援を注力して行い、学校との調整や教員との間の通訳などを行いました。
このような数々の活動を通してウクライナ難民の子どもたちや養育者から聞かれたのは、同じようにウクライナから逃れてきた人々や、地域のルーマニアの人々と交流できる場があることへの感謝の言葉でした。
オレナさん(12歳)は、危機が始まるまでウクライナのオデーサにお母さんと妹と住んでいました。ルーマニアのコンスタンツァ県に着いたとき、オレナさんのお母さんはコンスタンツァも故郷のオデーサも海に面していて一緒だと言いましたが、オレナさんは故郷のようには全く感じられませんでした。
「ルーマニアに着いたとき、とても怖かったです。誰も知らないし、言葉もわかりませんでした。学校の友達と一緒に遊んだことを思い出してさみしくなりました。もう新しい友達を作れるとは思いませんでした。妹もとても悲しい気持ちになっていました。お母さんが励まそうとしてくれましたが、お母さんも心配しているのが伝わって、私も心配な気持ちになりました。」
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オレナさん(12歳)
「ある日、セーブ・ザ・チルドレンがやっている放課後活動のことを聞き、お母さんが私たちを連れて行ってくれました。その日から、全てが変わりました!そこは、私たちのような子どもが通える場所で、他のウクライナの子どもたちもいたので、もうさみしい気持ちになることはなくなりました。」
オレナさんは、ルーマニア語や補習授業といった学習支援、遊びやスポーツ、遠足といったさまざまな活動に参加し、だんだんと新しい友だちもつくることができました。一番楽しんだのは、演劇の活動だといいます。
「人前で演じたりダンスできるなんて思ったことがありませんでしたが、先生たちが教えてくれました。違う学校の子どもたちの前で発表もしました。緊張しましたが、みんなが拍手をしてくれた時とても嬉しかったです。これからももっといろいろな劇に参加したいです。」
「私たちが楽しんでいる姿を見て、お母さんも幸せそうにしています。私たちがいつも悲しい思いをしているわけではないことが分かるからだと思います。」
同じくコンスタンツァに住んでいるイリナさん(39歳)は、息子2人を連れて2022年6月にウクライナから避難してきました。息子たちが他の子どもたちと交流できる学習支援を探していたときに、セーブ・ザ・チルドレンが行っている放課後活動を見つけました。
「下の子は3年生でしたが、ずっとオンラインのクラスに参加していて学校には通っていませんでした。放課後活動のおかげで、教室や授業、他の子どもたちとのチームワークや秩序がどういうものなのかを理解することができました。また、母国語で他の子どもたちとコミュニケーションを取れる機会もとても重要です。交流するだけではなくて、心理士のガイダンスを受けながら争いごとや問題解決の仕方も学んでいます。紛争の経験をした子どもたちは、気持ちが落ち込みやすいですから…。」
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イリナさん(39歳)
子どもたちがいろいろな活動やイベントに嬉しそうに参加している姿を見ることが嬉しいといい、母親たちにとっても大切な交流の場になっていると語ります。
「セーブ・ザ・チルドレンが、母国から何百キロも離れた場所で子どもたちの居場所を作ってくれたことに本当に感謝します。母親たちにとっても、イベントがあれば手料理を持ち寄ったり、レシピを交換したりして、お互いのことをよく知るための機会になっていますし、多くの母親にとってこの放課後活動のつながりが一番の居場所になっています。」
ウクライナ危機が始まって、国内外問わず避難を余儀なくされた人は約1,000万人にものぼります。多くの子どもたちが学びや遊びの機会を奪われる中、避難先で不安や心配を忘れ、もう一度友だちや家族と安心して過ごせる場所を提供できたことは大きな成果であると考えています。
避難した人々の生活は今日も続いています。この事業で得られた経験や周りの人とのつながり、コミュニティの存在がプラスに働き、難民の子どもたちとその家族が前向きな気持ちを持ち続けられるよう、これからも支援を続けていきます。
(海外事業部・清水奈々子)
1 UNHCR, Operational Data Portal Ukraine Refugee Situation, accessed on 7th Feb 2025
2 IOM, Displacement tracking matrix Ukraine, accessed on 7th Feb 2025
3 Eurostat, Beneficiaries of temporary protection at the end of themonth, accessed on 7thFeb 2025