(公開日:2012.05.24)
【幼稚園プロジェクト(3)】モンゴルの幼稚園は、なぜ先生にもやさしくないの? (2012.05.24)
- モンゴル
こんにちは。オトゴです。
引き続き「子どもにやさしい幼稚園」をつくるため、「先生にやさしい(環境を持つ)幼稚園」をつくる私たちの事業を紹介したいと思います。今回は、幼稚園の外から先生や幼稚園を支援する組織、特に「国家監査局」について、焦点を当ててみたいと思います。
私たちのプロジェクトの重要な連携機関の1つに、国家監査局があります。「教育の事業だから、教育省だけで十分ではないのですか?」と思われるかもしれませんね。ではまず日本にはない「監査局」の役割からお話ししなければなりません。
国家監査局の役割は、「法律や条例が正しく施行されているか監査し、且つ提言を行う」となっています。監査する機関は公的機関から私的機関までに渡りますが、「教育、医療、厚生労働、農業、交通機関・・・」など10の分野に分けています。そして、「監査局がモニタリングの結果をまとめ、関係省庁に提言し、各省庁が実施体制を見直す」というサイクルを繰り返すことで国としてサービスの質が保たれる仕組みになっています。逆に、各省庁が外からの支援で何か新しいことに取り組んでも、監査項目に盛り込まれていないと、実行力や継続性に欠けると言えます。私たちは、監査局に事業成果を認めてもらい、監査項目の中に事業成果を盛り込んでもらうことで、「子どもにやさしい幼稚園推進」のための活動が、国の政策の1つとして永続的に取り組まれていくことを目指しています。そのために、事業開始当初から、彼らと連携していくことが重要なのです。
さて、このサイクルの中で今一番問題と思われることはなんでしょうか?
私たちの事業対象地域の1つであるハンオール地区の監査官ウルジ氏の話を、聞いてください。
(ウルジ氏)
「私は以前小学校教諭だったのですが、数年前に監査官になりました。監査官になってから、いつも厳しい顔をするようになりました。毎日、幼稚園を訪問し、紙に記入し、問題を見つけて指摘し、個人に罰金を科さなければなりません。とても嫌がられますが、仕事なので仕方ありません。園長先生以外と話すことはありません。情報を漏らしているようで、適切な監査ができなくなるからです。
国の規定通り行われているのか監査しなければならないので、無理な要求と思っても、指摘しなければなりません。以前『プラスチックの椅子は、子どもの成長に良くないので、幼稚園でも木材製の椅子を使用を促す』という国の通達がありました。幼稚園に木製の椅子を購入する予算がないことはわかっています。このプラスチックの椅子でさえ予算がなく購入できないので、保護者にお願いして購入して持ってきてもらっていることはわかっています。保護者に木製の椅子を購入することは、高価すぎてできないということもわかっています。でも規定なので指摘しないといけないのです。
本当に毎日がストレスでした。
そのような毎日の中、このプロジェクトが始まりました。
プロジェクトから、「まず幼稚園側と監査局が、何のための監査なのか共通の認識を持ちましょう」という提案がありました。そのため、監査官が2人1組になり事業対象幼稚園を巡回し、私たちの仕事の目的やその内容について細かく説明することとしました。説明会では、園長先生だけでなく、先生や助手、園医の先生や調理員など全職員が参加しました。その後に意見交換をしました。このような活動を私たち監査官に提案するのは、このプロジェクトが初めてでした。
(ハンオール地区第41番幼稚園での説明会の様子。一番右がウルジ氏)
今回の幼稚園の職員の皆さんとの交流は、とても清々しい気持ちにさせてくれました。日々のストレスを忘れることができました。全職員と話をしたのは今回が初めてです。第41番幼稚園では、『監査についてとてもよくわかりました。幼稚園や私たち職員、そして子どもたちのために監査が重要なのだと気づきました。どうもありがとうございます』とある先生から言われました。こんな風にお礼を言われたのも今回初めてです。幼稚園を去る時 『さようなら』と見送られたのも今回初めてです。
私はこのプロジェクトが本当にすばらしいと思いました。みんながこのプロジェクトに協力すべきです。ハンオール地区のホームページに、地区としての全面的な協力を促すための記事を書きます」
(ハンオール地区第29番幼稚園での意見交換会の様子。一番左がウルジ氏)
皆さん、なにが一番問題なのかわかりましたか?
お互いコミュニケーションも信頼関係のない険悪な状況で監査が行われているために、目的を履き違えた監査が行われ、結果指摘された問題も改善にはつながらないという悪循環が起こっているということです。
今回のこの活動の結果、今後、監査官と幼稚園の職員の皆さんのコミュニケーションが改善され、両者にあった緊張した関係が取り除かれ、悪循環が止まり、子どもの教育のために良いサイクルを生み出せればいいですね。そのように考える時この事業は、「子どもにやさしい幼稚園推進」「先生にやさしい幼稚園推進」のみならず、「監査官にやさしい幼稚園推進」プロジェクトともいえるかもしれません。
引き続き、ご支援のほど、よろしくお願いします。
(報告:モンゴル事務所 オトゴ)
*本事業は、外務省NGO連携無償資金協力の助成と、皆様からのご支援を受けて実施しています。
* ハンオール地区監査局のホームページ(モンゴル語)
http://www.khanuul.mn/modules/cms/read/article.aspx?id=827