(公開日:2012.08.22)
【幼稚園プロジェクト(4)】モンゴルの幼稚園は、なぜ先生にもやさしくないの? (2012.08.22)
- モンゴル
皆さまこんにちは。モンゴル事務所の柴田です。
さて以前(5月24日)「子どもにやさしい幼稚園」をつくるため、「先生にやさしい(環境を持つ)幼稚園」をつくるためにセーブ・ザ・チルドレンが支援していることをお話しました。今回は、幼稚園の外と内から先生や幼稚園を支援する人、特に「保護者」について、お話したいと思います。
この事業が開始した直後2011年末に、私たちの16の事業対象幼稚園を調査した結果、30%もの保護者が、「幼稚園が、保護者を対象にした行事を企画しているとは知らなかった。」「知っているけれど参加したことはない。」と答えました。加えてモンゴルには日本のPTAのような保護者会はありません。これらの16の幼稚園でも「クラス毎に数名からなるボランティア・グループがあり、幼稚園の先生の要望に応じてその都度手伝う。」という程度の関わりであることがわかりました。そのため、幼稚園の先生が、「保護者の手伝いがほしい。」と思っても、「誰に頼んだらいいの?どうすれば、より多くの保護者に参加してもらえるの?せっかく企画しても誰も参加してくれない。」という状況が起こっていました。
(事業開始直後の82番幼稚園の保護者用掲示物の様子)
このように保護者の参加が少ない背景には、社会主義時代、モンゴルの幼稚園が女性の社会進出を保障する立場から進められたこともあります。働くお母さんのために0歳児から預けることができ、病気でも幼稚園に預け園医によって治療を受けることもできました。
今は、施設数が不足している事もあり、2歳児からしか受け入れてくれませんが、それでも、・朝8時から夕方5時まで、時に6時7時までと長時間開園していること。・3食無料の食事が提供され、年長さんまでお昼寝時間もあること。・園医が駐在し簡単な治療も行っていること。など「社会主義時代の保育園」的要素が残っています。そのため、「子どもは幼稚園の先生が育てるもの」という根強い認識が保護者の間にあるのは事実です。
モンゴル政府も、幼児教育における保護者の関わりはとても重要であると認識し、2008年の就学前教育法で「保護者の責任」を明記しました。しかし、そのような歴史的背景もあって幼稚園も保護者も「では、どうやって?」と悩んでいるのが現実です。
そこで事業では、「幼稚園と保護者の関わり」を促すためにさまざまな活動を考えています。その1つが保護者会です。
既にこんな嬉しい報告を、82番幼稚園のデルゲルマ園長先生から聞きました。園長先生のお話を聞いてみましょう。
(保護者と子どもたちの前で話をするデルゲルマ園長先生)
「私達の幼稚園は、軍の関係施設として建てられた建物でしたが、1980年に幼稚園として改修工事されました。定員は280人となっていますが2倍近い580人の子どもを受け入れています。それでも、この地域に住む子どもの約5割しか受け入れ切れていません。この幼稚園はゲル地域にあるため、地方からの移民世帯が多く、子どもの数が毎日増えているのです。
(老朽化の激しい82番幼稚園)
とにかく建物が古く、水道からの水漏れがひどく、建物内はカビくさい匂いがいつも漂っています。改修工事の申請を随分前からしており、ようやく今年承認されましたが、予算の17%しか承認されませんでした。
園庭の問題も深刻です。幼稚園のフェンスは壊れ、部外者が自由に出入りすることができました。ある日の朝、大人が飲食したごみが散らかっていた事もありました。遊び場の土も固く、遊具も壊れていて危険な箇所も多く、子どもを外で自由に遊ばせる事ができませんでした。その問題を解決するために、保護者に呼びかけていました。昨年もずっと呼びかけていましたが、何も動きはありませんでした。殆どあきらめていました。
それが2011年この事業が始まって事態が変わりました。なんと、保護者会15名が研修に参加してからわずか3ヶ月の間に、フェンスと園庭改修工事が終了してしまいました。3ヶ月の間に何が起こったのでしょうか?
(保護者用掲示物を作成する保護者会メンバー)
まず、15名の保護者代表者が、「保護者会とは?」を学ぶ研修に参加しました。すぐにその15名が、「私たちの子どもの幼稚園環境を考えてみよう!」というコンテストを企画してくれました。400人もの参加者がありました。それは、この幼稚園のフェンスも含む園庭の状況がいかに劣悪であるのかを見直すとても良い機会となりました。
そしてその後、約90人の保護者から、500万トゥグルク(約30万円)の寄付とボランティアが集まり、改修工事が進められました。土の掘り起こし、フェンスの改修工事のブロック運びなどの力仕事を手伝うボランティアとして、多くのお父さんも集まってくれました。そして立派なフェンスや園庭が完成しました。その後、周辺幼稚園から問い合わせが殺到しました。」
(ボランティアとして参加したお父さん代表に感謝状を手渡すデルゲルマ園長先生)
改修直後、幼稚園は夏休みに入りましたので、子どもたちには、しばらくお預けとなりました。9月の新学期から、子どもたちの楽しく外で遊ぶ様子が目に浮かぶようです。
(やわらかい土が入れられ、清掃された園庭)
(建設された新しいフェンス)
このように保護者の態度に大きな変化が見られるようになったのは、もちろん、幼稚園側の態度の変容もありました。通常幼稚園は保護者会のような集まりに対して、「苦情集め係」という悪いイメージを持っていることが多く、保護者会の設立や運営への関わりに積極的になれないところがありました。デルゲルマ園長先生は、そのような悪いイメージを職員から取り除くため、積極的に努力しました。
見てください、このカラフルな保護者用の掲示物!幼稚園も保護者と関係を深めたい様子が伝わってきます。この素晴らしい成果が、今後、他の幼稚園に良い影響を与えていくことを願っています。
(事業開始後のカラフルな保護者用の掲示物の様子)
最後に、このたび、「子どもにやさしい幼稚園推進」プロジェクト・フェーズ2が、フェーズ1終了後切れ目なく開始する運びとなりました。関係者の皆さまに、厚くお礼を申し上げると共に、引き続き、ご支援・ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。
(報告:モンゴル事務所 柴田)
(お昼寝中の82番幼稚園の子どもたち)
*この「子どもにやさしい幼稚園推進」プロジェクトは、外務省・日本NGO連携無償資金協力の助成金により実施されております。
さて以前(5月24日)「子どもにやさしい幼稚園」をつくるため、「先生にやさしい(環境を持つ)幼稚園」をつくるためにセーブ・ザ・チルドレンが支援していることをお話しました。今回は、幼稚園の外と内から先生や幼稚園を支援する人、特に「保護者」について、お話したいと思います。
この事業が開始した直後2011年末に、私たちの16の事業対象幼稚園を調査した結果、30%もの保護者が、「幼稚園が、保護者を対象にした行事を企画しているとは知らなかった。」「知っているけれど参加したことはない。」と答えました。加えてモンゴルには日本のPTAのような保護者会はありません。これらの16の幼稚園でも「クラス毎に数名からなるボランティア・グループがあり、幼稚園の先生の要望に応じてその都度手伝う。」という程度の関わりであることがわかりました。そのため、幼稚園の先生が、「保護者の手伝いがほしい。」と思っても、「誰に頼んだらいいの?どうすれば、より多くの保護者に参加してもらえるの?せっかく企画しても誰も参加してくれない。」という状況が起こっていました。
(事業開始直後の82番幼稚園の保護者用掲示物の様子)
このように保護者の参加が少ない背景には、社会主義時代、モンゴルの幼稚園が女性の社会進出を保障する立場から進められたこともあります。働くお母さんのために0歳児から預けることができ、病気でも幼稚園に預け園医によって治療を受けることもできました。
今は、施設数が不足している事もあり、2歳児からしか受け入れてくれませんが、それでも、・朝8時から夕方5時まで、時に6時7時までと長時間開園していること。・3食無料の食事が提供され、年長さんまでお昼寝時間もあること。・園医が駐在し簡単な治療も行っていること。など「社会主義時代の保育園」的要素が残っています。そのため、「子どもは幼稚園の先生が育てるもの」という根強い認識が保護者の間にあるのは事実です。
モンゴル政府も、幼児教育における保護者の関わりはとても重要であると認識し、2008年の就学前教育法で「保護者の責任」を明記しました。しかし、そのような歴史的背景もあって幼稚園も保護者も「では、どうやって?」と悩んでいるのが現実です。
そこで事業では、「幼稚園と保護者の関わり」を促すためにさまざまな活動を考えています。その1つが保護者会です。
既にこんな嬉しい報告を、82番幼稚園のデルゲルマ園長先生から聞きました。園長先生のお話を聞いてみましょう。
(保護者と子どもたちの前で話をするデルゲルマ園長先生)
「私達の幼稚園は、軍の関係施設として建てられた建物でしたが、1980年に幼稚園として改修工事されました。定員は280人となっていますが2倍近い580人の子どもを受け入れています。それでも、この地域に住む子どもの約5割しか受け入れ切れていません。この幼稚園はゲル地域にあるため、地方からの移民世帯が多く、子どもの数が毎日増えているのです。
(老朽化の激しい82番幼稚園)
とにかく建物が古く、水道からの水漏れがひどく、建物内はカビくさい匂いがいつも漂っています。改修工事の申請を随分前からしており、ようやく今年承認されましたが、予算の17%しか承認されませんでした。
園庭の問題も深刻です。幼稚園のフェンスは壊れ、部外者が自由に出入りすることができました。ある日の朝、大人が飲食したごみが散らかっていた事もありました。遊び場の土も固く、遊具も壊れていて危険な箇所も多く、子どもを外で自由に遊ばせる事ができませんでした。その問題を解決するために、保護者に呼びかけていました。昨年もずっと呼びかけていましたが、何も動きはありませんでした。殆どあきらめていました。
それが2011年この事業が始まって事態が変わりました。なんと、保護者会15名が研修に参加してからわずか3ヶ月の間に、フェンスと園庭改修工事が終了してしまいました。3ヶ月の間に何が起こったのでしょうか?
(保護者用掲示物を作成する保護者会メンバー)
まず、15名の保護者代表者が、「保護者会とは?」を学ぶ研修に参加しました。すぐにその15名が、「私たちの子どもの幼稚園環境を考えてみよう!」というコンテストを企画してくれました。400人もの参加者がありました。それは、この幼稚園のフェンスも含む園庭の状況がいかに劣悪であるのかを見直すとても良い機会となりました。
そしてその後、約90人の保護者から、500万トゥグルク(約30万円)の寄付とボランティアが集まり、改修工事が進められました。土の掘り起こし、フェンスの改修工事のブロック運びなどの力仕事を手伝うボランティアとして、多くのお父さんも集まってくれました。そして立派なフェンスや園庭が完成しました。その後、周辺幼稚園から問い合わせが殺到しました。」
(ボランティアとして参加したお父さん代表に感謝状を手渡すデルゲルマ園長先生)
改修直後、幼稚園は夏休みに入りましたので、子どもたちには、しばらくお預けとなりました。9月の新学期から、子どもたちの楽しく外で遊ぶ様子が目に浮かぶようです。
(やわらかい土が入れられ、清掃された園庭)
(建設された新しいフェンス)
このように保護者の態度に大きな変化が見られるようになったのは、もちろん、幼稚園側の態度の変容もありました。通常幼稚園は保護者会のような集まりに対して、「苦情集め係」という悪いイメージを持っていることが多く、保護者会の設立や運営への関わりに積極的になれないところがありました。デルゲルマ園長先生は、そのような悪いイメージを職員から取り除くため、積極的に努力しました。
見てください、このカラフルな保護者用の掲示物!幼稚園も保護者と関係を深めたい様子が伝わってきます。この素晴らしい成果が、今後、他の幼稚園に良い影響を与えていくことを願っています。
(事業開始後のカラフルな保護者用の掲示物の様子)
最後に、このたび、「子どもにやさしい幼稚園推進」プロジェクト・フェーズ2が、フェーズ1終了後切れ目なく開始する運びとなりました。関係者の皆さまに、厚くお礼を申し上げると共に、引き続き、ご支援・ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。
(報告:モンゴル事務所 柴田)
(お昼寝中の82番幼稚園の子どもたち)
*この「子どもにやさしい幼稚園推進」プロジェクトは、外務省・日本NGO連携無償資金協力の助成金により実施されております。