子どもの視点を学ぶ
人は生まれてから寿命を終えるまで、生涯発達し続けていきます。ここでは、子どもの発達段階の特徴をいくつか取り上げまとめました。あくまで目安ですが、発達段階を知ると、その年齢の子どもの見方・感じ方や、できること・できないことがわかるので、子どもに寄り添った関わり方をしやすくなります。それぞれの年齢を選ぶと、発達の特徴や関わり方のヒントがご覧になれます。無料ダウンロードしてご活用ください。
子どもの
発達段階シート
いろいろな表情が見られる
発達段階のポイント
情緒が発達し、赤ちゃんの喜怒哀楽の表情が少しずつ見られます。特に、赤ちゃんは泣くことで自分の欲求を伝えようとします。不快感や不安の表れから泣くこともあります。
働きかけのヒント
赤ちゃんが求めていることを理解し応えていくと、赤ちゃん自身が「信頼できる人がそばにいる」と確信することができ、安心や信頼の気持ちが育まれます。
「あーうー」「ばー」という発声をする
発達段階のポイント
6ヶ月から12ヶ月ごろは、「ばー」などの喃語(なんご)を話し始めます。喃語で自分の欲求を表現したり、音の出し方を練習したりしています。
働きかけのヒント
赤ちゃんの発声に反応すると、自分の発した音が無視されていない、大事にされている、尊重されていると伝えることができます。
(乳児期中期~幼児期前半)
小さいものをつかんでは口に入れようとする
発達段階のポイント
自分の手や足を口に入れたり、近くにあるものを握ったり、あるいは口の中に入れることがあります。これは手、足、口など自分ができる方法でものについて探求しているからです。
働きかけのヒント
この時期は危険や安全ということが理解できません。周りに飲み込んで危ないものがないか確認しましょう。
歩きまわる
発達段階のポイント
1歳を過ぎると、自分で歩けるようになり、触りたいものに自分で触れるようになります。探求心・好奇心がいっぱいで、いろいろな場所を探検します。五感だけでなく、認知機能も発達し、覚えたり考えたりしながら世界を広げていきます。
働きかけのヒント
子どもが安全に探検できるように、子どもにとって危険なものがそばにないか確認するなど、環境を整えましょう。安全に探索できることで、たくさんのことを学ぶことができます。
友だちとものの取り合いをしたり、おもちゃの独占をしたりする
発達段階のポイント
1歳半を過ぎると、自己主張し始め、2歳以降になると自分が持っているものへの所有感が強くなり、強い自己主張をするようになります。ものを大切にする気持ちが生まれているともいえるでしょう。
働きかけのヒント
友だちと仲良く遊ぶには自分のコントロールがまだできない時期かもしれません。ルールを教えながら、楽しく遊べるよう見守りましょう。
かんしゃくを起こす
発達段階のポイント
まだ、言葉で気持ちを十分に表現できない時期です。親は、ルールを伝えるため、子どもの行動を止めることもあります。自分で理性的に行動を律することを覚えていく時期ですが、まだ自分だけでは難しいのがこの時期です。
働きかけのヒント
うれしいね、楽しいね、いやだったね、と大人が子どもの気持ちを代弁していくことも大事な関わりです。
着替えなどぐずぐずしているように見える
発達段階のポイント
食事や着替えなど、なんでもしたがる自立性が芽生えます。自分でしようとする一方で、その間にほかのことに気を取られてしまい、行動が進まないこともあります。
働きかけのヒント
子どもの目線で「5まで数える間にズボンを履こう」など、ゲームや物語を取り入れてみると、その行動に注目して動きやすいかもしれません。
見知らぬ人になじみにくい
発達段階のポイント
6ヶ月から2歳くらいまでは、初対面の人の前で、親の後ろに隠れたりします。身近な大人と情緒的な絆が形成されているからです。あるいは、いつもの親とのコミュニケーションがその人に通じないことが、怖いと感じる理由かもしれません。
働きかけのヒント
子ども自身が打ち解けると、一緒に遊ぶこともできます。気長に待ってみましょう。
「いやだ」といって暴れる
発達段階のポイント
成長による自信が「自分でやる!」の意欲につながっています。自分の考えや気持ちを言葉で説明できない一方、子どもからすると、自分でやりたいのに大人が先にしてしまうと感じることが多いのかもしれません。親は扱いづらさを感じることも。
働きかけのヒント
何を伝えたいのかを理解しようとしてみましょう。気持ちに耳を傾け、子どものやりたい気持ちに沿えないときは理由とともに伝えましょう。頑固になってしまうときは、少し時間をおいてから、適切な形でタイムアウトを利用するということもコツになります。
いろいろなことに恐怖を感じる
発達段階のポイント
子どもの成長とともに怖いと感じる対象が変わってきます。危険についてわかると、けがすることを怖がります。また、現実とテレビや絵本の世界の区別がつかずに恐怖を感じることもあります。想像力が発達してくると、目に見えないおばけや怪獣を怖がるようにもなります。
働きかけのヒント
「〇〇しないと鬼が来るよ」などと言うのは、子どものこころを配慮せず、恐怖で子どもをコントロールしようとすること。子どもが怖がっているときは、そばにいるよ、あなたを守るよ、と伝えて子どもが安心できる方法で関わりましょう。
妹や弟が生まれると、幼い行動をするようになる
発達段階のポイント
この時期、妹や弟が生まれると、今まで親から向けられてきた関心を赤ちゃんに奪われてしまったと感じ、その不安で赤ちゃん返りすることがあるかもしれません。自分を見てくれないと感じると、親や赤ちゃんへ複雑な感情を抱きます。妹や弟へ否定的な気持ちを向ける、年齢よりも幼くふるまう、などもあるでしょう。
働きかけのヒント
定期的に、一人で甘えられる時間をつくったり、子どもに役割を与え、その役割をこなそうとした意欲や行動をほめたりしましょう。
ものを取り合い、力ずくのケンカをする
発達段階のポイント
力ずくのケンカが多いかもしれません。一度負けると、負けた子は相手の子どもが近くに来ただけでも泣いてしまう一方、相手の子は泣いている様子を見て威張るようになったりすることもあります。
働きかけのヒント
子どもたちがけがをしないように環境を整え、落ち着いたら、落ち着けたことをほめ、どんな気持ちだったのか何かあったのか、聞いてあげてください。
ありとあらゆることについて質問する
発達段階のポイント
いろんなことを知りたくて仕方がない時期かもしれません。大人の返事によって得る知識と、自分の持っている知識をすり合わせ、矛盾があればそこをさらに質問します。質問は自分が納得するまでいつまでも続きます。納得すると、子ども自身の学びとして身に付きます。
働きかけのヒント
子どもは、純粋に答えを知りたがっています。質問に答えるだけでなく、時間的余裕があれば一緒に考えることもおすすめです。答えを探すのを手伝ったりすることが子どもの学びへのサポートになります。
ごっこ遊びや大人の手伝いをする
発達段階のポイント
子どもは、遊びの中で相手の気持ちを感じ、相手に共感する力を学んでいきます。ごっこ遊びでは、あらゆるものや人になりきり、その観点でものを見ることが経験できます。また、見よう見まねで大人を手伝うことを通して、生活の中で必要なスキルや行動を練習しています。
働きかけのヒント
大人から見たら十分でないと感じても、子ども自身がやってくれたそのプロセスをたくさんほめてあげましょう。子どもが意欲的になんでもトライしたいという気持ちを尊重し見守りましょう。
小学校にうまくなじめていない
発達段階のポイント
小学校に入学すると、協調性、生活の規則正しさ、交通規則などを守ることなどを求められ、勤勉性や自律性を育む機会が増えます。一方で、学校生活という新たな社会場面が増え、対人間でのストレスも増えるかもしれません。楽しみや喜びなどを得る一方で、ストレスを感じることも多くなるかもしれません。不安などのストレスが強いと、体の症状として現れることもあるかもしれません。
働きかけのヒント
子どもの話をよく聴くことが大切です。子どもの言葉を遮ったり、親の解釈や評価を言ったりするのではなく、「大変だったね」と、どんな感情も否定せず、子どもの気持ちに共感しましょう。それにより、子どもは家が安心できる場所と感じ、子どもの自信にもつながります。
自己中心的な言動がある
発達段階のポイント
子どもが自分の欲求や行動をコントロールする能力は、自己主張の力よりゆっくりと発達していきます。低学年の時期は、まだまだ自己中心的な言動があったり、大人から見て友だちとうまく遊べなかったりすることも多いです。
働きかけのヒント
喜びや楽しみ、怒りや不安などの感情に自分で気づきコントロールできるように支援しましょう。
友だちとの交流を大切にする
発達段階のポイント
小学校中学年の頃は、家族外、とくに友だちへと意識が変わってきて、交友関係を重要視します。自分の考えや判断に基づいて、友だちと行動をともにします。ルールや相手の気持ちの理解が十分ではないこともあります。
働きかけのヒント
子どもの友だち関係を大切に見守りましょう。何かあったときは子どもの話をよく聴いてみましょう。
親に反抗的な態度をとる
発達段階のポイント
何か注意すると、反論や屁理屈が多くなってくるかもしれません。それは自分で考える力、批判できる言語能力が発達している証拠です。また、子ども自身が自分のこころを守ろうとして反抗的・挑戦的になることもあります。
働きかけのヒント
子どもの行動を3つに分けます(ほめる行動、注目しない行動、抑止が必要となる行動)。この3つの対応を繰り返し行うことで、子ども自身のコントロールするスキルを身に付けることを支援します。
友だちとの関係で悩んでいる
発達段階のポイント
この段階では、子どもはまだ複雑な人間関係に関しては理解が十分ではないかもしれません。友人関係で喜んだり、楽しんだり、傷ついたりするといった共感の経験を通じてこころを育みます。子ども自身がどんな体験をしてどんな気持ちをしているのか、時折尋ねて、共感してみる関わりもできると良いでしょう。
働きかけのヒント
自らの行動で示しながら、人との衝突に対処する方法や人や自分自身を守る方法を教えていきましょう。
友だちと一緒にいたずらや悪さをする
発達段階のポイント
ギャングエイジといわれる時期で、子どもはよく一緒にいる集団への仲間意識が芽生えます。そこで、仲間同士であるための責任、協力、友情など社会的スキルを学びます。時には、大人にとってけげんに思うこともあるかもしれませんが、そういった遊びを通じて、仲間から受け入れられることを学びます。
働きかけのヒント
安全を確保しながら、仲間との行動を認め、判断をまかせながら見守りましょう。悪さやいたずらに見えても、子どもの発達にとって意味があるものです。
何を考えているかわかりにくい
発達段階のポイント
夢や将来、架空のことに想像を膨らませたり、自分がどう見られているかなどを思考(メタ認知)したりすることができるようになります。他者と比較しながら自分について考える時間も徐々に増え、この時期は、大人から見て、考えが読みにくいと感じることがあるかもしれません。
働きかけのヒント
論理的・抽象的な思考ができるようになったのは、子どもの自然な成長の証拠です。タイミングを見計らい、対話を通して子どもの考えを尊重し、見守りましょう。
プライバシーに立ち入られることを嫌う
発達段階のポイント
思春期になると、自分の部屋に勝手に入ったり、友だちとのやりとりを聞かれたりすることを、嫌がることが増えるかもしれません。思春期の自然な部分です。子どもは自分のプライバシーに立ち入られることを嫌いますが、親から故意に隠そうとしているわけではありません。
働きかけのヒント
秘密を持つようになったということは、親から精神的に自立し始めたということ。子どもの安全を確保しながらプライバシーをなるべく尊重していきましょう。
不愛想になったりすぐ怒る
発達段階のポイント
この時期の子どもたちは体の急激な変化と同時にこころが不安定になりがちです。感情の起伏が激しくなることがあり、急に落ち込んだり、怒り出したり、興奮する様子が見られます。自分をうまくコントロールできずに落ち込むこともあるかもしれません。
働きかけのヒント
心配ごとや悩みに耳を傾け、行動の背後にある気持ちを理解しましょう。また、思春期の心身の変化について話し合うことで、気持ちの対処法をサポートできるかもしれません。
親の意見と衝突する
発達段階のポイント
子どもは少しずつ親と自分の考え方が違うことに気付き、それを通して自分がどういう人間なのかを考える時期です。子どもは、大人から自分を一人の人間として尊重してほしい、信頼してほしいと強く感じます。子どもは自立したがる一方、親として、子どもに多くの判断を委ねることが心配になるかもしれません。
働きかけのヒント
子どもの考えが親の考えと違っていても、いったんは受け入れてみましょう。子どもに意見を求めても良いでしょう。子どもが必要な意思決定ができるよう、予測できる危険やプレッシャーの対処法などについて日頃から話してみましょう。
友だちと一緒に危険なことや悪いことをしてしまう
発達段階のポイント
この時期の友だちの存在は子どものこころの安心につながります。友だちとの関わりを通し、悩みを共有し、自分自身がどう見られているかを判断することもあります。友だちは知識や情報を共有し、いろいろな興味・関心を引き出してくれる存在でもあります。一方で、仲間の中で受け入れられていると感じたいために、自身にとって決して得にならないことを選択してしまうこともあるかもしれません。
働きかけのヒント
子どもの友だちや仲間とのつきあいを尊重しましょう。また、仲間からのプレッシャーがあったときにどう対処するか考えられるように日頃から話してみましょう。
体の変化とともに性を意識する
発達段階のポイント
個人差はありますが、10、11歳になると、体が急激に変化します。その後は、子どもは性を自覚し、関心が芽生えてくる頃です。親の性に対して敏感になることもあります。親に隠れて性的なことについての情報を本やインターネットから得ることも多いかもしれません。
働きかけのヒント
親子であっても、相手の性を尊重することが大切です。大人の側の頭の切り替えが必要かもしれません。その上で、性に関して、自分や相手の体やこころを大切にすることなどオープンに話せると良いかもしれません。
外見や嗜好、将来の計画などを急に変える
発達段階のポイント
この時期は、自我がより発達し、周囲からの期待と自分がこうでありたいと、いう狭間で思い悩むことが増えてきます。自分の表現手段として急に好みを変えてみることもあります。さまざまなことを試し、自分に合うものを探しているのです。
働きかけのヒント
さまざまなことを試そうとする中、後先を考えずに失敗や危険な目にあうこともあります。子どもが困ったときはいつでも親が必要な情報やアドバイスを伝えられるようにしておきましょう。
自立に向けた準備が始まる
発達段階のポイント
17歳以降になると体の大きな変化が少しずつ落ち着いてくるころかもしれません。それまで、体の変化とともにいろいろな葛藤を経て、自立のための体験を繰り返してきましたが、それらを踏まえて大人として完成していく時期です。より現実的に考え、責任についても理解できるようになります。
働きかけのヒント
子どもの意思決定を尊重し、選択肢を考え、正しく自己決定できるようにそっと見守ってください。困っているとき、しんどいときこそ、大人の価値観を強調せず、子どもと一緒に考えていく姿勢を忘れないでください。
総合監修:国立研究開発法人国立成育医療研究センターこころの診療部 診療部長 田中恭子
<監修者プロフィール:田中恭子さん>
医師、小児科専門医、日本臨床心理士。国立研究開発法人国立成育医療研究センターこころの診療部 児童・思春期リエゾン診療科診療部長。1996年、順天堂大学医学部卒業。英国留学で発達心理学、ホスピタル・プレイ・スペシャリズムを修学。順天堂大学医学部附属順天堂医院小児科および精神科研修を経て、国立成育医療研究センターへ。子どものこころ専門医として小児精神医学の分野で活躍中。
<参考資料・文献>
- ジョーン・E・デュラント(著)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(監)柳沢圭子(訳) 『親力をのばす0歳から18歳までの子育てガイド ポジティブ・ディシプリンのすすめ』 明石書店 2009年
- 村本邦子、前村よう子(著) 『思春期の危機と子育て』 FLC21子育てナビ 2003年
- 明橋大二(著)太田知子(イラスト) 『子育てハッピーアドバイス 大好き!が伝わるほめ方・叱り方3』 1万年堂出版 2010年
- 高橋惠子(著) 『子育ての知恵~幼児のための心理学~』 岩波書店 2019年
- 平井信義(著) 『子どもを叱る前に読む本』 株式会社ギャルド 1991年
- 岡本依子、菅野幸恵、塚田-城みちる(著) 『エピソードで学ぶ 乳幼児の発達心理学』 新曜社 2004年
- 五十嵐隆(監)秋山千枝子、小倉加恵子、坂下和美、田中恭子、山本直美(著) 『子どものためのサイコソーシャルアプローチ~すこやかに育つことばがけ』 東京医学社 2020年