こどものミカタ

子どもの視点を学ぶ

気質から考える
子ども

秋山 邦久 さん

秋山 邦久 さん

常磐大学人間科学部心理学科教授

子どもの気質に合った
工夫を考えよう

「うちの子はどうして落ち着きがないのだろう」「いつも静かで大丈夫かな」と気になることはありませんか。それは、生まれたときからの気質が関係していることもあります。気質を理解することで、子どもとの向き合い方へのヒントがあるかもしれません。児童臨床心理学の専門家である秋山邦久さんにお話を聞きました。

気質とはどのようなものでしょうか。

それぞれ持って生まれたその人の特性で、ビーイング(Being)タイプとドゥーイング(Doing)タイプがいます。

人には、それぞれ持って生まれた特性である気質があり、基本的には変えることはできません。人の性格は気質をベースに、その後の経験によって変わっていきます。

気質は大きく2つに分かれます。その場に存在しているだけの感覚で特に動かなくても安心を感じるのがビーイング(Being)タイプ。それに対して、何かを行動することで安心を感じるのがドゥーイング(Doing)タイプです。2歳前ごろまでの乳幼児期は、生まれながらの気質がより強く現れます。例えば、「上の子はのんびり屋だけど、下の子は動くね」といった、ざっくりとした、それぞれの違いを生活の中で観察して、いつもゆったり行動する穏やかなビーイングタイプなのか、活発で動き回るドゥーイングタイプなのか、把握してほしいと思います。

気質は持って生まれた変わらないものですが、その後の関わりによって、ビーイングの子どもでもその場に即した行動ができるようになり、ドゥーイングの子どもでも落ち着いているように見せる行動をとることができるようになります。それがしつけです。

生まれてから1、2歳くらいまでは、しつけは必要ありません。この時期は、その子の気質を見極め、オムツを替える、ミルクをあげる、あやすといった関わりで、子どもの欲求を満たしてあげることです。また、スキンシップや声かけをすることで、子どもが「自分は愛されているんだ」と感じ、基本的信頼感のベースができます。

気質は基本的には大きく変わらないのですが、ホルモンバランスの影響を受けて、変わる可能性のあるタイミングが2回あります。それは、思春期と女性の場合は妊娠・閉経あたりです。思春期は、第二次性徴が影響します。特に思春期は、ホルモンバランスの影響が子どものいろいろな側面に影響を与えるので、「いつもと違うところがないかな」と子どもの様子を観察することが大事です。

子育ての中で、子どもの気質を理解することはどのように役立ちますか。

子どもと親の相性のようなもので、親が自分の幅を広げる機会になります。

親にもビーイング、ドゥーイングという気質があります。子どもが親と同じ気質だと、子どもの行動を見て「わかる、わかる」と子どもの言動を受け止めやすいです。一方、親と子どもの気質が違うと「まったく落ち着きがないのね」とか、「うちの子は何にも興味を示さない」と子どもを否定的に見てしまいがちです。まずは、気質の違いによって子どもとの相性があるということを知っておくと良いかもしれません。

その上で、自分の気質と合わない子どもを、否定的に見るのではなくて、その子のおかげで気質の違いを勉強させてもらう、自分の幅を広げる機会だと捉える気持ちが必要です。

自分の気質と異なる気質を持つ子どもの場合、どんな工夫で乗り越えられますか。

子どもの気質に合わせた工夫や働きかけをすることができます。

子どもがドゥーイングの場合、どんなに注意しても子どもは動き回ってしまう。それは気質なので、注意しても子どもが理解して適切な行動をとることは難しい。そうではなく、どんな工夫ができるかということを楽しんでみましょう。複数の子どもがいる場合は、子どもによってそれぞれ効果的な工夫が違うことも多いでしょう。いかに子どもに合った工夫をできるのかが、親の腕の見せ所です。

例えば、ドゥーイングの子どもが食事中に動き回ります。それは気質なので、座って落ち着いて食事をすることは難しい。そのような場合には、食事中に動く機会をつくってあげましょう。「あれを持ってきて」「これを持ってきて」と、少し動く機会をつくると、そのあとは、落ち着いてご飯を食べることができます。落ち着いて食事をする時間がちょっとずつ長くなってきたら、そのことをほめる。また動きそうだなと思ったら、また動く機会をつくる。そんな工夫をしてみると、子育てが面白くなりますよ。

思春期の子どもへの働きかけも、気質を知っていると、少し工夫することができます。
思春期は、性や攻撃性の衝動が高まる不安定な時期になります。性に目覚めるので、当然のように家庭内の異性(男の子の場合は母親、女の子の場合は父親)に対しても戸惑いを示すようになります。女の子は小学校5年生ぐらいから、男の子は中学校1年生くらいでこの時期に入ります。

例えば、中学校1年生くらいの男の子で、まだお母さんに甘えたい気持ちがあるけれど、近づくと母親に対して女性のにおいを感じてしまう。そうすると、近づきたいけど近づけないという葛藤状態で、ドゥーイングの子どもは「うるせぇ、クソババア」のような言葉を発してしまうことがあります。このことを知っていると、「そんな口の利き方をするなんて」と怒らなくてすむのです。逆に「どうせ言うなら、クソは汚い言葉だから、ウンチお母さんと呼んでね」とユーモアで返しておけば良いのです。

同じ状況でもビーイングの子どもは、親と静かに距離を取るようになります。気質を理解していると、「どうして何も話してくれないの」と子どもに言わずにすみます。どちらも悪いことではありません。

ただし、思春期は、きちんと向き合わなければならいときもあります。ビーイングの子どもは閉じこもったり引きこもったりする可能性があります。いつもと違う状態が3日続いたら、きちんと向き合って子どもの話を聴く。「いなすこと」と「対峙すること」が、思春期の大切なポイントです。

子どもの気質を知る手がかりやヒントはありますか。

普段の生活から、大枠で子どもを見てみましょう。

子どもを理解する一番の基本は、日常生活で子どもをよく見ることです。一人で遊んでいても満足している。自分の体の感覚、指しゃぶりや足舐めをしているだけで満足しているビーイングの子どもなのか。あるいは、遊びから離れるとすぐにお母さん、お父さんを呼びたがる、親の関わりを求めるドゥーイングの子どもなのか。

細かくチェックリストをつけるように判断するのではなく、大枠で子どもを見ましょう。親の見立てが間違っていてもいいのです。「イライラする子どもだな」と思ったときに、「私はビーイングでこの子はたぶんドゥーイングで、せっかくだからこの子との関わりから、私にはないドゥーイングの感じ方や考え方をちょっと学んでみようかな」という気持ちになると良いのではないでしょうか。

子どもを観察するときのポイントはありますか。

子どもの文脈で子どもを理解しようとすることが大切です。

人は皆、自分の文脈の中でものごとを理解しています。文脈とは、その人の気質や価値観、考え方、経験、人生を過ごしてきたあらゆる環境などから形成されます。子どもは幼ければ幼いほど経験が少ないので、子どもの文脈は気質が中心になります。だから、気質を大切にした関わりが大事なのです。2歳から3歳までに子どもの行動範囲が一気に広がり、さらに学校に通うようになることで、文脈が少しずつ広がります。

例えば、「去年の暮れ、タコアゲタ?」と質問されて、何を思い浮かべますか?子どもに質問すれば、ほぼ全員が「凧あげ」を連想するでしょう。漁師さんや海の近くに住んでいる人は「タコ(蛸)のから揚げ」を思い浮かべるかもしれません。年配の方は「お歳暮でタコを贈ったか」と聞かれていると思うかもしれません。これが、文脈の違いです。

大人になると、それまでの経験や環境でつくられた自分の文脈をほかの人に当てはめようとしてしまいます。子育ての中では、子どもの文脈を忘れがちです。大人は子ども時代の気持ちや考え方を思い出せるはずですが、つい忘れて、今の自分(大人)の文脈で子どもに接してしまい、「なんで、ここで静かにしないの」「これぐらいできるでしょ」と言ってしまうのです。

したがって、子育てでは、子どもに大人(自分)の文脈を押し付けないことがポイントです。自分(大人)の文脈を押し付けていないかを確認することが、子どもと向き合うときに大切な前提となります。その上で、子どもの気質、子どもの文脈に合った工夫をすることが重要です。

子どもと向き合うときに、まず自分の気質、子どもの気質を理解すること。次に、「子どもに自分の文脈を押し付けていないかな」と常に確認すること。自分の文脈を押し付けているかもしれないと思ったら、自分が子どもだった時を思い出して、子どもの文脈を考えてみること。こうやって子どもを理解した上で、そこから子ども一人一人に合わせたどんな工夫ができるかを考えてみてください。工夫の引き出しがどんどん増えてくると、子育てがより面白く、より楽になってくると思います。

秋山 邦久 (あきやま ・くにひさ)

現職:
常磐大学人間科学部心理学科 教授 (公認心理師、臨床心理士)
プロフィール:
大阪市立大学大学院修了後、秋田県職員として児童相談所や福祉事務所の心理判定員を16年務めた後、文教大学大学院、桜美林大学大学院、弘前大学大学院、常磐大学大学院などで臨床心理士の養成に携わる。専門は家族心理学や児童福祉臨床で、大学での講義のほか、全国の児童相談所や病院、教育センター、越谷心理支援センターなどで心理支援やカウンセリングを行っている。
もっと学びたい人へ:
『臨床家族心理学―現代社会とコミュニケーション』
秋山邦久(著) 福村出版発行 2009年