子どもの視点を学ぶ
関係性から考える
子ども
明橋 大二 さん
真生会富山病院心療内科 部長
自立への第1歩のために
良く甘えさせよう
子どもは生まれてから、さまざまな人と関係性を築いていきます。最初は親との関わり、その後はさまざまな人との関わりを通して、自分自身を成長させていきます。親子の関係性や、子どもが成長していくにつれて築いていく人間関係について、どのような視点が大切なのでしょうか。精神科医の明橋大二さんにお話を聞きました。
子どもにとって身近な親との関係とは、どのようなものでしょうか。
依存と自立の行ったり来たりにつきあっていく関係です。
子どもは生まれたあと、最初に身近な親と人間関係を結びます。それは、子どもの将来にわたって影響を与えることになります。最近は「愛着関係」と呼ばれていますが、子どもにとって初めて出会う親や養育者との関係は、とても大事だということがわかってきています。
子どものこころは、依存と自立を行ったり来たりしながら成長していくと言われます。言葉を換えると依存は甘え、自立は反抗として行動に表れます。子どもは赤ちゃんのとき、親に完全に依存しており、十分に甘えることで安心感を得ます。依存の世界は安心だけれど、同時に不自由な世界なので、そのうち、子どものこころに不自由な気持ちが出てきます。不自由を感じる子どもは、「自由になりたい」「自分でやりたい」と思うようになる。それが意欲です。
意欲に後押しされ、子どもは自由な自立の世界に向かい、自分の好きなようにできることを満喫します。そのうち、「独りぼっち」「何かあったらどうしよう」と不安な気持ちが出てきて、その不安が強くなると依存の世界に戻ります。そこで十分親に依存し、甘えて安心感を得る。すると、また不自由を感じて意欲が出てくる。そして「自分でやる」と言って、自立の世界へ向かっていきます。
こうして行ったり来たりを繰り返して子どものこころは大きくなります。その依存と自立を保障するのが、親の役割です。ここで大切なことは、子どものペースに合わせるということです。子どもが不安を感じて親のそばに来たときに、「よしよし」と相手をする。「自分でやる」と言ったら、自分でやらせる。
私たち大人は、甘えてきたときに「自分でできるでしょう」と突き放してしまったり、自分でやろうとしているのに、時間がかかるので「もう、私がやるから」と言ってしまったりしがちです。本来は、子どものペースで行ったり来たりできることが大事です。
「子どもを甘えさせないことが、自立させること」と思いがちですが、自立のもとになるのは意欲です。意欲は安心感から出てくるものであり、安心感は十分な依存と甘えが土台になっています。実際、青年期以降の自立につまずく人を見てみると、幼いとき、甘えて良いときに十分甘えることができなかった経験があることが多いです。
望ましくない子どもへの関わりとはなんでしょうか。
「ほったらかし」と「かまいすぎ」な関わりです。
依存や自立をさせない子どもとの関わりは、問題になります。
依存させない関わりは、ほったらかし(放任)やネグレクト(育児放棄)などです。例えば、赤ちゃんなのにオムツを替えない、ご飯を与えない、一切世話をしない。こういったことは依存させずに突き放す関わりの最たるものなので、良くありません。
「おまえなんか、どうせ何をやったってダメだ」「おまえなんか、どうせ人間のクズだ」など、子どもを全否定したり押さえつけたりすること、あるいは、子どもが自分でやろうとしているのに大人が手を出してしまう過干渉も自立させない関わりです。
放任、ネグレクト、抑圧、過干渉にならないように気を付ければ、たいてい大丈夫です。簡単に言うと、「ほったらかし」と「かまいすぎ」に気を付けましょうということです。
子どもの甘えをどこまで聞いて良いのでしょうか。
「甘えさせる」は大事だけど、「甘やかす」は良くありません。
甘えには、「良い」と「良くない」の2つがあることは、あまり知られていません。良い甘えを「甘えさせる」、良くない甘えを「甘やかす」と言います。「甘えさせる」と「甘やかす」には2つの違いがあります。
1つ目は、情緒的な要求か物質的な要求かの違いです。
「甘えさせる」とは、子どもの情緒的な要求に応えること。「抱っこして」「話を聞いて」という要求や、わんわん泣いている場面などに対応することです。それらは大事なことで、いくらやったとしても「甘やかす」ことにはなりません。
一方、「甘やかす」とは、「お菓子ちょうだい」「お金ちょうだい」など、物質的な子どもの要求に言うままに応えてしまうことです。子どもの情緒的な要求にはしっかり応え、物質的な要求はきちっと制限するということが大事です。
2つ目は子どもへの介入の違いです。
「甘えさせる」というのは、子どもがどうしてもできないことを大人が手助けすること。これは「甘えさせる」で必要なことです。これによって、子どもの他人への信頼感が育ちます。「自分が助けを求めれば、ちゃんと助けを得られる」という信頼感を育てます。
一方、「甘やかす」というのは、子どもができることまで大人が手を出してやってしまうこと。これは過干渉になり、良くありません。子どもが自分でできることはやらせてみる。どうしてもできないことは、大人がちゃんと手助けすることが大事です。
子どもは、情緒的な要求や、できないことを助けてもらうなどの甘えを受け止めてもらったときに、こころの安心感を得ることができます。また「自分がそうやって相手してもらえるのは、自分にそれだけの価値があるからなんだ」という自己肯定感が育つもとになります。
親子の関係は子どもにとってどのようなものでしょうか。
子どもの人間関係のベースとなります。
親との間に築いた愛着関係は、子どもの人間関係のベースになっています。子どもが甘えを求めたとき、親がそれに応えないことが繰り返されると、「親は自分の望みに応えてくれないものなんだ」「あてにするだけ無駄だ」と思うようになります。そのように育ってきた人は、人間関係において「人を信じるものじゃない」「人を信じても裏切られるだけ」と思ってしまうことがあります。
あるいは、自分が気に入ったことを子どもがすれば喜ぶけれど、都合の悪いことをされると怒る親の場合、子どもは親に愛されるために必死で、親の顔色を見たり、親の都合の悪いことを言わなくなったりします。
そのように育った子どもは、大人になってからも、先生や会社の上司、パートナーなどの顔色を見るようになり、その人に都合の良いことしか言わないとか、相手に都合の悪いことは言わずに我慢して相手に合わせてしまうといった関係になってしまうことがあります。
子どもは成長するにつれて、親だけでなくさまざまな人との関係で成長します。親として、何ができるでしょうか。
子どもの自己肯定感を支えながら、人間関係の築き方を教えていきましょう。
子どもが大きくなっていくと、友だちや部活、先生との関係などでトラブルが起きたりします。しかし、そこに親が介入し、「うちの子が困っているんだ。態度を改めなさい」とは言えません。
そういったときに親ができるのは、家で話を聴き、子どもを支えることです。子どもの話を聴きながら、適切な人間関係をその都度教え、誤解があればそれを修正していく。先生が心配して言ってくれたと思えるときは、「それは決して悪い意味じゃなくて、あなたのこういうところを心配して言ってくれたんじゃないかな」とか、友だちの言葉は「こういうことだったんじゃないかな」とか、適切な見方を伝えていくことが大事です。
子どもが傷ついているときは、「あなたが、そう言われるようなことを言ったんでしょう」とか「悪気はないから、許しなさい」と言うべきではありません。そういったときは、そのつらい気持ちに共感して「それはいやだったね」とか「いくら悪気がなくても、そんなこと言われたら傷つくよね」と子どもを支えてほしいと思います。
子どもは傷ついたとき、自分を責めてしまい自己肯定感が下がってしまいます。親には、最終的に、子どもの自己肯定感を支える役割であってほしいと思います。子どもの自己肯定感を支え直すことで、子どもは救われます。
子どもの自己肯定感を育むためには、どのような視点が大事でしょうか。
子どもの甘えを受け入れる、そして安心感を与えるということが大事です。
よく、自己肯定感を高めるためには「ほめることが大事」と言われます。しかし、ほめるだけだと見かけ倒しの自信になってしまいます。ほめられているときは良いが、けなされた途端に落ち込んでしまうことにもなりかねない。本当の自己肯定感とは、自分の良いところもマイナスの部分も含め、自分は生きている価値がある、大切な存在だと思える気持ちのことです。その気持ちを育てるためには、ただほめるだけではなく、子ども自身が自分のネガティブな部分も受け入れられるようになることが大事です。
そのために、特に幼いときに大切なことは、親が子どもの甘えを受け入れ、安心感を与えることです。子どもが失敗したときに、親が注意したとしても、「自分は親から見放されていない」という気持ちを育てることが大事だと思います。
例えば、お兄ちゃんが妹をいじめてお母さんから叱られたとき、「お母さんは自分のことを嫌いになった」と思って2階でふてくされる。しかし、ご飯の時間になると、お母さんがご飯の時間だと呼びに来てくれることで、「こんな自分のためにご飯をつくってくれた」と、ホッとする。いけないことは注意されるけれど、衣食住といったお世話をしてもらえる。そういうことが自己肯定感を育むうえで大事ではないかと思います。
最近は「自己肯定感」という言葉が流行り、それが親のプレッシャーになっています。「自己肯定感を高めるためにはどうしたら良いでしょう」といった悩みを聞きますが、特別なことは必要ないと思うのです。ご飯をつくる、お風呂に入れるといった日々のお世話が、子どもが「自分が生きていて良いんだ」と思える安心感につながっていると思います。
明橋 大二 (あけはし・だいじ)
- 現職:
- 真生会富山病院心療内科 部長
- プロフィール:
- 大学病院等を経て現職。児童相談所嘱託医、一般社団法人HAT共同代表。TV出演に「情報ライブミヤネ屋」「報道ステーション」。著書「子育てハッピーアドバイス」は、シリーズ500万部超のベストセラー。
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