こどものミカタ

子どもの視点を学ぶ

主体性と自律から
考える子ども

木村 泰子 さん

工藤 勇一さん

学校法人堀井学園 理事
横浜創英中学校・高等学校 校長

子どもが主体性を生かせる工夫をしよう

子どもが主体性を生かせる
工夫をしよう

変化の多い現代社会だからこそ、自ら考え、自ら判断していくといった「主体性」を育む子育てや教育が注目されています。横浜創英中学・高等学校校長の工藤さんは、これまで「当たり前」とされてきた校則や宿題を根本から問い直し、子どもが主体性を発揮し、自律できる環境づくりを進めてきました。子どもの主体性・自律を育むためには、また、こころが揺れ動く思春期には、どう親が関わっていくことが求められるのでしょうか。

子どもの自律する力を育むためにできることは何でしょうか。

子どものありのままを受け止め、自己決定することを促す声がけをしていくことです。

この質問にお答えをする前に、まず、こちらのインタビューを読む方にぜひ知っていてほしいことは、子育て中の親が自分を責めないことが大事だということです。子育てをテーマに話をすると、多くの場合、「親がどうあるべきか」の理想像が掲げられます。一方で、親がその理想像と自分がかけ離れていると思い悩み、自分を責めてしまうことです。でも、親が自分や自分の子育てを責め、それが子どもに伝わると、子どもが自分自身を責めたり、自分を責めている親を責めたりします。どんどん不幸を感じるようになってしまうのです。

ですから、このインタビューを読み、どこかで「自分はダメだ」と思ったとしても、自分を責めないでください。自分を責めず、自分の欠点だと思うことも含め、自分のありのままを受け入れる努力をしてほしいと思います。ありのままの自分自身は変えなくて良いのです。ただ、子どもと関わるとき、上手くいかないのであれば、言動を変えること。これだけで大きく変わります。

子どもに自律する力をつけさせたいとき、「あれをしろ」、「これをしろ」と押し付ける指示は、子どもの自律を逆にそいでいきます。しかし、今の多くの親自身が学校文化を筆頭に「あれをしなさい」、「これをしなさい」という指示だらけの中で育っており、自分の子どもを自律させるための言葉を上手に選べる人はあまりいません。

そこで、苦手な人は「自律する子の育て方」(SB新書)という本でも紹介している、自律を促進するための3つの言葉を活用してみてはいかがでしょうか。まず1つ目は、子どもがやりたいことがあるときや困っているときに、「どうした、何か困っていることある?」と聞きます。そして子どもの話を聴いてから、2つ目に「あなたはどうしたいの?」と尋ねます。子どもが何か考えを話してきたら、「そっか、そういうふうにやりたいのか」と受け止めながら、3つ目として「何か私に手伝えることある?」と問いかけます。

この3つのセリフはすべて疑問形です。子どもはそれらに考えて答えなければいけません。特に3つ目の質問をすることは、「どんなことを自分が決定したとしても親は自分を支えてくれる」という安心感を子どもに伝えることができます。子どもが進んで自己決定できる環境をつくるためには、この心理的安全性が非常に重要です。

心理的安全性を確保するためにできる簡単な方法があります。子どもとの対話の中で、第一声で本音を言わず、第二声で本音を言うという方法があります。第一声は子どもが何かを言ってくれたことに対して、受容する言葉を選ぶことです。

例えば、親が思っている進路選択と全く違う方向で「これを選ぼうと思うんだ」と、子どもが言ったとき、親はつい心配になり「えー、そんなの選んじゃうの?」と言いたくなる。そこをぐっとこらえ、「へー、面白いね。どうしてそういうふうに考えたの?」と聞いてみます。

そして、そのあとの第二声で、「私、今そんなこと言われたらなんか心配でドキドキしてきたな」など、本音を言います。第一声は必ず共感する。その習慣がつくだけで、親子関係はものすごく変わると思うのです。

子どもへの接し方を変えることがうまくできないとき、どうすれば良いでしょうか。

自分が目指したい子どもとの接し方が習慣になるような工夫をすることです。

では、先ほどのような目指したい問いかけや受容の声がけをどう習慣づけていくかですが、まず知ってほしいのは、精神力で頑張っても人間はなかなかできないものだということです。たとえ強く意識しやり始めたことでも、人はなかなか行動が続きません。いわゆる三日坊主です。

ここで大事なことは、自分を責めないということです。なぜなら、生物学的には誰もが三日坊主になってしまうのが当たり前だからです。人間の脳はそもそも日頃行っていない行動はできないような仕組みになっているのだそうです。

脳科学の視点で考えると、自分の思考パターンや無意識の行動パターンを変えるには、言動をとにかく繰り返すことと言われています。つまり、三日坊主は行動を繰り返すことでしか克服できないというジレンマが生じるわけです。

しかし、多くの一流の人たちは、このジレンマをいとも簡単に克服しています。特に注目すべき点は、精神力で克服しているわけではないということです。むしろ、ありのままの自分を受け止めて、その上で克服するためのルーティーンを工夫しているのです。

たとえば、メジャーリーグで活躍している大谷選手は、高校1年生のとき、自分の部屋にマンダラチャートという自分で書いた目標シートを張っていたそうです。きっと彼はたとえ自分が決めたことですら忘れてしまう自分を知っていたのです。ですから、常に見えるところに張っておき、何度も繰り返し見ては頭の中にたたき込むという行動を繰り返していたのでしょう。

目指している言動が日常的にできるようになるためには、とりたい言動を忘れないところに張りつけることや、指輪やミサンガのように身に付けるもので思い出すこともできます。もし、親としての行動をなかなか変えられないで悩んでいるのなら、そのありのままの自分をまずは受け入れることです。そして、続けられない自分、忘れる自分を受け入れて、親として子どもとどう接するかを思い出させてくれる仕掛けを工夫してみてはいかがでしょうか。

身に付くまでの時間は人それぞれなのですが、人間の脳は繰り返すことによって、確実にそこに回路がつくられていきます。そうして言動が染みついてくると、たとえネガティブな自分の無意識さえも書き換えることができるのです。客観的に見る力のことをメタ認知能力と呼んでいます。自分のありのままを受け入れて、メタ認知したうえで、その自分に対し仕掛けをつくって自分の無意識をより良い方向へ書き換えていく。子どもとの接し方の中でも、そういったメタ認知を意識できると良いと思います。

特に揺れ動く時期である思春期の関わり方で意識したいことはありますか。

思春期の特性を理解しておくことです。

人間の脳には、物事を思考する、感情をコントロールする、自分の良くない行動を抑制するなどの機能をつかさどる部分がありますが、思春期はその部分が未成熟なのだそうです。したがって、思春期は感情をコントロールするのが苦手なのです。

思春期の子どもが突然、「私スターになる」と言って家を飛び出してしまったりと、突拍子もないことをしたりすることがありますが、こうした一見無謀とも思える行動を起こしてしまうのは、ある意味、まだまだ未熟な脳の仕組みのせいなのかもしれません。

しかし、見方を変えれば、思春期は挑戦できる時期だということができます。いろいろなことに挑戦したい感情が湧き起こってくる時期とも言えます。それを頭ごなしに親が抑圧してしまうと、子どもは次第に諦めてしまうようになります。そして「自分は抑圧されたからできない」、「本当はやってみたいのに親がダメだって言ったからできなくなった」と、できない理由を親にひも付けしてしまうようになります。これはすごく不幸なことです。

また、思春期の子どもの多くは、人の感情が気になります。相手の声のトーンや表情には特に敏感で、大人が気づかないような感情の変化にも気づくことができるそうです。親の些細な一声や表情に過剰に反応してしまうのも致し方ないことなのかもしれません。

人の声のトーンや表情への意識が集中する時期だからこそ、子どもたちが笑顔の大人が好きなのは当然です。いつも笑顔でいてくれる大人がそばにいるのは、やっぱり安心感の源だと思います。思春期特有の特性を知っておくと同時に、敏感な子どもの不安定さを支えられることが、子どもとの関わりで大事なのではないでしょうか。

親子の関わりで一番大切にしたいことは何でしょうか。

「子どもの主体性を生かしていくこと」と「親子関係が楽しいこと」です。

子育ての最終目標は、「子どもが上手に人の手を借りながらも、自分でこの世の中を歩んでいくことができる力をつけること」です。言い方を変えれば、どのように手を離していくかが、子育てであり、教育だということです。

しかしつい親は、社会でさまざまな力が必要だと思い過ぎてしまい、それらの力を育てることにやっきになってしまいます。他の人と比べ、「うちの子、言葉が遅れていないかな?」、「友だちと遊べていないのかな?」、「ひらがなをちゃんと覚えているのだろうか?」、「計算できるのだろうか?」と、そうした力を育てなきゃと思ってしまいます。

結果として、「あれしろ、これしろ」と指示してしまうことが多くなってしまいます。そして子どもは指示に慣れてしまう。最初のうちは良いのですが、子どもが指示慣れすると、だんだん上手くいかないことがあるたびに、指示を与える人に対して不満を言うようになってしまいます。

例えば、朝なかなか起きられない子どものお母さんが、遅刻が心配でつい起こしに行きます。当然ですが子どもには遅刻してほしくないからですよね。しかし、これを続けていると、次第に子どもは母親のサービスに慣れていきます。そのうち、「お母さん、うるさい」、「ほっといてくれよ」とか言ったりします。しまいには怒ったりするようになります。

売り言葉に買い言葉で、お母さんも「じゃあ、放っとくよ」なんてことになるのですが、いざ本当に寝坊してしまったりすると、「なんで起こしてくれなかったの。もう学校行かないからね」と子どもに逆ギレされたりすることになったりします。与えられることに慣れてしまった子どもは、「与えられるサービスの質に不満を言いながらも、サービスを求め続ける」という悪循環に陥っていくのです。

本当に最優先されるべきことは、子どもが主体性をもって、自分が生きていて楽しい、自分で決めて楽しいと思える経験をさせることです。子どものしつけで心がけたいのは、いつかこの子は自分を離れていくということ、それが子育てだと親が自覚することです。そして、「子どもの主体性を生かしていくこと」と「親子関係が楽しいこと」、このことだけ忘れなければ幸せな子育てになるだと思います。そして、「なんか幸せだね」といった言葉が飛び交うような家庭だと良いですね。

工藤 勇一 (くどう・ゆういち)

現職:
学校法人堀井学園横浜創英中学・高等学校校長
プロフィール:
東京理科大学理学部応用数学科卒業、公立学校教員、東京都教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長、千代田区立麹町中学校校長(2014年4月〜2020年3月)、内閣官房教育再生実行会議委員(2018年8月〜2021年8月)、内閣府規制改革推進会議専門委員(2021年8月〜)、経済産業省産業構造審議会臨時委員(2021年6月〜)
もっと学びたい人へ:
『最新の脳研究でわかった!自律する子の育て方』
工藤勇一、青砥瑞人(著) SB新書発行 2021年