(公開日:2014.07.29)
【福島:コメラさんさん(12)】ユニリーバこども笑顔プロジェクト(リスクマネジメント研修in猪苗代)(2014.07.29)
- 日本/東日本大震災/福島
2014年の夏休みシーズンもいよいよ始まりましたね。みなさんは、どんな計画を立てていますか?山に川に海に、アウトドアでの活動が楽しい季節の幕開けです。
福島県でもこの夏、各地で子ども向けキャンプや自然体験活動が計画されています。原発事故後、外遊びや野外活動の機会が制限されている子どもたちにとっては、比較放射線量が低い地域で思う存分、自然に触れる機会を持つことは大きな意味があります。とはいえ、野外活動には事故やケガもつきもの。引率する大人に正しい知識と技術がなければ、重大な結果を招くこともあり得ます。
そこでSCJでは、7月4、5日、ユニリーバ・ジャパン社の支援をもとに、福島県内で子ども向け野外キャンプ・自然体験活動に携わるスタッフを対象にした実践的なリスクマネジメント研修を企画しました。研修には公募で県内各地からやってきた計15人の受講生が参加しました。「事故を起こさないためにはどうすればよいか?」「事故が起きた際はどう対応すべきか?」。1泊2日の研修を通して、そういった問いに対する自分なりの答えの出し方を受講生のみなさんに学んでいただきました。
研修講師は、日本全国に3700あるといわれる自然学校の草分け的存在である「ホールアース自然学校」の専門講師3名。富士山や沖縄など全国各地でのキャンプ経験が豊富な方たちです。みなさん、気さくなキャラクターで、講習の雰囲気作りにも長けています。会場は、福島県猪苗代町の国立磐梯青少年自然の家。磐梯山の麓にあり、猪苗代湖を望む素晴らしいロケーションです。
研修は、講義と実習で構成され、理論面を学んだ後に、現場における具体的な対応策を実践しました。1日目最初のリスクマネジメント論では、自然環境に存在するリスクについて考えたのち、対処として、「事故を起こさない」予防策と「起きたらどうするか」の事後対応をそれぞれ考えておく必要があると説明がありました。そして、大事故が起こる背景には多数のヒヤリハット事例があるという「ハインリッヒの法則」が紹介されました。また、事故発生時にはボランティアスタッフにも一定の責任が課されることが説明され、非常時への備えとして、保険をかけることの重要性が強調されました。講義の最後には、講師が実際にキャンプに持参しているという非常用装備一式を例に出し、必要な装備についてのレクチャーがありました。
続く、野外救急法・搬送法講座では、「野外でもっとも発生しやすい事故は、転倒である」という過去の調査結果をもとに、転倒事故の対処に絞って、実践的な応急処置法を学びました。ホールアース流の応急処置は「その場にあるものを使って、シンプルに」が特長で、身の回りで簡単に入手できるものを使います。たとえば、腕から出血があった場合は、ゴム手袋を身に着けて感染予防をしつつ、ガーゼで患部を圧迫し、そのままサランラップで巻いて固定します。
足首のねんざには、ホームセンターで購入できるビニールテープを巻いて患部を固定しました。
和田講師は「三角布を使うのもいいけれど、サランラップでも代用できる。緊急時には、そこにあるものを駆使して応急処置をすることが大事です」と話しました。搬送法では、担架などがない場合に、人力でけが人を運ぶ方法を練習しました。ロープや登山用ザックを使って、人を楽におんぶする方法なども紹介されました。
夜の部では、少人数のグループに分かれて、ケーススタディーに取り組みました。「真夏の日中、安達太良山に登山中の小学生グループの中に体調不良者が1名出た」という想定で、時間軸にそって、どのような行動をとるべきかをチーム内で議論しながらシミュレーションしました。取るべき行動を紙に書きだして、順に貼り付けていきます。「ほかの子どもは登山を継続した方が良いのでは?」「全員で引き返すべきではないか?」など、現場での判断に関わる意見に加え、「下山後、すぐに保護者に連絡を入れるべきでは」「救急病院が開いているのか確認した方がよい」など、その後の対応を念頭に置いた紙も出ました。浅子講師は「対応に絶対の正解はありません。非常時に何を優先し、どう考えるのかを、普段から訓練しておくことが大事なのです」とトレーニングの狙いを語ります。受講者の一人は「ほかの人の意見や対応方法が自分とは違っていて、自分だけでは気づけない視点を得られたのが良かった」と話していました。
2日目の午前中は、猪苗代消防署を訪問して、同署の職員より、普通救命講習を受けました。3時間にわたり、心臓マッサージに人工呼吸、AEDの使用法などをダミー人形を使って学びました。すでに受講していた参加者もいましたが、心肺蘇生法は定期的にリフレッシュ講習を受けて、最新の知識を体に叩き込んでおくことが大切です。何度も繰り返すことで、体が覚えていきます。
そして、最後の講座となる2日目午後は、事故を未然に防ぐための危険予知トレーニングの講習でした。最初に、子どもの野外活動の様子が描かれたイラストを見て、どこに危険な要素があるか探すグループワークに取り組みました。その後、実際に外に出て、フィールドにある危険を探し歩きました。一見、何の変哲のない広場や森にも、よく見ると、尖った金具や倒れかけの木、外から見えづらい排水溝などがあり、事故の要因になり得ます。グループで森を歩くと、一人では気づかなかった「危険の可能性」がより鮮明に見えてきました。浅子講師は「下見には、なるべく多くの人で行くことが重要です。視点が増えれば、それだけ見えるものも多くなります」と話しました。事後の処置も大事ですが、まずは事故そのものを起こさないことが一番大切。予防の重要性をあらためて感じました。
こうして二日間の講習は終了しました。8月に子どもと野外活動に出かけるという女性は「知っているつもりで、実は知らなかったことをあらためて学ぶことができました」と手ごたえを感じた様子。受講生のみなさんには、今回学んだことを活かして、ふくしまっ子がドキドキワクワクしつつも、安心して過ごせる野外活動の場を作り上げていってほしいものです。SCJも引き続き、応援してゆきます。
(福島事務所・中村雄弥)