災害から子ども達を守るために。ベトナムにおける防災(DRR)事業の報告(2014.08.20)

約3,400km に及ぶ長い海岸線と広大なデルタ地帯を有しているベトナムは、世界で5番目に気候変動の影響を受けやすい国と言われています。気候変動は降水量や天候パターンの変化をもたらし、その結果、自然災害が増えたり、その規模が大きくなったりしています。ベトナムでは将来的に海水面が30-50cm上昇すると予測され、総人口の約65-85%が、洪水による高い死亡リスクを抱えています。

ベトナムは毎年甚大な台風・洪水の被害を受けており、1980年~2010年の30年間に到来した台風の数は159個、その被災者数はのべ16,000人以上にも上りますが、自然災害への対応は依然脆弱です。毎年、多くの人々、特に子どもたちが暴風や洪水の犠牲になっています。例えば、2011年に起きたメコン流域での洪水では、犠牲者101名のうち、実に90%が子どもでした。

こうした状況を受け、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは、地域や学校の防災意識や対応能力を高めることで災害から子どもたちを守るための事業を2013年5月より実施し、2014年4月末には第1期が完了しました。事業の中での様々な活動を通して、子どもたちや学校関係者、地域の人々が地域や学校における災害リスクを認識し、被害を軽減させるための知識や技術を身に着けることができました。

【事業内容】

■災害リスク/災害対応能力の調査および防災計画の作成
学校や地域においてどんな災害のリスクがあるのか、災害が起きた際にどれだけ迅速に対応できるか、起こりうる災害に対し今後どのような対策が必要か、といったことを、住民や学校関係者、子どもたち自身が話し合い、その結果をもとに防災計画を作成しました。特に、学校における災害リスクについては、子どもたち自身が普段危険に感じている場所や災害時に経験したことなど、大人では気づかない子どものニーズを丁寧にくみ取った、子どもの声を反映した計画を作成することができました。

 
(写真左)「災害については不安が多いけれど、これまで住民が集まって話す機会がなかった。みんなで話しあい、問題点や改善点について共有できてよかった」と参加者の声。(写真右)省や郡の行政官のための研修を行い、事業終了後も彼らが地域や学校を引き続きサポートする体制を構築しました。

■防災教育の教材開発
子どもたちや親たちからの聞き取りから、災害時に特に注意が必要な場所や状況を把握し、子ども・大人それぞれに向けた啓発ポスターを作成しました。地域の状況に合わせた内容で、低学年の子どもにも分かりやすいようにメッセージやデザインを工夫し、学校や子どもが良く遊ぶ場所、地域の集会所等の目に付く場所に掲示しました。

 
(写真左)子ども用のポスター。台風時にしていいこと・してはいけないことが記載されている。
(写真右)大人用のポスター。台風時に子どもが川付近で遊んだり、魚を捕りにいくことを危険と認識していない親たちに注意を促す内容。

■防災子どもクラブの結成および防災キャンペーンの実施
事業対象の小・中学校において、防災子どもクラブを立ち上げ、教員の指導のもと、各学校の防災イベントや地域でのキャンペーンで使用するゲームや上映する劇の製作を、子どもたちが主体となって行いました。防災劇の製作においては、洪水の怖さや台風時に遊んではいけない場所、泳ぎを学ぶ必要性などを、低学年の子どもたちでも楽しみながら学べるように工夫し、多くの子どもたちの関心を集めました。このような活動を通じて、子どもたちが学校や地域の防災を自分たち自身の問題として捉えるようになり、積極的に関わるようにもなりました。

 
(写真左)防災劇のシナリオから演出、衣装や音楽まで子どもたち自らが考えました。
(写真右)「防災子どもクラブに参加して、知識を身につけるだけでなく、大人の前で自分の意見を言えるようになりました」という声も聞かれました。

■災害対応スキル向上研修
実際に災害が発生した際、最終的に生死を分けるのは個々人の救急対応スキルです。事業地においては、通学時に川を通らなければならない子どもたちが多く、水害に巻き込まれるケースが多発しているにも関わらず、泳ぎを習ったことがなかったり、水に慣れていない子どもたちが大勢います。事業では、避難訓練や救急救命研修と併せて、子どもたちが自分たちの命を守れるよう、着衣水泳教室を行いました。また、フローティングバッグ(通常時は通学カバンとして使用でき、緊急時には救命具にもなるカバン)の配布も行いました。子どもたちからは「通学時に水が怖くなくなった」との声が聞かれました。
 
 
(写真左)初めは水を怖がっていた子どもたちも、徐々に慣れていき、冷静に水に対処できるようになりました。
(写真右)避難訓練時の応急処置の様子。知識があっても、いざとなった時に行動に移す難しさを実感しました。

このような活動を通じ、子どもたちや地域の人々の防災意識や対応能力が向上し、これまで災害発生時には外部からの支援に頼っていた地域や学校が、防災に主体的に取り組むようになりました。

一方で、災害そのものの危険性を回避できたとしても、災害で生活手段を失うことによるその後の生活の困窮が大きな懸念事項としてあげられました。2014年5月に開始した第2期においては、こうした課題にも対応すべく、安全な地域や学校づくりに加えて、災害に強い農作物の導入等の取り組みも行っていきます。

※本事業は、皆様からのご寄付および株式会社ファミリーマートのご支援により実施しております。
http://www.family.co.jp/company/eco/special/2013_03/drr.html

ベトナム担当:武田
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