(公開日:2014.09.03)
ネパールの先生の教育観と子ども観(2014.09.03)
- ネパール
2012年から実施しているネパールにおける基礎教育プロジェクトでは、昨年から対象学校の先生たちに対して、教室での教え方の研修を実施しています。今回は、この研修を受けた先生たちがその後、実際に教え方を改善させることができたかどうかについてお伝えします。
昨年の研修では、いくつかの学校で小学5年生を対象に算数の診断テストを行い、そのテスト結果を分析して、生徒が間違えをおかしやすい計算問題の事例を見せるレポートをまとめました。そして、桁の位置、繰り上がり、繰り下がりの意味を、子どもたちがしっかり理解できるように教えるために必要なことをまとめて、各学校にフィードバックしました。
その後、フィードバックを受け取った学校では、先生たちがどこまで子どもたちのつまずきやすいポイントを意識して教え方を変えるようになったのか、また実際に子どもたちが授業の内容をより理解できるように教えているのかどうかを調べるため、前回と同じ学校で2回目の算数テストを実施しました。有効性を確保するため、テストを受けるのは今年の5年生で、問題は昨年のレベルと同じになるように設定しました。
<熱心に黒板の問題を自分のノートに書き写す小学校3年生の生徒、バンケ郡>
このブログを書いている8月下旬の時点では、対象5郡すべての学校での調査は完了していませんが、ネパール西部のバンケ郡とカイラリ郡での調査結果をご報告します。
結論から言うと、私たちが行った1回目のテスト結果のフィードバックに対する受け止め方は先生によって様々で、生徒の成績の改善ぶりも多様でした。
私はこのテストを昨年実施した経験から、子どもたちがテストの問題を解き始めて10分もすればそれぞれの生徒がどれだけ算数を理解しているのか分かるのですが、やはりきちんと教えられていない生徒の正答率は低いですし、逆に先生が熱心で、授業で積極的に子どもに質問し、教える努力をしている先生の生徒は目を見張って好成績をおさめました。この結果をもとに、昨年の研修後に実際に改善できたことは何か、改善を実現していくために困難なことや制約となっていることは何か等について、先生たちに質問しました。
まず、カイラリ郡の好成績をおさめたある学校は、たとえ先生の人数が十分でなくても、校長先生も他の教員も子どもの将来を考え、子どもはきちんと質の高い教育を受ける権利がある、という認識が高いことが分かりました。この学校は、昨年に実施した1回目の診断テストを受けて、学校が自ら同様のテストを行うようになり、先生が常に子どもの理解度を把握する努力を始めたそうで、私自身はとても感激しました。ですが、これは研修の結果そうなった、ということよりも、もともと熱心でやる気のある先生、校長先生の高い倫理観と強いリーダーシップという要因のほうが大きく作用していると思われます。
この学校が位置しているコミュニティは、ネパールでジャナジャティと呼ばれる少数民族やダリットと呼ばれる低カースト層の子どもが多いのですが、先生たちは、「例え親の教育に対する認識が低くても、学校はきちんと子どもを教育しなければならない」、と断言していました。また、子どもが就学するようになっても、毎日学校に通学してこないことがネパールでは大きな問題になっているのですが、この学校では、教室に生徒の名前がリスト化され、毎月通学した日数が記録されていました。100%出席した子どもは、朝の朝礼で先生から名前を呼ばれ、それが励ましになるようです。このように先生たちが様々な努力や工夫をして、その結果、子どもの学びが一定のレベルに達しているのでしょう。
<ネパールの熱血先生、カイラリ郡>
一方、他の学校では、低下こそはしていないものの、算数テストの成績の状況はさほど改善しませんでした。これらの学校の先生と話をしたところ、算数の成績が改善しない理由として、「親の認識が低い」「子どもが毎日学校に来ない」「算数を理解していない子どもに補習しようとしてもすぐ帰宅してしまう」といった様々な理由を挙げました。具体的に研修の後、何か変えたことはあるか、というこちらからの質問には、「すべてできることはやった」という曖昧な答えでした。また、私たちのフィードバックを校長先生自身はポジティブに受け止めても、それが実際に教室で教える先生の教え方の改善につながってはいない、というケースもありました。
バンケ郡の成績にあまり変化がなかったある学校では、小学5年生の割には背の高い女の子が数名いたため、先生に質問したところ、「何年繰り返しても計算問題が解けるようにならない」という回答。そこで、私が一人の女の子に直接2桁の繰り上げりのある足し算をたどたどしいネパール語で教え、繰り返し類似の問題を出したところ、30分もすれば問題が解けるようになりました。そもそも年齢が他の生徒より高いという理由だけで、先生がきちんと教えていないのではないかと思われました。
しかし、先生の子どもに対する態度、教育観、子ども観は簡単に変わることはなさそうです。昨年からの研修でも、子どもは生まれた時点ですでに能力が決まっている、という意見を述べる先生が少なからずおり、大議論になった経緯もありました。
残りのプロジェクト期間も少なくなってきました。私たちの提案を受け入れて改善を試みてくれた学校があったことは私たちの励みにもなりました。プロジェクト終了まで、少しでも多くの先生たちが子どもの能力を信じるようになり、子どもの学びの重要性に対し、より認識を強化してくれるように努力を続けたいと思います。
<意識の高い先生はどんな科目でも難しい内容は繰り返して教える必要があると認識しています、カイラリ郡>
本事業は日本政府の「コミュニティ開発支援無償」により実施しています。
(報告:ネパール駐在員 塩畑真里子)
昨年の研修では、いくつかの学校で小学5年生を対象に算数の診断テストを行い、そのテスト結果を分析して、生徒が間違えをおかしやすい計算問題の事例を見せるレポートをまとめました。そして、桁の位置、繰り上がり、繰り下がりの意味を、子どもたちがしっかり理解できるように教えるために必要なことをまとめて、各学校にフィードバックしました。
その後、フィードバックを受け取った学校では、先生たちがどこまで子どもたちのつまずきやすいポイントを意識して教え方を変えるようになったのか、また実際に子どもたちが授業の内容をより理解できるように教えているのかどうかを調べるため、前回と同じ学校で2回目の算数テストを実施しました。有効性を確保するため、テストを受けるのは今年の5年生で、問題は昨年のレベルと同じになるように設定しました。
<熱心に黒板の問題を自分のノートに書き写す小学校3年生の生徒、バンケ郡>
このブログを書いている8月下旬の時点では、対象5郡すべての学校での調査は完了していませんが、ネパール西部のバンケ郡とカイラリ郡での調査結果をご報告します。
結論から言うと、私たちが行った1回目のテスト結果のフィードバックに対する受け止め方は先生によって様々で、生徒の成績の改善ぶりも多様でした。
私はこのテストを昨年実施した経験から、子どもたちがテストの問題を解き始めて10分もすればそれぞれの生徒がどれだけ算数を理解しているのか分かるのですが、やはりきちんと教えられていない生徒の正答率は低いですし、逆に先生が熱心で、授業で積極的に子どもに質問し、教える努力をしている先生の生徒は目を見張って好成績をおさめました。この結果をもとに、昨年の研修後に実際に改善できたことは何か、改善を実現していくために困難なことや制約となっていることは何か等について、先生たちに質問しました。
まず、カイラリ郡の好成績をおさめたある学校は、たとえ先生の人数が十分でなくても、校長先生も他の教員も子どもの将来を考え、子どもはきちんと質の高い教育を受ける権利がある、という認識が高いことが分かりました。この学校は、昨年に実施した1回目の診断テストを受けて、学校が自ら同様のテストを行うようになり、先生が常に子どもの理解度を把握する努力を始めたそうで、私自身はとても感激しました。ですが、これは研修の結果そうなった、ということよりも、もともと熱心でやる気のある先生、校長先生の高い倫理観と強いリーダーシップという要因のほうが大きく作用していると思われます。
この学校が位置しているコミュニティは、ネパールでジャナジャティと呼ばれる少数民族やダリットと呼ばれる低カースト層の子どもが多いのですが、先生たちは、「例え親の教育に対する認識が低くても、学校はきちんと子どもを教育しなければならない」、と断言していました。また、子どもが就学するようになっても、毎日学校に通学してこないことがネパールでは大きな問題になっているのですが、この学校では、教室に生徒の名前がリスト化され、毎月通学した日数が記録されていました。100%出席した子どもは、朝の朝礼で先生から名前を呼ばれ、それが励ましになるようです。このように先生たちが様々な努力や工夫をして、その結果、子どもの学びが一定のレベルに達しているのでしょう。
<ネパールの熱血先生、カイラリ郡>
一方、他の学校では、低下こそはしていないものの、算数テストの成績の状況はさほど改善しませんでした。これらの学校の先生と話をしたところ、算数の成績が改善しない理由として、「親の認識が低い」「子どもが毎日学校に来ない」「算数を理解していない子どもに補習しようとしてもすぐ帰宅してしまう」といった様々な理由を挙げました。具体的に研修の後、何か変えたことはあるか、というこちらからの質問には、「すべてできることはやった」という曖昧な答えでした。また、私たちのフィードバックを校長先生自身はポジティブに受け止めても、それが実際に教室で教える先生の教え方の改善につながってはいない、というケースもありました。
バンケ郡の成績にあまり変化がなかったある学校では、小学5年生の割には背の高い女の子が数名いたため、先生に質問したところ、「何年繰り返しても計算問題が解けるようにならない」という回答。そこで、私が一人の女の子に直接2桁の繰り上げりのある足し算をたどたどしいネパール語で教え、繰り返し類似の問題を出したところ、30分もすれば問題が解けるようになりました。そもそも年齢が他の生徒より高いという理由だけで、先生がきちんと教えていないのではないかと思われました。
しかし、先生の子どもに対する態度、教育観、子ども観は簡単に変わることはなさそうです。昨年からの研修でも、子どもは生まれた時点ですでに能力が決まっている、という意見を述べる先生が少なからずおり、大議論になった経緯もありました。
残りのプロジェクト期間も少なくなってきました。私たちの提案を受け入れて改善を試みてくれた学校があったことは私たちの励みにもなりました。プロジェクト終了まで、少しでも多くの先生たちが子どもの能力を信じるようになり、子どもの学びの重要性に対し、より認識を強化してくれるように努力を続けたいと思います。
<意識の高い先生はどんな科目でも難しい内容は繰り返して教える必要があると認識しています、カイラリ郡>
本事業は日本政府の「コミュニティ開発支援無償」により実施しています。
(報告:ネパール駐在員 塩畑真里子)