「私たちの世界を変革する」持続可能な開発目標ってどんなもの?(第一回:目標17)


20159月、国連にて採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」。今後15年間で貧困や格差のない世界を実現するという、この壮大なグローバル目標について、様々なメディア等で目にされた方もいらっしゃるでしょう。採択されたSDGsを含む国連文書のタイトルには「私たちの世界を変革する」とあり、キャッチフレーズは「誰一人取り残さない」です。

 

世界の貧困・格差の問題、気候変動などの地球環境の課題に取り組んできた市民社会としては、この目標が国連加盟国193か国の全会一致で採択されたことを歓迎しています。今、私たちの目の前には、変革をもたらすための17の目標があります。17の分野(貧困や労働やジェンダーや気候変動など)ごとに一つの目標があります。さらに、一つの目標ごとに、より具体的な「ターゲット」がくっついており、これが全部で169に及びます。

 

一気にすべての目標を紹介するのは困難なため、記事ごとに一つか二つの目標をとりあげながら、「どんな目標なのか?何をターゲットにしているのか?」を順番に紹介していきたいと思います。普通は、目標1から始めるのですが、目新しさを狙って、あえて逆から紹介することにしました。

 

Dorothy Sang/Save the Children


目標17

「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」

 

目標17は、他の16個の目標とかなり違います。16までの目標が、貧困や保健、環境など、個別の課題を取り上げているのに対し、目標17は、「そうした個別の課題を解決し、変革をもたらすために、グローバルなレベルで何をやり、どうやってみんなで協力するのか?」ということに関する、全体にかかわる目標です。特に日本は先進国であるため、目標17の達成にはより一層の責任があり、この目標はとても大切な目標です(が、最後にあるので忘れられがちという目標でもあります)。

 

目標17は、(1)資金、(2)技術、(3)能力構築、(4)貿易、(5)政策や制度、説明責任、パートナシップなどの体制面に関するもの、の5つのターゲットに分かれています。資金や能力、技術がなければSDGsに関する政策も実施できないし、きちんとした政策がないと効率的でないばかりか、地図なしに航海するようなものです。また、政府だけが頑張っても解決できるものではありません。目標17は、それぞれの国がSDGs達成のために国の予算を使い、先進国は途上国を支援し、公正で首尾一貫した政策をつくり、政府だけではなく市民社会や民間企業とも目標達成に向けて協力し、必要なデータを集め、統計にまとめる能力を向上しましょう、ということを目指している目標なのです。

 

特に、資金が確保されなければ、SDGsは絵に描いた餅となります。では、資金について、どのようなターゲットがたてられているのでしょう?

 

まずは、国内の資金の確保、つまり税による収入を増やすことです。「国内資金の動員」と呼ばれています。国の歳入が増えれば、様々な施策にお金を使うことができます。この点では、資金のカテゴリーではありませんが、途上国にとって公正な貿易ルールを設定し、貿易から収入を得られるようにすることも目指されています。

 

次に、1970年からの約束である「先進国は国民総所得(GNI)比0.7%を政府開発援助(ODA)として拠出する」という目標を完全に実現することです。また、最も貧しい国へのODAを、GNI比で0.150.20%にすることもターゲットとされています。資金源に関しては、上述の国内資金動員や、民間資金に期待が向けられているものの、約束は約束として守ること、必ずしも民間が代替できない部分(利益がでない貧困対策など)に公的なODAを充てることが重要です。日本を含め先進国は厳しい財政事情にありますが、貧困対策等にODAを充てることにより社会の安定が図れます。これまで繰り返し言われていることではありますが、最終的に起きてしまった紛争や難民に対処するよりも、ODAはコスト面からも効率がいいということをもう一度確認し、内向きがちな議論を「変革」していく必要があるでしょう。

 

そして、途上国が抱える「債務=国の借金」をなんとかしましょう、ということもうたわれています。特に8090年代の構造調整政策は、先進国や国際機関への債務の返済のために、途上国は自国の教育や保健の予算を削らざるをえないという事態を招き、国際的に大きな問題となりました。途上国が必要なときに借金により資金を調達することができるようにするだけではなく、そうした国内の貧しい人々を犠牲にすることがないよう、債務の管理をきちんとやりましょうということが目指されています。債務問題に関しては、借り手側だけではなく、貸し手側にも応分の責任が生じますので、世界最大の債権国の一つである日本も、過去の失敗を繰り返さないよう、公正に対処することが求められています。

 

加えて、複数の財源から追加的に資金源を動員すること、特に貧しい途上国向けの投資を促進すること、がターゲットとして挙げられています。

 

目標17について、主に資金の面からご紹介しましたが、この目標に対して、特に先進国が真摯に取り組まなければ、個別の目標を達成するのにとても大きな障壁となります。最後の目標だから重要性が低いわけではないのです。車に必要な16個のタイヤをつけても、ガソリン(=目標17)をいれないと車は走りません。いやいやSDGs的には、ガソリンではなく、再生可能エネルギーによる電気か水素でしょうか?いずれにせよ、最後にある目標であっても「どの目標も取り残さ」ず、達成に向けての努力が求められています。

 

大野容子 アドボカシースペシャリスト

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