(公開日:2020.06.10)
レバノン 新型コロナウィルス感染症と経済危機の影響から学生生活の半分が休校に
- 中東
セーブ・ザ・チルドレンは、2019年10月から11月にかけて起こった経済危機への抗議デモと新型コロナウイルス感染症の影響で4ヶ月以上休校となっているレバノンで、12歳から24歳のレバノン人とパレスチナ難民、シリア難民137人を対象とした調査を実施しました。その結果、ほとんどの学生がオンラインなどによる遠隔授業を十分に受けられず、学校の課題に取組むことができない状況にあることが明らかになりました。
レバノン・ベイルートで子どもたちに学習キットを配布
また、昨年から続く休校により、セーブ・ザ・チルドレンは、学習の機会がなくなり、1日1.90ドル以下で暮らす人々が増え、子どもたちが教育を受ける機会が奪われる恐れがあると警鐘を鳴らします。
調査から明らかになった点は以下のとおりです。
・4分の3の若者がオンラインでの遠隔授業を受けることが難しいと回答し、なかでも女子はその割合が高く8割にのぼっています。
・家族が職を失ったため、3分の2の若者が経済的支援が必要だと訴えています。
・経済的支援が必要であると回答した若者のうち9割がまず食料の購入にあて、続いて5割が薬の購入にあてると回答しています。
・15歳から18歳までの子どものうち4割がメンタルヘルスに影響が出ていると回答しています。
サハーさん(17歳)はこう話します。「学校が休校になり、先生たちは代替手段としてワッツアップアプリを使って授業をしていますが、私たちはその機能を使うことすら難しいのです。私の母も姉も職を失い、タクシー運転手の父は家から外に出られず働けません。私たちは何もせず、ただずっと家にいます。」
休校の影響は、子どもたちを取り巻く状況によって差異があります。レバノンの子どもたちは、オンラインで教育課程を継続するという選択肢はあったものの、今回の調査に参加した全員が、オンラインでの学習に困難を感じていると答えました。その一方、レバノンに住むシリアやパレスチナ難民の子どもたちは、そもそもオンライン学習の機会がないうえ、親が家庭で教育課程を修了するために家庭教師を雇うような経済的余裕もなく、教育が受けられない状況にあります。
また、最近失業しベイルート付近に暮らすシリア難民のカリッドさん(23歳)は、「私の生活は一変しました。かつては6時に仕事に出かけ夜遅くまで働いていましたが、今は1日中家にいてつらいです。」と話しています。
経済危機と新型コロナウイルス感染症の影響による休校以前の2019年時点においてさえ、レバノンに住むシリア難民の学齢期の子どもたちのほぼ半数が、公教育を受けられていませんでした[1]。
くわえて、7割の難民がすでに1日1ドル以下で暮らすような生活を送っています。家族に収入がなくなれば、本や制服を買ったり、通学するために必要なお金を払うことができず、また、親などは生計を立てるために子どもたちを働きにだそうとするため、途中で学校をやめなければならない子どもたちが増える恐れがあります。
セーブ・ザ・チルドレン レバノン事務所代表ジャド・サクルは次の通り述べます。
2019年10月から11月にかけてレバノンで起きた大規模なデモで学校の教育は中断され、さらに新型コロナウイルス感染症拡大により再び休校となり、レバノンの子どもたちは、すでに1学年のうち半期分の学習の機会を失っています。いまや多くの子どもたちの親は無収入となり、何らかの支援がなければ、教育を受けられる子どもたちがさらに減るのではないかと懸念しています。子どもたちが教育を受けられない影響は、最も脆弱な立場にある66万人のレバノンに住むシリア難民にとって、児童労働や児童婚など学力や成績以外の問題も引き起こす可能性があります。
セーブ・ザ・チルドレンが行った今回の調査対象者の子どものうち、新型コロナウイルス感染症拡大前と家計の収入額が変わらない世帯の割合は26%でした。レバノン経済危機が深刻化するなかで、国際社会からの協力のもと、レバノン政府による脆弱な状況にある世帯への支援が欠かせません。また、すべての子どもたちが就学を続け、よりアクセスのしやすい形で遠隔教育を受けられるよう、教育分野への支援を広げていくことも必要です。」
[1] UNHCR Lebanon(国連難民高等弁務官レバノン事務所)https://www.unhcr.org/lb/education