災害で失った子どもの学用品はどうなる~公的支援制度と民間の支援現場から見えてきたこと~

近年、全国各地で大規模な風水害や地震などの自然災害が発生しています。
災害の影響を受けた子どもがふたたび学校へ戻るために、失った学用品などをそろえ直さなければならない場合があります。そうした状況に置かれた子どもたちが安心して教育を受けられるよう、さまざまな公的支援制度がありますが、その一つが災害救助法です。

災害救助法は、災害発生後、避難所開設や衣食住の支援など、応急的救助に伴って発生する費用を国が一部負担します。災害救助法による支援項目の中には、災害の影響を受けた子どもたちに、学用品が支給される「学用品の給与」も含まれています。しかし、この災害救助法は、すべての災害に適用されるわけではなく、指定された基準を満たした場合に限ります。
(内閣府資料よりhttp://www.bousai.go.jp/oyakudachi/pdf/kyuujo_a7.pdf

セーブ・ザ・チルドレンは、過去の災害支援の中で、子どもたちに対して学用品の提供を行ってきました。たとえば、2018年の西日本豪雨緊急・復興支援では、小中学生1,033人に対し体操服や靴、鍵盤ハーモニカ、リコーダーなどを支援しました。2019年の台風19号では、400人の小中学生に、2020年の7月豪雨支援では453人の小中学生に、体操服や靴、制服を届けました。これらの地域では、災害救助法が適用されていました。

しかし、災害救助法で、学用品の支援があるのにもかかわらず、なぜ私たちのような民間団体が支援を行ってきたのでしょうか。過去の災害支援を通して見えてきた課題について報告します。





災害救助法では、学校再開に間に合わない
災害救助法が適用された地域では、教科書や文房具、通学用品などの学用品の再購入にかかる費用を一定額、国が負担します。しかし、災害救助法が適用された地域のすべての子どもが一律に対象となるわけではなく、被災の影響で学用品を失った小中学生、高校生などの子どもが対象です。
 
※図1.内閣府政策統括官(防災担当)「災害救助法の概要(令和3年6月18日)」kyuujo_a7.pdf (bousai.go.jp)

つまり、災害救助法が適用された地域の学校や教育委員会は、各家庭の被害状況や使用できなくなった文房具、通学用品などの内容や個数に関する情報を収集し、精査する必要があります。しかし、実際の災害後の現場は混乱していて、被害状況を適切に把握するのが難しく、情報の取りまとめに多大な時間と労力を要します。セーブ・ザ・チルドレンが、2019年の台風19号で支援活動を行った地域の教育委員会の担当者は、次のように述べています。

「災害救助法で対象となる学用品や通学用品は、水害により滅失・き損したものになるので、それを限度額の範囲内で個々に聞き取りをすることに時間がかかった。」

災害救助法では、教科書などの支援は災害発生の日から1ヶ月以内、文房具などは15日以内に完了しなければならないこととなっていますが、私たちが今回話を聞いた、台風19号で被災した地域では、対象の子どもたちに文房具や通学用品などの学用品を渡すことができたのは、災害発生の日から1ヶ月以上経った後でした。災害発生の日から、期限内の対応が難しい場合、所定の手続きを踏むことで、このように支援期限が延長されることがあります。

また、災害後に発生するさまざまな行政業務の影響で、災害救助法が適用されていても、それを活用するための手続きに人をおくことができず、その結果、学用品などの支援の遅れにつながることも考えられます。

「発災直後から教育委員会の職員も避難所の運営などの対応に配置されたため、災害救助法の活用や、他のさまざまな子どもに関連する被災対応の人員が不足していた。」
(2020年7月豪雨で被災した地域の教育委員会の担当者より)

セーブ・ザ・チルドレンが話を聞いたこの教育委員会では、災害後、小中学校を再開するためには文房具はすぐに必要であると考え、被災の有無に関わらず、地域の小中学校のすべての子どもへひとり1セット、文具を配布したそうです。

そのほか、過去の災害で、セーブ・ザ・チルドレンに学用品の支援要請を行った教育関係者からは、学校再開や行事に間に合わせたいが、災害救助法を利用して学用品を用意するには時間がかかり間に合わない、といった声も寄せられました。



災害で失った学用品などをそろえ直すには、災害救助法の限度額だけでは足りない
災害救助法では指定された基準の範囲以内で、学用品などが支援されます。たとえば、教科書や正規の教材は実費分が支給され、文房具や通学用品などその他の学用品は、小中学生、高校生で異なる費用の限度額が設けられています。
 
※図2.内閣府政策統括官(防災担当)「災害救助法の概要(令和3年6月18日)」kyuujo_a7.pdf (bousai.go.jp)

実際に被害を受けた家庭の子どもの、失った学用品は、支援は、この限度額を大幅に超えるケースが発生しており、2020年に発生した7月豪雨の影響を受けた自治体の関係者は次のように話しています。

「災害救助法以外に、寄付、無償提供などがありました。それでも被災状況によってはまかなえていない家庭もあったと思います。」

「災害救助法でカバーされるのはひとりあたり4,500円分以内(小学生の場合)ということだが、鍵盤ハーモニカと絵の具セットだけで一人あたり8,000円ほどになってしまった。」

過去に私たちが学用品の支援を行った地域では、災害救助法だけでは足りないため、私たちに支援を要請したケースもありました。

たとえば、2019年に発生した台風19号の被災地では、小学生で体操服1セットあたり(夏用の半袖半ズボンと冬用の長袖長ズボン)9,350円以上、中学生では11,830円以上の金額でした。

災害により住む場所や職を失い家計が困窮した場合、子どもの学用品などの再購入は大きな負担になることは想像に難くありません。



最後に
災害の影響を受けた子どもたちが、ふたたび被災前と同じように教育を受けるための公的支援制度が災害救助法です。しかし、制度が定める条件では対応が困難な状況や課題が、過去の災害支援現場から見えてきました。どんな状況にあっても、すべての子どもが安心して学べるよう、公的な支援制度がより実状に沿った制度となるよう期待します。


※今回紹介している自治体や被災した家庭からの声は、原文から一部抜粋し文意の変わらない範囲で編集しています。
(国内事業部 法橋華子)
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