(公開日:2021.11.12)
【シリア】政府からの十分な支援もなく避難民キャンプで取り残される子どもたち
- シリア危機
セーブ・ザ・チルドレンは、シリア国内で避難生活を送る外国にルーツを持つ子どもたちに関する報告書『いつから私の人生は始まるの:シリア国内避難民キャンプで暮らす外国ルーツの子どもたちの早期帰還を(When am I going to start to live?”: The urgent need to repatriate foreign children trapped in Al Hol and Roj Camps)』を発表し、世界で最も裕福な国の多くは、シリア北東部にあるアルホル避難民キャンプとロジ避難民キャンプで避難生活を送る約4万人の子どもたちの多くの本国帰還を実現できていないと訴えます。
こうした状況の要因として、次のことがあげられます。
-火災や安全でない水、劣悪な衛生環境、栄養不良、そしてほとんど機能していない保健医療制度によって引き起こされる予防可能な病気や死亡[1]
-アルホル避難民キャンプでは、今年に入って62人の子ども、すなわち毎週約2人がさまざまな原因で命を落としている[2]
-アルホル避難民キャンプでは、今年に入って2人の子どもを含む73人が殺害された
-アルホル避難民キャンプで生活する子どもたちのうち、教育を受けられている子どもたちは40%のみであり、精神的苦痛を伴う長期にわたる経験が子どもたちのメンタルヘルスに影響を及ぼしている[3]
-ロジ避難民キャンプでは、55%の世帯において、11歳未満の子どもが児童労働に従事していると報告されている
アルホルとロジ避難民キャンプに暮らす多くの人たちは、ISISによる暴力から避難を余儀なくされた外国の人たちです。各国政府は、責任を持って、自国民である子どもたちやその家族を本国に帰還させることが、これまで以上に喫緊の課題となっています。新しい調査結果は、EU加盟国や英国、カナダ、オーストラリアが、自国民を本国に帰還させるために十分な働きかけをしていないことを指摘しています。
たとえば、約60人の自国民がシリアにいると考えられている英国は、4人の子どもしか本国に帰還させていません。フランスは、避難民キャンプに少なくとも320人の子どもがいるとされていますが、本国に帰還したのは35人のみです。しかし、ここ数ヶ月の間に、ドイツやフィンランド、ベルギーなどの国々は、避難民キャンプから複数の母親と子どもたちの本国帰還を完了しました。そのことから、政治的意思があれば命を守ることができることが証明されたと言えます。
アルホル避難民キャンプでは、暴力は日常的に発生しています。実際、子どもたちは、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフに、避難民キャンプの中を歩いたり市場を訪れたり、トイレや入浴施設を使用するときに危険を感じると話しています。また、殺人や殺人未遂、暴行、放火も多く発生しています[4]。
レバノン出身のマリアムさん(11歳)は、アルホル避難民キャンプに隣接するわずか0.5平方キロメートル敷地に、6,200人の子どもたちを含む8,800人とともに避難生活を送っています。今年5月、マリアムさんはセーブ・ザ・チルドレンに、「この生活にこれ以上耐えられません。でも、待つほかないのです」と、その心境を語りました。しかし、その後、マリアムさん家族は給水車を利用して、避難生活を送っていた敷地から出ようと試みましたが、マリアムさんは死亡し、母親は負傷、きょうだいも行方不明になったと報告がありました。
トルコ出身のブーシャさん(10歳)は、次のように話します。
「このキャンプでの生活は恐ろしいです。人びとは争いあっています。けんかの声が聞こえると、私はいつも自分の手で耳をふさぎます。ナイフを突きつけてくるので、母親を外に出すことでもできません。そして、『顔や頭をナイフで傷つける』と脅しあっているのです。」
タジキスタン出身のサミヤさん(11歳)は、母親と4人のきょうだいとともに、アルホル避難民キャンプに隣接する敷地で2年間生活しています。今年5月のある晩に、火災により、75基のテントが消失または破損を目の当たりにしたと話し、次のように訴えます。
「突然、人びとの叫び声が聞こえました。私たちの住んでいる区域で火災が発生したのです。テントは次々と燃え始め、倒壊しました。子どもたちは皆逃げ出し、叫び、泣きました。(中略)私たちが住んでいたテントも燃えました。母が買ってくれた新しい服や、おもちゃと髪飾り、イード(断食明けの祝祭)用のお菓子も、すべてが焼けました。今、私たちは台所で寝ていて、新しいテントが手に入るのを待っています。」
ロジ避難民キャンプでは、火災のリスクも常に脅威となっています。2020年には、暖房器具が爆発して火事が2件発生し、それぞれで3人の子どもが死亡し、2人が重傷を負いました。
セーブ・ザ・チルドレンのシリア事業ディレクターソニア・クシュは、次のように訴えます。
「子どもたちは、紛争下の暮らしを何年も経験した後に、さらに、本来であれば経験すべきではない衝撃的な体験してきています。なぜ、子どもたちがこのような生活を経験しなければならなのでしょうか。
私たちが目の当たりにしているのは、政府が、紛争により代償を払っている子どもたちを取り残しているという事実です。帰還先の83%は、ウズベキスタンやコソボ、カザフスタン、ロシアです。残りの政府は、自国民に対する責任と義務を果たし、国連子どもの権利条約に基づき、家族とともに子どもを帰国させなければなりません。
外国籍の子どもたちと家族が避難民キャンプに滞在している期間は、自国政府への失望の日々といえます。毎日、故郷に帰る機会も保障されず、切実に必要としている専門的な支援や制度の利用もできず、安全に暮らし、衝撃的な経験から回復する権利も持てないままです。」
アルホル避難民キャンプとロジ避難民キャンプでは4万人の子どもたちを含む6万人以上が生活しています。ISISから逃れてきたシリアとイラクからの人たちのみならず、世界約60ヶ国から来た子どもたちと女性もいます。彼らの多くは、人身取引にあったりするなど、望まずしてISISの支配下で生活していました[6]。
[1] Fire-related injuries are the most common recorded cause of child death in the camp, leading to the deaths of 13 children to date in 2021.
[2] This includes natural deaths due to illness, accidental deaths and violent deaths. Data accurate as of 29 August 2021
[3] 47% of caregivers that Save the Children spoke to in Al Hol camp said that their children are always, or usually, upset, and 37% said that their children are always or usually angry.
[4] See examples: Syrian Observatory for Human Rights. “ISIS widows in deadly clash with guards at Syrian Al Hol camp.” October 1, 2019. https://www.syriahr.com/en/142410/ and ANF News. “ISIS women impose Sharia in the Hol camp.”18 December,2019. https://anfenglish.com/rojava-syria/sharia-in-the-hol-camp-40178
[5] إصابة امرأتين وطفلين في حريق بمخيم "روج" جنوب ديريك, https://npasyria.com/16848/; حريق يودي بحياة أطفال بأحد مخيمات الحسكة, https://baladi-news.com/ar/articles/64677/%D8%AD%D8%B1%D9%8A%D9%82-%D9%8A%D9%88%D8%AF%D9%8A-%D8%A8%D8%AD%D9%8A%D8%A7%D8%A9-%D8%A3%D8%B7%D9%81%D8%A7%D9%84-%D8%A8%D8%A3%D8%AD%D8%AF-%D9%85%D8%AE%D9%8A%D9%85%D8%A7%D8%AA-%D8%A7%D9%84%D8%AD%D8%B3%D9%83%D8%A9
[6] . Investigations by Reprieve revealed, for example, that at least 63% of British women currently located in North East Syria are victims of trafficking, including that they were subject to sexual and other forms of exploitation, were under 18 when they travelled, were coerced into travelling or kept and moved inside Syria against their will. Reprieve, Trafficked to ISIS: British families detained in Syria after being trafficked to Islamic State, April 2021; https://reprieve.org/wp-content/uploads/sites/2/2021/04/2021_04_30_PUB-Reprieve-Report-Trafficked-to-Syria-British-families-detained-in-Syria-after-being-trafficked-to-Islamic-State-1.pdf
[vii] United Nations Committee on the Rights of the Child, General comment No. 14 (2013) on the right of the child to have his or her best interests taken as a primary consideration (art. 3, para. 1), 29 May 2013; https://www2.ohchr.org/English/bodies/crc/docs/GC/CRC_C_GC_14_ENG.pdf
こうした状況の要因として、次のことがあげられます。
-火災や安全でない水、劣悪な衛生環境、栄養不良、そしてほとんど機能していない保健医療制度によって引き起こされる予防可能な病気や死亡[1]
-アルホル避難民キャンプでは、今年に入って62人の子ども、すなわち毎週約2人がさまざまな原因で命を落としている[2]
-アルホル避難民キャンプでは、今年に入って2人の子どもを含む73人が殺害された
-アルホル避難民キャンプで生活する子どもたちのうち、教育を受けられている子どもたちは40%のみであり、精神的苦痛を伴う長期にわたる経験が子どもたちのメンタルヘルスに影響を及ぼしている[3]
-ロジ避難民キャンプでは、55%の世帯において、11歳未満の子どもが児童労働に従事していると報告されている
アルホルとロジ避難民キャンプに暮らす多くの人たちは、ISISによる暴力から避難を余儀なくされた外国の人たちです。各国政府は、責任を持って、自国民である子どもたちやその家族を本国に帰還させることが、これまで以上に喫緊の課題となっています。新しい調査結果は、EU加盟国や英国、カナダ、オーストラリアが、自国民を本国に帰還させるために十分な働きかけをしていないことを指摘しています。
たとえば、約60人の自国民がシリアにいると考えられている英国は、4人の子どもしか本国に帰還させていません。フランスは、避難民キャンプに少なくとも320人の子どもがいるとされていますが、本国に帰還したのは35人のみです。しかし、ここ数ヶ月の間に、ドイツやフィンランド、ベルギーなどの国々は、避難民キャンプから複数の母親と子どもたちの本国帰還を完了しました。そのことから、政治的意思があれば命を守ることができることが証明されたと言えます。
アルホル避難民キャンプでは、暴力は日常的に発生しています。実際、子どもたちは、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフに、避難民キャンプの中を歩いたり市場を訪れたり、トイレや入浴施設を使用するときに危険を感じると話しています。また、殺人や殺人未遂、暴行、放火も多く発生しています[4]。
レバノン出身のマリアムさん(11歳)は、アルホル避難民キャンプに隣接するわずか0.5平方キロメートル敷地に、6,200人の子どもたちを含む8,800人とともに避難生活を送っています。今年5月、マリアムさんはセーブ・ザ・チルドレンに、「この生活にこれ以上耐えられません。でも、待つほかないのです」と、その心境を語りました。しかし、その後、マリアムさん家族は給水車を利用して、避難生活を送っていた敷地から出ようと試みましたが、マリアムさんは死亡し、母親は負傷、きょうだいも行方不明になったと報告がありました。
トルコ出身のブーシャさん(10歳)は、次のように話します。
「このキャンプでの生活は恐ろしいです。人びとは争いあっています。けんかの声が聞こえると、私はいつも自分の手で耳をふさぎます。ナイフを突きつけてくるので、母親を外に出すことでもできません。そして、『顔や頭をナイフで傷つける』と脅しあっているのです。」
タジキスタン出身のサミヤさん(11歳)は、母親と4人のきょうだいとともに、アルホル避難民キャンプに隣接する敷地で2年間生活しています。今年5月のある晩に、火災により、75基のテントが消失または破損を目の当たりにしたと話し、次のように訴えます。
「突然、人びとの叫び声が聞こえました。私たちの住んでいる区域で火災が発生したのです。テントは次々と燃え始め、倒壊しました。子どもたちは皆逃げ出し、叫び、泣きました。(中略)私たちが住んでいたテントも燃えました。母が買ってくれた新しい服や、おもちゃと髪飾り、イード(断食明けの祝祭)用のお菓子も、すべてが焼けました。今、私たちは台所で寝ていて、新しいテントが手に入るのを待っています。」
ロジ避難民キャンプでは、火災のリスクも常に脅威となっています。2020年には、暖房器具が爆発して火事が2件発生し、それぞれで3人の子どもが死亡し、2人が重傷を負いました。
セーブ・ザ・チルドレンのシリア事業ディレクターソニア・クシュは、次のように訴えます。
「子どもたちは、紛争下の暮らしを何年も経験した後に、さらに、本来であれば経験すべきではない衝撃的な体験してきています。なぜ、子どもたちがこのような生活を経験しなければならなのでしょうか。
私たちが目の当たりにしているのは、政府が、紛争により代償を払っている子どもたちを取り残しているという事実です。帰還先の83%は、ウズベキスタンやコソボ、カザフスタン、ロシアです。残りの政府は、自国民に対する責任と義務を果たし、国連子どもの権利条約に基づき、家族とともに子どもを帰国させなければなりません。
外国籍の子どもたちと家族が避難民キャンプに滞在している期間は、自国政府への失望の日々といえます。毎日、故郷に帰る機会も保障されず、切実に必要としている専門的な支援や制度の利用もできず、安全に暮らし、衝撃的な経験から回復する権利も持てないままです。」
アルホル避難民キャンプとロジ避難民キャンプでは4万人の子どもたちを含む6万人以上が生活しています。ISISから逃れてきたシリアとイラクからの人たちのみならず、世界約60ヶ国から来た子どもたちと女性もいます。彼らの多くは、人身取引にあったりするなど、望まずしてISISの支配下で生活していました[6]。
[1] Fire-related injuries are the most common recorded cause of child death in the camp, leading to the deaths of 13 children to date in 2021.
[2] This includes natural deaths due to illness, accidental deaths and violent deaths. Data accurate as of 29 August 2021
[3] 47% of caregivers that Save the Children spoke to in Al Hol camp said that their children are always, or usually, upset, and 37% said that their children are always or usually angry.
[4] See examples: Syrian Observatory for Human Rights. “ISIS widows in deadly clash with guards at Syrian Al Hol camp.” October 1, 2019. https://www.syriahr.com/en/142410/ and ANF News. “ISIS women impose Sharia in the Hol camp.”18 December,2019. https://anfenglish.com/rojava-syria/sharia-in-the-hol-camp-40178
[5] إصابة امرأتين وطفلين في حريق بمخيم "روج" جنوب ديريك, https://npasyria.com/16848/; حريق يودي بحياة أطفال بأحد مخيمات الحسكة, https://baladi-news.com/ar/articles/64677/%D8%AD%D8%B1%D9%8A%D9%82-%D9%8A%D9%88%D8%AF%D9%8A-%D8%A8%D8%AD%D9%8A%D8%A7%D8%A9-%D8%A3%D8%B7%D9%81%D8%A7%D9%84-%D8%A8%D8%A3%D8%AD%D8%AF-%D9%85%D8%AE%D9%8A%D9%85%D8%A7%D8%AA-%D8%A7%D9%84%D8%AD%D8%B3%D9%83%D8%A9
[6] . Investigations by Reprieve revealed, for example, that at least 63% of British women currently located in North East Syria are victims of trafficking, including that they were subject to sexual and other forms of exploitation, were under 18 when they travelled, were coerced into travelling or kept and moved inside Syria against their will. Reprieve, Trafficked to ISIS: British families detained in Syria after being trafficked to Islamic State, April 2021; https://reprieve.org/wp-content/uploads/sites/2/2021/04/2021_04_30_PUB-Reprieve-Report-Trafficked-to-Syria-British-families-detained-in-Syria-after-being-trafficked-to-Islamic-State-1.pdf
[vii] United Nations Committee on the Rights of the Child, General comment No. 14 (2013) on the right of the child to have his or her best interests taken as a primary consideration (art. 3, para. 1), 29 May 2013; https://www2.ohchr.org/English/bodies/crc/docs/GC/CRC_C_GC_14_ENG.pdf