【セミナー開催報告】「コロナ禍で見直すサプライチェーン上の人権リスク~子どもを取り巻くリスクと対応事例」

20211029日、セーブ・ザ・チルドレンは、企業を対象としたオンラインセミナー「コロナ禍で見直すサプライチェーン上の人権リスク~子どもを取り巻くリスクと対応事例」を開催しました。

 

私たちは、子どもの権利とビジネスの関わりについて考える機会を提供することを目的として、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン後援のもと、昨年末より、ビジネスと人権3つのキーワード【職場環境】【マーケティング】【サプライチェーン】から考えるセミナーシリーズを実施しています。

 

最終回では、「サプライチェーン」という観点から子どもの権利リスクに焦点を当てました。製造や原料の調達過程における人権侵害が国際社会でも問題になり、新型コロナウイルス感染症に伴う新たな人権リスクも発生するなか、企業にはどのような対応が求められているのかを具体的な事例とともに考えました。

 

当日はビジネスと人権の課題にさまざまな立場で関わる専門家4人によるプレゼンテーションとパネルディスカッションが行われ、企業などから80人が参加しました。



登壇者:

(左上) りそなアセットマネジメント株式会社 執行役員 責任投資部長 松原 稔氏

(左下) ジェトロ・アジア経済研究所 新領域研究センター 法・制度研究グループ長 山田美和氏

(右上) ロイドレジスタージャパン株式会社 代表取締役 冨田秀実氏

(右下) 子どもの権利とビジネスセンター(事務局長 イネス・ケンプファー氏

※セーブ・ザ・チルドレンが中国に設置しているサプライチェーンマネジメント・コンサルティングを行う社会企業

 

子どもの権利を尊重したアプローチがサステナビリティへもつながる

「企業の人権尊重責任と子どもの権利」(アジア経済研究所 山田氏)

 

はじめに、山田氏が企業を取り巻くビジネスと人権の概況とその背景、「子どもの権利」の視点をビジネスに取り入れる意義について講演しました。


【ハイライト】

・欧州における人権デューデリジェンス(Due Diligence)義務化の動きや、日本におけるNAP(ビジネスと人権に関する行動計画)策定(昨年10月)、コーポレートガバナンスコードでの人権尊重の明記(今年6)など、ビジネスと人権をめぐる動きが国内外で進んでいる。

 

・人権リスクとは「企業へのリスク」ではなく、「人々の権利が危険にさらされるリスク」である。人権デューデリジェンスは、企業が人権を尊重していることを対外的に示すものだが、その本質は、ステークホルダーとのエンゲージメントを通じて、自社が人々の権利に与えるインパクトについて知るということ。

 

・最も権利を侵害されやすい層のひとつが子ども。サプライチェーン上の子どもを取り巻く課題として、児童労働、就学難、貧困などがあり、企業による事業継続はこれら負のリスクの影響を増大させるおそれがある。こうした構造的なリスクに対する個社での対応は難しく、業界レベルでの協働、政府への働きかけ、NGO等との連携などを通じた対応が望まれる。

SDGsのアジェンダ前文にも「子どもの権利条約」が明記されている。国際労働機関(ILO)の「最悪の形態の児童労働条約」(1999)も、昨年トンガが批准し、全加盟国によるコンセンサスを得た。次世代を担う子どもたちの権利が守られ、尊重されるアプローチがサステナビリティへの貢献にもつながる。




   どんな企業にも児童労働のリスクはあり得るので対応準備が重要

「サプライチェーン上の子どもの権利への対応と取組事例」(子どもの権利とビジネスセンター イネス氏)

続いて、イネス氏が、「子どもの権利とビジネスセンター」によるサプライチェーン改善の取り組み事例を紹介しました。

 【ハイライト】

・2012年に発表された子どもの権利とビジネス原則(CRBP)は、バリューチェーンにおいて企業活動が子どもに及ぼす広範な影響を明確にしたうえで、企業がどのように子どもの権利侵害のリスクを回避し、子どもの健やかな成長と発達を促せるのかを示したガイドライン。

 

・このCRBPを実践し、サプライチェーン上のリスク対応に取り組むために設立されたのが、「子どもの権利とビジネスセンター」。現在、さまざまな業界の企業25社と児童労働の予防や是正に関する協力協定を結んでいる。児童労働の通報を受けてから2日以内に現場の状況把握調査を実施し、企業と具体的な対応策について話し合いながら、是正のためのガイドライン作成や研修を行う。さらに子どもたちへの職業訓練や教育などの解決策を提供するなど一貫したサポートを行っている。

 

・事例紹介:米国のファースト・ファッションブランドのASOSでは、サプライチェーンの中の工場で、ミャンマーからの人身取引による児童労働が発覚。その後、是正策によって児童は家族の元へ戻り、職業訓練を受けた。国際的木材企業のメコン・ティンバー・プランテーションでは、すべてのオペレーションレベルにおける子どもの人権リスク評価を実施。対応方針とガイドラインの改訂、社内外の従業員への研修を行い、若年労働者に対する青少年育成プログラムも行った。

 

・多くの企業は児童労働に関する行動規範を策定しているものの、実際に児童労働が発生した場合に効果的に対応できる仕組みや予防法を定めた方針を持っていない。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、以前よりも多くの子どもたちが児童労働に関わるようになっている。どんな企業にも児童労働のリスクはあり得るため、問題が起きたときに子どもたちを支えることのできる体制を準備しておくことが重要。


■将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供する

「ESG からみるサプライチェーンリスクとビジネスー児童労働の観点を踏まえー」(りそなアセットマネジメント 松原氏)

 

次に、松原氏より長期投資家がどのような観点で企業によるビジネスと人権の取り組みや、子どもの権利のリスクを捉えているのかについて述べていただきました。

 

【ハイライト】

・りそなアセットマネジメントは年金の運用を行っている長期の投資家。昨年宣言したパーパスは、「将来世代に対しても豊かさ、幸せを提供する」こと。当社が描く「豊かな、幸せな社会」とは、(1)インクルーシブな社会経済、(2)サステナブルな環境、(3)企業文化・企業のパーパスが評価される資本市場の三つから成る。

 

・長期的運用における重要テーマと社会のサステナビリティ上における重要テーマの両方が交差するところにある課題がフォーカスポイント。気候変動や生物多様性はもちろんのこと、児童労働・強制労働も重要なテーマ。新型コロナウイルス感染症拡大により、潜在的な人権侵害に対してより脆弱な状況にある労働者が増加している。

 

・株主として、世界・日本に共通するテーマを洗い出し、企業とのエンゲージメント活動を行っている。重要なテーマの一つがサプライチェーンのリスクマネジメント。例えば、サステナブルなパーム油の調達に関しては、単に調達方針を掲げるのではなく、人権デューデリジェンスや児童労働対応に企業がどうコミットしていくか、投資家としても伴走支援を行っている。
 

 ・我々は将来世代にとっての「Good Ancestors(よき先祖)」になる必要がある。将来に引き継いでいくために今の段階で何ができるのか。それをしっかりと考えていくことが、責任投資活動の根本の一つであり、ステークホルダー資本主義下において何よりも重要だろう。


■パネルディスカッション「サプライチェーン上の人権リスク~子どもの権利の尊重・推進の視点から」

3人のプレゼンテーションを受けた後、ロイドレジスタージャパンの冨田氏のモデレーションによるパネルディスカッションを通じて講演内容の深堀をしていきました。

【ディスカッションのハイライト】

企業が児童労働に本気で取り組むためには

・誰かの権利を侵害するような脆弱なサプライチェーン上でビジネスモデルは成り立たない。マーケット、消費者、リーディングカンパニー、市民社会、労働組合など社会のあらゆるステークホルダーが企業に取り組みを促すドライバーとなる。

・「ステークホルダーキャピタリズム」に移行し、世界のビジネスルールが変わりつつある今、企業が環境問題や人権問題をどう自分事化していくかが問われている。企業の影響力が拡大するなか、取引先まで含めた「ファミリー」へとその責任範囲が広がってきている。

・「脱炭素社会」と同様、「脱児童労働社会」への移行が今求められているといえるかもしれない。

・実際に児童労働予防に投資することは、企業のビジネスへのメリットもある(バングラデシュの工場ではROI1.4倍になった事例)。

 

企業は具体的にどのような取り組みをしていけばよいか

・自社が児童労働の直接の原因になっている場合や、取引先の児童労働を引き起こすような間接的影響を与えている場合もあるが、多くの場合は、サプライチェーンを辿っていたら児童労働が発覚したというケース。そのような場合でも、企業の責任はサプライチェーン全体にあることを認識し、日ごろより自社の取引先のサプライチェーン・マッピングを実施しておくことが重要。

・サプライヤーと取引を停止するだけでは根本的解決にはならない。形だけの人権対応(ウォッシュ)ではなく、長期的な視点で本質的な活動を行うためにも、現地のNGOや専門機関など第三者の手を借りながら実際に現場に足を運び、エンゲージメントを行う努力が必要。サプライチェーン上のすべての関係者と協力してシステムを変えていく必要がある。

・企業が持続性を保つためには、一人ひとりの権利が尊重され、社会そのものがサステナブルであることがベースになる。未来に向けてのビジネスの前提を、まず問い直すところから始めるのがスタート。

■参加企業の声
参加者からは以下のような感想が寄せられました。(一部抜粋)


社内で話をしているだけでは到底知りえないような情報を知ることができ大変勉強になりました

「シンクタンク、現場、金融機関とさまざまな立場からのお話があり、多様な視点で「サプライチェーンにおける子どもの人権」を考えられた。テーマ設定も時流を組んだもので、非常に参考になった

「自社サプライチェーンの今後の管理について、課題や対策を進めるうえでおさえる点などを理解できた」

「サプライチェーンの川上(ティア2~ティア3)における児童労働のリスクへの対応の必要性を改めて感じました」

「投資家が注目するポイントに人権が多分に考慮されていることが分かった」

「児童労働はしてはいけないと伝えるだけでなく、どうして発生してしまっているのか、発生しないためにどんな支援ができるのかまで考える必要があることを再認識しました」

 

今回のセミナーが企業の皆さまにとって、サプライチェーン上における子どものリスクを改めて考えるきっかけとなったことを願って、セーブ・ザ・チルドレンは、今後も⼦どもの権利の尊重・推進に関する知⾒を共有し、SDGs時代の社会課題解決に向けた企業との連携をより⼀層深め、子ども支援活動へとつなげていきます。

 

(報告:パートナーリレーションズ部 法人連携チーム 山田有理恵)

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セーブ・ザ・チルドレンは、毎年600以上の企業・団体の皆さまとさまざまな形で連携し、子どもたちを取り巻く課題解決のために、緊急・人道支援や教育、子どもの保護、保健・栄養などの分野で、日本を含む世界約120ヶ国で活動しています。これからも、企業の皆さまとも協力・連携しながら、子どもたちを取り巻く社会課題の解決に取り組んでいきます。

 

【企業・団体の皆さまからのお問い合わせ先】
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 法人連携チーム
japan.corporatepartner@savethechildren.org
または下記までお電話でお問い合わせください。

TEL03-6859-0010(東京)/06-6232-7000(大阪)
https://www.savechildren.or.jp/partnership/

 

 

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