(公開日:2022.09.01)
【報告】TICAD8公式サイドイベント『「アフリカの角」の飢餓を考える―ソマリア飢饉から10年後の現実と解決への糸口』を開催しました。
- アドボカシー
セーブ・ザ・チルドレンは、2022年8月18日に、第8回アフリカ開発会議(TICAD8)公式サイドイベント『「アフリカの角」の飢餓を考える-ソマリア飢饉から10年後の現実と解決への糸口』をオンラインで開催しました。アフリカの角の飢餓に関する調査報告書、『危険な遅れ2(Dangerous Delay 2)』の日本語版を発表するとともに、深刻化する干ばつと飢餓に直面するソマリア、エチオピア、ケニアからの現状と取り組みの報告を受けて、国際社会や各アクターが果たすべき役割について議論を行いました。
動画の視聴はこちらから可能です。
イベントの冒頭、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの理事/国際基督教大学人道アクションネットワーク プログラムコーディネーターの小尾尚子より開会あいさつを行い、気候危機、紛争、新型コロナウイルス感染症、さらにウクライナでの紛争の影響により極度の食料不足が起こり、人々は壊滅的な飢餓に直面しているにもかかわらず、「アフリカの角」の飢餓問題は日本のメディアでほとんど取り上げられていない現状が指摘されました。
次に、「危険な遅れーソマリアにおける飢餓の現状とセーブ・ザ・チルドレンの活動」として、セーブ・ザ・チルドレン ソマリア事務所代表 ムハムド・モハメド・ハッサンより、基調報告を行いました。
4年連続の雨量不足により、これまでの干ばつが今まで以上に深刻であり、ソマリアにおける飢餓の状態は悪化していること、特に急性栄養不良が急速に増加し、各地で病気が発生していることなどが報告されました。今すぐ求められる支援として、人命を守るための保健医療サービスや現金支援、子どもの保護サービスなどが挙げられたほか、所得創出活動や地方自治体のコミットメントをサポートするようなアプローチの必要性が述べられました。
続いて、「アフリカの角における飢餓の現状と取り組み」として、4人のスピーカーより、発表がありました。
国連WFPエチオピア国事務所 支援事業責任者 浦香織里氏からは、エチオピアの飢餓の現状についての報告に加え、WFPによる食料や現金の支給が日本政府からの支援を含み行われたことが紹介されました。また、次の干ばつに備えた灌漑設備やため池の設置、雨量不足に備えた保険や村の貯蓄貸付組合の育成など、レジリエンス(強靭性)強化の支援の必要性が述べられるとともに、こうした支援には資金が集まらない傾向が強調されました。
国連FAO東アフリカ準地域事務所 地域早期警戒早期アクション・準備・対応アドバイザー セルジオ・イノチェンテ氏からは、「アフリカの角」地域における資金ニーズの現状とともに、FAOとして、1)人命救助、2)自立の回復という2つの柱に沿って対応していることが報告されました。この2つの柱を組み合わせた支援の実施によって、受益者は当面のニーズに対応するための手段(現金)とともに生計手段を回復または守る可能性を与えられます。しかしこれだけでは十分ではなく、ソマリア、エチオピア、ケニアのそれぞれの地域でいまだに膨大な資金ニーズがあることが指摘されました。
SUN (Scaling Up Nutrition) 栄養ユースリーダー ジェイン・ナパイ・ランキサ氏からは、農業労働力のうち、女性と若者が大きな割合を占めていること、アフリカのほとんどの農村で、女性は食料安全保障において重要な役割を担っていること、アフリカの女性は、食料不安の影響を受けるだけでなく、家族内で食料と栄養の責任を負っていることが指摘されました。女性と若者は、食料システムの重要な担い手であるにもかかわらず、しばしば見過ごされ、生産的資源や経済的機会へのアクセス、食料不安を軽減するための意思決定において、男性よりも高い障壁に直面する傾向があると報告されました。
近畿大学国際学部国際学科グローバル専攻 准教授 桑名恵氏からは、主に人道危機対応のパラダイムシフトについて、「支援の現地化」を中心に報告がありました。2016年の世界人道支援サミットで合意された国際約束「グランドバーゲン」では、現地対応者の予防、対応、調整を含む能力強化を複数年で行い、現地組織による調整メカニズムをサポートすること、2020年までに国際的な人道支援の資金の25%を可能な限り直接的に現地組織に支援することなどが目標となっていることが紹介され、また人道支援・開発・平和構築のネクサス(連携)や、マルチセクターのネットワークによるレジリエンス(強靭性)構築の重要性が指摘されました。
パネルディスカッション「飢餓の解決に向けてー求められるアクションと変革」では、必要とされる短期的および中長期的な取り組みや、国際社会や各アクターの役割や連携について議論を行いました。栄養不良への対応や水の確保、予防的・先行的行動への投資や強化、柔軟かつ多様なニーズに対応する資金拠出、レジリエンス(強靭性)強化支援、ローカル・アクターへの支援とローカライゼーション(現地化)、生計手段の多様化、ジェンダー平等の促進など多様なキーワードが出されました。
最後に、外務省国際協力局緊急・人道支援課 課長 松田友紀子氏より、日本政府や国際社会の食料危機への取り組みについて報告があり、日本としてもコミュニティのレジリエンス(強靭性)強化やローカライゼーションには着目していること、政府、企業、市民社会が一体となった取り組みの重要性についてコメントがありました。「日本政府は、TICAD8の開催を通じて、アフリカにおける食料安全保障及び栄養分野の議論をリードしていく」という心強い言葉とともに、閉会しました。
このイベントは、日本ではあまり報道されることのない「アフリカの角」の飢餓の問題を取り上げ、イベントを通して、問題の深刻さや複雑さ、求められるアクションについて、参加者が理解を深める機会となりました。