(公開日:2022.12.16)
懲戒権削除ならびに体罰その他の言動の禁止を定めた民法改正に対する声明を発表しました
- 提言・声明
2022年12月10日、懲戒権の削除ならびに体罰などの禁止を定めた民法等の一部を改正する法律案が、参議院本会議にて可決され、成立しました。これを受け、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、NPO法人子どもすこやかサポートネット、認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワークとともに声明を発表しました。
旧民法822条は「親権を行う者は、監護および教育に必要な範囲内で、その子を懲戒することができる」と、親権者の懲戒権を定めていましたが、本改正では同条が削除されました。
懲戒権は、児童虐待を正当化する口実になっていると指摘されており、私たちはこれまで、懲戒権規定そのものを削除することを求めてきました。したがって、懲戒権の削除を伴う今回の民法改正を歓迎します。
今回民法に、新たに条文が付け加えられ(821条)、親権者が子の利益のために監護・教育の権利を有し義務を負う(820条)ことを前提に、「監護・教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、年齢および発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない」とされました。
2019年6月に児童虐待防止法14条等において体罰が禁止され、子どもの権利条約を参考にしたガイドラインを作成すべきとの両院の附帯決議に基づいて、厚労省による『体罰等によらない子育てのために』(以下、とりまとめ)が2020年2月に公表され、同年4月から法律は施行されています。
このとりまとめでは、国連子どもの権利委員会一般的意見8号の定義を参考にして、「身体に、何らかの苦痛を引き起こし、又は不快感を意図的にもたらす行為(罰)である場合は、どんなに軽いものであっても」体罰であると定義しました。
したがって、今回の改正民法821条で禁止された「体罰」も、この定義に基づき、どんなに軽いものであっても体罰であり、許されない行為であるということを引き続き政府は明確にする必要があると考えます。
また、私たちは、身体に対する体罰に加えて、暴言等の子どもの品位を傷つける取り扱いの明示的禁止も求めてきました。
なぜならば、子どもに対する暴力からの自由についての子どもの権利条約19条を実施する指針である国連子どもの権利委員会の一般的意見8号・13号において、体罰と同様に残虐なまたは品位を傷つける形態の罰や取り扱いなどあらゆる形態の暴力の明示的禁止が求められている一方で、国内法では、暴言等については「著しい暴言」(その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動」(児童虐待防止法2条4号)等の禁止に限定されているからです。
近年の研究で体罰や暴言等は科学的に子どもの発達に負の影響を与えることが次々と明らかになっており、とりまとめでは、「著しい」ものに限定することなく、怒鳴りつけたり、けなしたり、辱めたりといった子どもの心を傷つける暴言や行為は子どもの健やかな成長・発達に悪影響を与える可能性があると指摘し、「子どもの権利を侵害する」と明記されています。
この点、「子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動」の内容は不明確で、「軽いものも含むあらゆる体罰その他子どもの品位を傷つける取り扱い」から意味が狭められて解釈される可能性があり、「健全な発達に」の文言について削除を含め再検討されることが望まれます。
今後も、子どもに対するあらゆる暴力の明示的禁止、体罰等を容認する価値観や意識を変えるための啓発及び養育者への支援の強化などが求められます。そのために、私たちは以下の4点を提言します。
(1)今後の法改正を検討する:民法のみならずすべての子どもに関わる法律において、子どもの権利を明記すること。
(2)大規模な啓発活動を実施する:体罰禁止に関する、大規模で長期的な啓発活動を実施すること。また、子ども自身に対しても、暴力を受けない権利や声をあげる権利があるということなどの、子どもの権利に関する啓発を行うこと。
(3)子育て支援プログラムを含めた子育て支援施策を拡充する:政府によるさまざまな子育て支援策を充実させ予算を確保すること。
(4)虐待・体罰等防止のための予算を確保し、定期的な調査を実施する:予算の確保に加え、子どもに対する調査を含めた大規模かつ継続的な調査を国レベルで実施すること。
私たちは、懲戒権の削除を契機に、体罰等の子どもに対する暴力によってすべての子どもの体とこころが傷つけられることのない、子どもの権利が保障される社会への歩みが着実に進むことを期待します。
また、今後も、子どもの権利条約批准国として、子どもに対する暴力撤廃グローバル・パートナーシップ(GPeVAC)の理事国・パスファインディング国として、政府による包括的かつ効果的な行動を引き続き求めていきます。
■声明の全文はこちらからご覧ください。