(公開日:2022.12.21)
【アフガニスタン 事業完了】現金支援と衛生・栄養に関する啓発活動を通じた世帯の対処能力向上支援
- アフガニスタン
セーブ・ザ・チルドレンは、アフガニスタン・バルフ州で、食料を購入するための現金支援と衛生・栄養に関する啓発活動を実施し、2022年8月に7ヶ月間の事業を完了しました。
アフガニスタンでは、紛争や政情不安、自然災害、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に加え、2021年8月のタリバンによる政変などのさまざまな要因により、深刻な人道危機に陥っています。
特に食料については、2021年は過去27年間で最悪ともいえる干ばつが発生したため、国内の人口の約半数が総合的食料安全保障レベル分類(Integrated Food Security Phase Classification: IPC)で「危機的レベル」であるIPC3の状態にあります¹。
干ばつによって干上がってしまった農地(アフガニスタン・バルフ州)
事業地のアフガニスタン・バルフ州も食料危機に直面しており、2021年には32万人以上がIPC3の状態にありました²。
また、バルフ州は急性栄養不良の緊急レベル(全急性栄養不良:General Acute Malnutrition(GAM)10%以上)に該当し³、2021年の人道危機対応計画 (Humanitarian Response Plan:HRP)では、食料危機への対応は優先事項として組み込まれているほか⁴、手洗いに関する状況が危機的であるとして水・衛生分野の支援優先州でもありました⁵。
さらに、食料価格の急激な上昇も見られ、現金支援を通じた食料支援へのニーズが高いことが報告されています。
こうした喫緊の食料危機が子どもたちに及ぼしている影響は深刻です。
私たちの調査でも、過去4週間以内の食事の状況を子どもたちに質問したところ、65.5%の子どもたちが1日2食以下、もしくは不定期な食事しかとれていないと回答し、残りの約3割(33.6%)の子どもたちは、1日3食食べているものの、その多くが栄養価の低い食品や、身体に好ましくない食事を摂っていることが分かっています。
こうした現状を踏まえ、セーブ・ザ・チルドレンは2022年2月から、バルフ州の紛争や政変、自然災害などの影響を受けている脆弱な世帯を対象に、(1)食料の確保、(2)衛生と栄養に関する知識の向上を目的とした事業を開始しました。この事業では、以下の活動を実施しました。
(1)食料確保のための現金支援
食料危機への直接的な支援として、人道危機の影響を受け食料の入手が困難な世帯に対して現金を支援しました。現金やバウチャーによる支援は、国連機関が発表したアフガニスタン人道対応計画2022⁶においても、優先される支援形態として言及されています。
現金支援後には、支援の効果を確かめるため、その使途や具体的な食事の変化を調査しました。事前調査では、現金支援を受けた地域住民のうち1.4%の世帯のみが食料消費スコア(Food Consumption Score: FCS)で「許容範囲」レベルにありましたが、事業完了時点では31%まで上昇しました。
またFCSで「乏しい」レベルにある世帯の割合は、事前調査では41%であったのに対して、事業完了時点では25%まで減少しました。このように、支援で提供された現金により、地域の人たちが、食料を調達できるようになりました。
セーブ・ザ・チルドレンが実施した現金支援の様子
(2)衛生・栄養に関する啓発発動
バルフ州の脆弱な世帯に対し、衛生と栄養に関する啓発活動を実施しました。衛生習慣に関するセッションには合計3万6,000人、子どもの栄養に関するセッションには合計3,360人が参加するなど、多くの地域住民に支援を届けることができました。
また、特に支援を必要とする世帯700世帯に衛生用品キットを支援し、栄養不良の子どもを持つ養育者200人には調理実習や栄養の多い食事に関するセッションを別途実施するなど、ニーズに応じたきめ細かい支援を実施しました。
セーブ・ザ・チルドレンが実施した啓発活動の様子
私たちの活動に参加したアイシャさん(31歳)を紹介します。アイシャさんは、2歳のウナさんと、11ヶ月のアミーラさんの母親です。
夫のムハンマドさん(30歳)は、家事を手伝っていますが、アフガニスタンの深刻な経済危機のため、家族を養うための仕事を見つけることができません。また、紛争により、アイシャさん一家は自宅を破壊され、すべての財産を失いました。
命や暮らしが脅かされる状態にあり、子どもたちの食料や教育機会も確保できないため、家族は村を離れることを決意し国内避難民となっています。
ムハンマドさんは、仕事が見つからず生活は非常に厳しいと言います。収入源がないため、一家は十分な食料や飲料水、住居、薬などの日々の生活必要なものを安定して得ることができません。
アイシャさんは、次の通り話します。
「引っ越した当時、私たちは十分な食料とその他の基本的な生活物資がありませんでした。私たちは貧しい親戚の家に住まわせてもらい、収入源もありませんでした。娘は病気になり、日に日に痩せていきました。食べ物も飲料水もほとんどなく、今にも死にそうでした。」
セーブ・ザ・チルドレンのスタッフが村を訪れ、最も脆弱な家庭を調査したところ、アイシャさん一家は、地域の委員会から緊急支援が必要な世帯として特定されました。
その後、アイシャさんは、セーブ・ザ・チルドレンが実施した衛生に関するセッションや、食料の活用と健康的な調理法に関する12日間の調理実習など、さまざまな活動に参加するようになり、また、家族はこの事業から合計4回、3万1,600アフガーニー(約5万円)相当の現金支援を受けました。
この支援を通じて、アイシャさんは子どもたちの健康状態に大きな変化があったと言います。
11ヶ月のアミーラさんは、地域での調理実習と現金支援によって食料を入手し、十分な栄養を摂取できるようになった結果、病気から回復することができました。
「私は生きる希望も健康も失い、家族の食料を確保するために、娘の一人を売らなければならないと覚悟していました。でも今は、セーブ・ザ・チルドレンの支援で、家族を飢えと貧困からまもることができ、感謝しています。
紛争や収入が絶たれたことによるストレスなど、あらゆる問題がある中で、私はどうしたら良いのかもわからず、自分の人生にとても疲れていました。今、私の状況は少しずつ良くなっています。これは、セーブ・ザ・チルドレンの支援のおかげです。」
事業により、食料確保のための現金支援と衛生・栄養に関する啓発活動を実施することができました。セーブ・ザ・チルドレンは、今後もアフガニスタンの人たちが主体性を持ち、持続的に自身の対処能力を強化していくことができるよう活動を行っていきます。
本事業は、皆様からのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しています。
(海外事業部 渡会慧)
¹ IPC, Afghanistan IPC Acute Food Insecurity Analysis March-November 2022, May 2022, p.1
² IPC, Acute Food Insecurity Analysis Afghanistan, April 2021, p.4
³ Afghanistan Nutrition Cluster, 2020 Annual Report, February 2021 p.5
⁴ OCHA, Afghanistan Humanitarian Response Plan(2018-2021), January 2021 revision. p.35
⁵ OCHA, Afghanistan Humanitarian Response Plan(2018-2021), January 2021 revision. p.105
⁶ OCHA, Afghanistan: Humanitarian Response Plan (2022), January 2022, p.39
アフガニスタンでは、紛争や政情不安、自然災害、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に加え、2021年8月のタリバンによる政変などのさまざまな要因により、深刻な人道危機に陥っています。
特に食料については、2021年は過去27年間で最悪ともいえる干ばつが発生したため、国内の人口の約半数が総合的食料安全保障レベル分類(Integrated Food Security Phase Classification: IPC)で「危機的レベル」であるIPC3の状態にあります¹。
干ばつによって干上がってしまった農地(アフガニスタン・バルフ州)
事業地のアフガニスタン・バルフ州も食料危機に直面しており、2021年には32万人以上がIPC3の状態にありました²。
また、バルフ州は急性栄養不良の緊急レベル(全急性栄養不良:General Acute Malnutrition(GAM)10%以上)に該当し³、2021年の人道危機対応計画 (Humanitarian Response Plan:HRP)では、食料危機への対応は優先事項として組み込まれているほか⁴、手洗いに関する状況が危機的であるとして水・衛生分野の支援優先州でもありました⁵。
さらに、食料価格の急激な上昇も見られ、現金支援を通じた食料支援へのニーズが高いことが報告されています。
こうした喫緊の食料危機が子どもたちに及ぼしている影響は深刻です。
私たちの調査でも、過去4週間以内の食事の状況を子どもたちに質問したところ、65.5%の子どもたちが1日2食以下、もしくは不定期な食事しかとれていないと回答し、残りの約3割(33.6%)の子どもたちは、1日3食食べているものの、その多くが栄養価の低い食品や、身体に好ましくない食事を摂っていることが分かっています。
こうした現状を踏まえ、セーブ・ザ・チルドレンは2022年2月から、バルフ州の紛争や政変、自然災害などの影響を受けている脆弱な世帯を対象に、(1)食料の確保、(2)衛生と栄養に関する知識の向上を目的とした事業を開始しました。この事業では、以下の活動を実施しました。
(1)食料確保のための現金支援
食料危機への直接的な支援として、人道危機の影響を受け食料の入手が困難な世帯に対して現金を支援しました。現金やバウチャーによる支援は、国連機関が発表したアフガニスタン人道対応計画2022⁶においても、優先される支援形態として言及されています。
現金支援後には、支援の効果を確かめるため、その使途や具体的な食事の変化を調査しました。事前調査では、現金支援を受けた地域住民のうち1.4%の世帯のみが食料消費スコア(Food Consumption Score: FCS)で「許容範囲」レベルにありましたが、事業完了時点では31%まで上昇しました。
またFCSで「乏しい」レベルにある世帯の割合は、事前調査では41%であったのに対して、事業完了時点では25%まで減少しました。このように、支援で提供された現金により、地域の人たちが、食料を調達できるようになりました。
セーブ・ザ・チルドレンが実施した現金支援の様子
(2)衛生・栄養に関する啓発発動
バルフ州の脆弱な世帯に対し、衛生と栄養に関する啓発活動を実施しました。衛生習慣に関するセッションには合計3万6,000人、子どもの栄養に関するセッションには合計3,360人が参加するなど、多くの地域住民に支援を届けることができました。
また、特に支援を必要とする世帯700世帯に衛生用品キットを支援し、栄養不良の子どもを持つ養育者200人には調理実習や栄養の多い食事に関するセッションを別途実施するなど、ニーズに応じたきめ細かい支援を実施しました。
セーブ・ザ・チルドレンが実施した啓発活動の様子
私たちの活動に参加したアイシャさん(31歳)を紹介します。アイシャさんは、2歳のウナさんと、11ヶ月のアミーラさんの母親です。
夫のムハンマドさん(30歳)は、家事を手伝っていますが、アフガニスタンの深刻な経済危機のため、家族を養うための仕事を見つけることができません。また、紛争により、アイシャさん一家は自宅を破壊され、すべての財産を失いました。
命や暮らしが脅かされる状態にあり、子どもたちの食料や教育機会も確保できないため、家族は村を離れることを決意し国内避難民となっています。
ムハンマドさんは、仕事が見つからず生活は非常に厳しいと言います。収入源がないため、一家は十分な食料や飲料水、住居、薬などの日々の生活必要なものを安定して得ることができません。
アイシャさんは、次の通り話します。
「引っ越した当時、私たちは十分な食料とその他の基本的な生活物資がありませんでした。私たちは貧しい親戚の家に住まわせてもらい、収入源もありませんでした。娘は病気になり、日に日に痩せていきました。食べ物も飲料水もほとんどなく、今にも死にそうでした。」
セーブ・ザ・チルドレンのスタッフが村を訪れ、最も脆弱な家庭を調査したところ、アイシャさん一家は、地域の委員会から緊急支援が必要な世帯として特定されました。
その後、アイシャさんは、セーブ・ザ・チルドレンが実施した衛生に関するセッションや、食料の活用と健康的な調理法に関する12日間の調理実習など、さまざまな活動に参加するようになり、また、家族はこの事業から合計4回、3万1,600アフガーニー(約5万円)相当の現金支援を受けました。
この支援を通じて、アイシャさんは子どもたちの健康状態に大きな変化があったと言います。
11ヶ月のアミーラさんは、地域での調理実習と現金支援によって食料を入手し、十分な栄養を摂取できるようになった結果、病気から回復することができました。
「私は生きる希望も健康も失い、家族の食料を確保するために、娘の一人を売らなければならないと覚悟していました。でも今は、セーブ・ザ・チルドレンの支援で、家族を飢えと貧困からまもることができ、感謝しています。
紛争や収入が絶たれたことによるストレスなど、あらゆる問題がある中で、私はどうしたら良いのかもわからず、自分の人生にとても疲れていました。今、私の状況は少しずつ良くなっています。これは、セーブ・ザ・チルドレンの支援のおかげです。」
事業により、食料確保のための現金支援と衛生・栄養に関する啓発活動を実施することができました。セーブ・ザ・チルドレンは、今後もアフガニスタンの人たちが主体性を持ち、持続的に自身の対処能力を強化していくことができるよう活動を行っていきます。
本事業は、皆様からのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しています。
(海外事業部 渡会慧)
¹ IPC, Afghanistan IPC Acute Food Insecurity Analysis March-November 2022, May 2022, p.1
² IPC, Acute Food Insecurity Analysis Afghanistan, April 2021, p.4
³ Afghanistan Nutrition Cluster, 2020 Annual Report, February 2021 p.5
⁴ OCHA, Afghanistan Humanitarian Response Plan(2018-2021), January 2021 revision. p.35
⁵ OCHA, Afghanistan Humanitarian Response Plan(2018-2021), January 2021 revision. p.105
⁶ OCHA, Afghanistan: Humanitarian Response Plan (2022), January 2022, p.39