(公開日:2023.06.12)
全国の新中学1年生・新高校1年生を対象に「セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金 ~新入学サポート2023~」を実施しました
- 日本/子どもの貧困問題解決
セーブ・ザ・チルドレンは、新入学に関わる経済的負担を軽減するために、新中学1年生・新高校1年生を対象に「セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金 ~新入学サポート2023~」 を実施し、給付金を提供しました。
2022年より全国を対象に実施している本給付金は、より困難な経済状況や生活上厳しい状況にある子どもたちへの支援を目指しています。2023年は申請者数が2022年の約2.4倍の1,816人にのぼり、物価高の影響によって新入学・卒業にかかる家計の費用負担が増大している状況もうかがえました。 2023年は新中学1年生472人へ3万円、新高校1年生507人へ5万円、計979人(882世帯)に対し給付金を届けました。
2022年の給付金の実施結果はこちら
申請時の内容から、どのような世帯が今回の給付金を利用したかご報告します。(利用者数:979人、きょうだいが利用した世帯もあるため同一世帯の利用も含む)
<給付金利用者の属性について>
1. 給付金利用世帯のうち保護者の続柄として母親を選択した申請は全体の85%以上でした。一方、父親やそのほかの保護者による申請は15%以内でした。
2. 都道府県別の利用者については、大阪府からの利用者が一番多く、17.9%、続いて東京都、福岡県での利用者が順に多い結果となりました。地域別でみると、近畿地方からの利用が全体の27.0%、関東地方が24.8%、九州・沖縄地方が14.7%、中部地方からの利用が11.7%と続き、全国42都道府県からの利用となりました。
<世帯・就業状況について>
3.申請した世帯をみると、ひとり親世帯が8割にのぼり、約5人に4人でした。
4. 保護者の就業状況については、パート・アルバイトが4割、無職も5人に1人でした。また、正社員の世帯は1割でした。
<生活上の困難について>
5.今回は経済的な困難に加え、生活上特定の困難がある世帯の子どもたちを対象としました。利用者の内訳では「子ども、保護者や同居家族に疾病または障害があり、日常生活を送る上で困難があって支援が必要な状態にあるか、または介護を必要」という世帯が7割以上でした。
また、「子どもが、本来大人が担うべき役割・責任を抱え、疾病・障害のある保護者や兄弟姉妹・祖父母など同居家族のケアを日常的に行っている」とした回答も1割以上となりました。
■経済的困難かつ生活上の困難がある子育て世帯の厳しい状況
利用世帯の声から、生活上の困難が経済的な困窮に直結している実態とともに、物価上昇が及ぼす深刻な影響、最低限の生活が保障されない現状、さまざまな制約の中でなんとか暮らそうとする子どもや保護者の姿が浮かび上がりました*。
*保護者の声は、原文から一部を抜粋し、文意が変わらない範囲で編集しています。
【子どもや保護者に疾病または障害があり、日常生活を送る上で著しい困難があって支援が必要な状態にあるか、または介護を必要とする世帯からの声】
●子どもの通院、急な発熱や発作の恐れがありフルタイムで働けずパートの給料では日常の生活費を捻出するだけで精一杯です。(近畿・新中学1年生の母)
● パートに行っているが、(同居の祖父や叔父の)介護などのため短時間しか働くことが難しい。また、下の子も、小学校入学で、ランドセルなどはお下がりを使わせるが、卒園アルバムや消耗品などは購入するので、費用がかさむ。(中部・新中学1年生の父)
●ひとり親家庭であり、母である私が脳梗塞の後遺症で、なかなか思うように働くことができず、収入があまりありません。日々、食べていくのが精一杯の状態です。(近畿・新中1年生の母)
【子どもが、本来大人が担うべき役割・責任を抱え、主に疾病・障害などのある保護者やきょうだい・祖父母など生計を同じくする同居家族のケア・お世話をしている世帯からの声】
●私が出勤してから保育園が開くまでは、中学生の子が、末っ子を起こし、朝食準備や着替え、トイレなどの登園準備や洗濯、食器洗いまで、すべての世話をし、送迎をしてくれます。朝の家事をすべてやってくれているので、学校まで徒歩40分以上の道のり、登校時間に間に合わなかったり、宿題などをやる時間が無くなってしまったりはしばしばです。朝練にも参加ができず、私が子どもたちと顔を合わせる時間がなかなかないので、悩みなどを聞くこともできません。(関東・新高校1年生の母)
●子の母親に精神障害があるため、本来母親がすべきである家事などを子どもがしなくてはならないことがある。頻度は母親の症状により(おおよそ平均的には月の半分程度)、家の掃除や洗濯、食事の用意、買い物、1日1時間程度。手を借りられる大人がいないため、主な家事を子がほとんどしなくてはならないときもある。(関東・新高校1年生の母)
【子ども・父母の両方、またはどちらかが日本語を母語とせず、日常生活を送る上で日本語によるコミュニケーションにサポートが必要な状況にある世帯からの声】
●両親が日本語をあまり話せないため日本で仕事をするのが難しい。重要な書類などが書けない。コロナになってから、収入が不安定になり、子どもも4人いるためなかなか普通の生活をするのが難しい。(関東・新中学1年生の一家の支援者)
●にほんご できない。しごと ない。がっこう てがみ わからない。 いんたーなしょなるセンター てつだう てがみ。(中部・新高校1年生の母)
【在留資格がない、難民申請中、無国籍、無戸籍などの理由により公的支援が利用できない世帯からの声】
●母親と子ども二人の世帯ですが3人とも仮放免者で、難民申請中です。就労許可がなく無収入です。NPOや友人からの支援がありますが、生活費に苦しんでいます。母親はくも膜下出血で2回手術しており、健康も万全ではありません。(関東・新高校1年生の一家の支援者)
● 世帯全員が仮放免のため、公的支援を受けることができない。収入もないため、費用を用意することも困難です。 (関東・新高校1年生の一家の支援者)
■経済的な理由で諦めざるを得なかったこと
●中学では部活がしたいと言っていたが、経済的に厳しくなったため、させてあげられなかった。また、受験のために塾に通いたいと言っていたが、通わせてあげられなかった。(九州・沖縄地方・新高校1年生の母)
●ピアノを続けさせることができなかった。体育着を新調してあげられなかった。学校指定のカバンが壊れてしまったが購入するわけに行かず、自宅で何とか使えるように直した。(東北・新中学1年生の母)
こうした声からは、苦しい家計の状況によって子どものやりたいことをやらせてあげられなかったという保護者の葛藤や後悔の気持ちが浮かび上がっています。
そのような状況の中、今回のセーブ・ザ・チルドレンの給付金によって子どもの入学の準備のために学校用品を揃えることができた、子どものよろこぶ顔が見れたという声もたくさん寄せられています。
● 体育に使う柔道着、新しいシャツ、制服、体育館シューズなどを買いました。ずっと小さいまま我慢して履かせていたので、靴擦れがすごかったです。息子は新しいものにとても喜んでいました。購入を後回しにしたことを反省しました。(新高校1年生の保護者)
●ずっと入りたいと言っていたバドミントン部に入部しました。部活の道具を揃えてあげることができました。お店で選んでる姿は、笑顔で、嬉しいのが伝わりました。絶対強くなるから、試合に出れたら応援してね。と目標に向かってるようです。やりたいことを、やらせてあげることができました。本当にご支援ありがとうございました。(新中学1年生の保護者)
すべての子どもは、経済的な状況に関わらず、学びたいこと、学びたいと思う場所で学ぶこと、やりたいことを選択できる権利があります。しかしながら、新入学時の制服や学校用品の家計負担は、もともと経済的に困難な状況にある世帯に大きくのしかかり、そうした学びのスタートが十分にできなくなっている状況があります。事務局に寄せられる申請者の声の深刻さや内容から、子どもたちの学びのスタートがこれまでよりもさらに厳しい状況に置かれているのではないかと危機感を抱いています。
6月19日には、子どもの貧困対策法が2013年に成立して丸10年を迎えます。教育への支援は同法の中でも特に重要な施策の一つとして位置づけられており、就学援助の周知状況などは対策推進の指標ともなっています。また、同法に基づいた行動計画である子供の貧困対策大綱には、家族の世話をしている子どもたち、障害のある子どもたち、海外につながる子どもたちなど、特に支援が届いていない、または届きにくい子ども・家庭に配慮して対策を推進することが明記されています 。しかし、10年経てもなお、さまざまな状況にいる子どもや保護者への支援施策が十分ではない現状が浮かび上がっています。
セーブ・ザ・チルドレンは、今後、本給付金を利用した子どもや保護者から、求められている支援や制度の改善をさらに詳しく聴く予定です。そして、こども政策を総合的に推進するために検討が進められているこども大綱に向けて、そうした声と、必要な施策の拡充を国や国会議員に届けていきます。
(報告:国内事業部 岩井)
セーブ・ザ・チルドレンでは「子ども給付金~新入学サポート~」以外にも、子どもの貧困問題解決に向けさまざまな取り組みを行っています。活動の最新情報は随時こちらのページ で更新しています。ご関心がある方はぜひご覧ください。