(公開日:2023.12.12)
【インタビュー】幾重にも重なる困難と求められる支援:子ども給付金を利用した保護者の声:前編
- 日本/子どもの貧困問題解決
セーブ・ザ・チルドレンは、経済的に困難な状況にあり、かつ、生活上で特定の困難がある世帯の中学生・高校生を対象に新入学・卒業時期に給付金を提供する「セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金~新入学サポート2023~」を行いました。
今回、関東地方在住で、給付金を利用した世帯の保護者Iさんに、生活の状況や社会へ望むこと、自身の生まれ育った背景などについて話を聞きました。
記事は前編・後編に分けて紹介します。後編の記事はこちら
(個人が特定されないよう、インタビュー内容を一部再構成しています。)
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「元夫が暴れてるのを見ていたのもあり、子どもは周りの空気を読むようになってしまいました。」
(高校1年生の母・Iさん、関東地方 在住)
■想像以上にかかる新入学費用を気にする我が子
Iさんは、高校生と小学生2人の子どもを育てています。子どもは入りたかった部活動がある高校に進学し、現在は学校生活を楽しんでいます。
セーブ・ザ・チルドレンの新入学サポートを知った経緯や給付が決まった時の様子を聞くと、
「ひとり親家庭を支援してる人のインターネット情報で知りました。給付決定のメールが来たと子どもに話をしたら、『ありがたいね』と言っていました。」と教えてくれました。
「子どもは新入学でお金がかかることに『大丈夫?』と心配して、ワイシャツを替え用も入れて2枚は必要だよと言っても、『1枚でいいよ』、と遠慮していました。ちょっとしたことに、『え、こんなにかかるんだ』と、不安な様子も見せていました。必要な教科分辞書を持ってくるように学校で言われ、購入費用と持ち運びを考えて電子辞書にしましたが、それも高額でした。子どもはお金のことをとても気にしています。」
■物価高の生活で工夫していること
新入学の費用に加え物価高もあるなか、Iさんは社会福祉協議会のひとり親家庭サポート事業で、お米や野菜、調味料、生理用品や洗剤などを受け取ることができたと言います。
「料理は得意なので、いただいた食料品や近所で野菜を育てている方に分けていただいたものでご飯をつくったりしています。スーパーで仲の良い店員に見切り品の状態良いよとか、この時間に見切り品が来るよと教えてもらうこともあります。職場の飲食店のオーナーにも、これ持っていきなと魚やお肉をいただいてそれを月数回、夜ご飯にしています。」
Iさんは今年離婚が成立し、その際に社会福祉協議会の食料品や日用品の無料配布を申し込みました。しかし、期間が終われば受け取れなくなるため、食費や日用品の高騰で生活が苦しくなることへ不安も訴えます。
■保護者の体調への不安と医療へつながるハードル
普段、Iさんは飲食店のパート従業員として忙しく働いています。体力のいる仕事ですが、自身の体調に不安を感じているそうです。
「以前、不安障害とパニック障害と診断され、精神科を受診していましたが、今は行けていません。頓服用に多めにもらっている過呼吸の薬を飲みながら働いてます。」
元夫と別居し始めたとき、自身と子ども2人の実質ひとり親家庭ではあったものの、離婚が成立するまではひとり親家庭を対象とした医療費助成制度を利用することができませんでした。通院1回の受診料が6,000円から7,000円もかかり、病院から足が遠のいてしまったそうです。
現在は医療費の助成も利用できますが、「仕事も休まなくてはいけないし、今、病院に行っている場合じゃないなと思っています。」
ひとり親世帯では保護者が一人で家計を支えている場合も多く、仕事を休んで医療機関にかかることは容易ではありません。
全国的な調査でも、ひとり親世帯の受診控えの傾向*1 が指摘されており、経済的、時間的な制約がその大きな理由です。まして、実質ひとり親世帯では、本来必要とする医療費助成制度の利用ができないこともあり、さらに苦しい現状があります。
■ ドメスティックバイオレンス(DV)による避難と制度のはざま
Iさんと子どもたちは元夫からのドメスティックバイオレンス(DV)を理由に数年前から別居生活を送っていました。
「元夫は、上の子どもが生まれてすぐくらいから、家で暴れ出すようになりました。仕事で上手くいかないことをすべて私のせいだと思っているみたいでした。DV特有の暴れる、反省する、優しくなるといったトライアングルがあります。元夫の機嫌が悪くならない状況を常に気にかけながら生きていました。」
Iさんは、元夫のDV被害を受けながらも、かかりつけの精神科や相談センター、警察、母子センターなどの機関へ機会があるごとに相談していたそうです。
ある日、それまでDVの様子を見ていた上の子どもが「ママ、もう出て行っても良いんだよ、疲れたでしょ」とIさんへ声をかけたと言います。そこから別居に向けて動き出し、新しい部屋を契約し、Iさんと子どもたちは元夫から離れて暮らすようになりました。
別居後、Iさんは、児童扶養手当の申請に行きましたが、Iさんの住む自治体では裁判所が配偶者などによる暴力からの保護命令を出さないと申請できないと窓口で断られました。
児童扶養手当がないことで、新型コロナウイルス感染症に伴う補助金なども申請できませんでした。元夫の婚姻費用の未払いや感染症による学校の休校も重なった苦しい時期に頼れる制度がないことに、社会への理不尽さを 感じたようです。
配偶者からのDVに耐えかねて子どもとともに避難せざるを得ない状況があったとしても、その後の経済的なサポート体制が十分に整っているとは言えない状況が浮かび上がります。
■長期化するDVによる影響
今、Iさんは、 元夫のDVを見て過ごさざるを得なかった子どもたちを心配しています。特に現在高校生の子どもについて、直接DVを見ていたことで、気持ちを素直に出せなくなってしまったのではないかと、いつも気にかけています。
「小さい頃から元夫が暴れてるのを見ていたこともあり、周りの空気を読むようになってしまいました。そろそろパパが機嫌悪くなるなとか、余計な気を遣って生きてしまうようになって、ずっと自分のやりたいことを言えなかったのではと思います。すごく優しくて、文句も全然言いません。なるべく上の子と過ごす時間をつくるようにしていました。」
Iさんと子どもたちは別居以降、DV等支援措置*3 の手続きを行い、現在も元夫に居所(きょしょ)を知られないように生活しています。
しかし、経済的な理由から平日日中の勤務に加え、夜も働きに出ることも多く、子どもたち2人で過ごすことが多くなっていることが気がかりです。
「子ども2人だけの時は、誰か来ても家のドアを開けないでと言っています。インターホンの音を全部消しスイッチを切り、鍵も2つ付けた状態で家を出て、何かあったらすぐ職場に電話するように伝えています。」
親 のどちらかがもう一方の親からのDVを受ける場合、それは面前DVとして子どもへの心理的虐待にあたります。
そうした面前DVを受けた子どもたちの中には、自分がDVの原因であると感じたり、常に緊張を強いられることで安心・安全を感じにくくなったり、自己評価が低くなるなど精神的な問題を抱えることが少なくありません。
また、Iさんの話からは、DV被害を受けた保護者と子どもたちは長期的な影響を受けながらも経済的な困窮状態にあることが多く、制度の狭間に置き去りにされていたり、包括的な支援が不足していたりするという社会の課題が浮かび上がります。
Iさんは、これまで保健センターをはじめ、子どもが通っていた保育園や学校、スクールカウンセラー、民間団体などに子どもたちの状況など相談をし、子どもが安心・安全を感じられるように気を配ってきたと言います。
特に、状況を知る身近な学校の先生や友人、まわりの人に相談し寄り添ってもらえたことが大きな助けとなり、今のところ、子どもの様子も落ち着いています。
しかし、DV被害を受けていると、なかなか周囲に相談することが難しく、適切な支援を受けづらい場合も多くあります。Iさんは、同じように悩んでいる人に「どうか思いつめないで、周りの人に相談して欲しいです。」と語りました。
(報告:国内事業部 岩井)
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続いて、後編の記事ではIさんの子ども時代の困難や、制度への要望についてお聞きしました。
後編の記事はこちら
※セーブ・ザ・チルドレンでは新入学サポート以外にも、子どもの貧困問題解決に向けさまざまな取り組みを行っています。活動の最新情報は随時こちらのページで更新しています。ご関心がある方はぜひご覧ください。
今回、関東地方在住で、給付金を利用した世帯の保護者Iさんに、生活の状況や社会へ望むこと、自身の生まれ育った背景などについて話を聞きました。
記事は前編・後編に分けて紹介します。後編の記事はこちら
(個人が特定されないよう、インタビュー内容を一部再構成しています。)
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「元夫が暴れてるのを見ていたのもあり、子どもは周りの空気を読むようになってしまいました。」
(高校1年生の母・Iさん、関東地方 在住)
■想像以上にかかる新入学費用を気にする我が子
Iさんは、高校生と小学生2人の子どもを育てています。子どもは入りたかった部活動がある高校に進学し、現在は学校生活を楽しんでいます。
セーブ・ザ・チルドレンの新入学サポートを知った経緯や給付が決まった時の様子を聞くと、
「ひとり親家庭を支援してる人のインターネット情報で知りました。給付決定のメールが来たと子どもに話をしたら、『ありがたいね』と言っていました。」と教えてくれました。
「子どもは新入学でお金がかかることに『大丈夫?』と心配して、ワイシャツを替え用も入れて2枚は必要だよと言っても、『1枚でいいよ』、と遠慮していました。ちょっとしたことに、『え、こんなにかかるんだ』と、不安な様子も見せていました。必要な教科分辞書を持ってくるように学校で言われ、購入費用と持ち運びを考えて電子辞書にしましたが、それも高額でした。子どもはお金のことをとても気にしています。」
■物価高の生活で工夫していること
新入学の費用に加え物価高もあるなか、Iさんは社会福祉協議会のひとり親家庭サポート事業で、お米や野菜、調味料、生理用品や洗剤などを受け取ることができたと言います。
「料理は得意なので、いただいた食料品や近所で野菜を育てている方に分けていただいたものでご飯をつくったりしています。スーパーで仲の良い店員に見切り品の状態良いよとか、この時間に見切り品が来るよと教えてもらうこともあります。職場の飲食店のオーナーにも、これ持っていきなと魚やお肉をいただいてそれを月数回、夜ご飯にしています。」
Iさんは今年離婚が成立し、その際に社会福祉協議会の食料品や日用品の無料配布を申し込みました。しかし、期間が終われば受け取れなくなるため、食費や日用品の高騰で生活が苦しくなることへ不安も訴えます。
■保護者の体調への不安と医療へつながるハードル
普段、Iさんは飲食店のパート従業員として忙しく働いています。体力のいる仕事ですが、自身の体調に不安を感じているそうです。
「以前、不安障害とパニック障害と診断され、精神科を受診していましたが、今は行けていません。頓服用に多めにもらっている過呼吸の薬を飲みながら働いてます。」
元夫と別居し始めたとき、自身と子ども2人の実質ひとり親家庭ではあったものの、離婚が成立するまではひとり親家庭を対象とした医療費助成制度を利用することができませんでした。通院1回の受診料が6,000円から7,000円もかかり、病院から足が遠のいてしまったそうです。
現在は医療費の助成も利用できますが、「仕事も休まなくてはいけないし、今、病院に行っている場合じゃないなと思っています。」
ひとり親世帯では保護者が一人で家計を支えている場合も多く、仕事を休んで医療機関にかかることは容易ではありません。
全国的な調査でも、ひとり親世帯の受診控えの傾向*1 が指摘されており、経済的、時間的な制約がその大きな理由です。まして、実質ひとり親世帯では、本来必要とする医療費助成制度の利用ができないこともあり、さらに苦しい現状があります。
■ ドメスティックバイオレンス(DV)による避難と制度のはざま
Iさんと子どもたちは元夫からのドメスティックバイオレンス(DV)を理由に数年前から別居生活を送っていました。
「元夫は、上の子どもが生まれてすぐくらいから、家で暴れ出すようになりました。仕事で上手くいかないことをすべて私のせいだと思っているみたいでした。DV特有の暴れる、反省する、優しくなるといったトライアングルがあります。元夫の機嫌が悪くならない状況を常に気にかけながら生きていました。」
Iさんは、元夫のDV被害を受けながらも、かかりつけの精神科や相談センター、警察、母子センターなどの機関へ機会があるごとに相談していたそうです。
ある日、それまでDVの様子を見ていた上の子どもが「ママ、もう出て行っても良いんだよ、疲れたでしょ」とIさんへ声をかけたと言います。そこから別居に向けて動き出し、新しい部屋を契約し、Iさんと子どもたちは元夫から離れて暮らすようになりました。
別居後、Iさんは、児童扶養手当の申請に行きましたが、Iさんの住む自治体では裁判所が配偶者などによる暴力からの保護命令を出さないと申請できないと窓口で断られました。
児童扶養手当がないことで、新型コロナウイルス感染症に伴う補助金なども申請できませんでした。元夫の婚姻費用の未払いや感染症による学校の休校も重なった苦しい時期に頼れる制度がないことに、社会への理不尽さを 感じたようです。
配偶者からのDVに耐えかねて子どもとともに避難せざるを得ない状況があったとしても、その後の経済的なサポート体制が十分に整っているとは言えない状況が浮かび上がります。
■長期化するDVによる影響
今、Iさんは、 元夫のDVを見て過ごさざるを得なかった子どもたちを心配しています。特に現在高校生の子どもについて、直接DVを見ていたことで、気持ちを素直に出せなくなってしまったのではないかと、いつも気にかけています。
「小さい頃から元夫が暴れてるのを見ていたこともあり、周りの空気を読むようになってしまいました。そろそろパパが機嫌悪くなるなとか、余計な気を遣って生きてしまうようになって、ずっと自分のやりたいことを言えなかったのではと思います。すごく優しくて、文句も全然言いません。なるべく上の子と過ごす時間をつくるようにしていました。」
Iさんと子どもたちは別居以降、DV等支援措置*3 の手続きを行い、現在も元夫に居所(きょしょ)を知られないように生活しています。
しかし、経済的な理由から平日日中の勤務に加え、夜も働きに出ることも多く、子どもたち2人で過ごすことが多くなっていることが気がかりです。
「子ども2人だけの時は、誰か来ても家のドアを開けないでと言っています。インターホンの音を全部消しスイッチを切り、鍵も2つ付けた状態で家を出て、何かあったらすぐ職場に電話するように伝えています。」
親 のどちらかがもう一方の親からのDVを受ける場合、それは面前DVとして子どもへの心理的虐待にあたります。
そうした面前DVを受けた子どもたちの中には、自分がDVの原因であると感じたり、常に緊張を強いられることで安心・安全を感じにくくなったり、自己評価が低くなるなど精神的な問題を抱えることが少なくありません。
また、Iさんの話からは、DV被害を受けた保護者と子どもたちは長期的な影響を受けながらも経済的な困窮状態にあることが多く、制度の狭間に置き去りにされていたり、包括的な支援が不足していたりするという社会の課題が浮かび上がります。
Iさんは、これまで保健センターをはじめ、子どもが通っていた保育園や学校、スクールカウンセラー、民間団体などに子どもたちの状況など相談をし、子どもが安心・安全を感じられるように気を配ってきたと言います。
特に、状況を知る身近な学校の先生や友人、まわりの人に相談し寄り添ってもらえたことが大きな助けとなり、今のところ、子どもの様子も落ち着いています。
しかし、DV被害を受けていると、なかなか周囲に相談することが難しく、適切な支援を受けづらい場合も多くあります。Iさんは、同じように悩んでいる人に「どうか思いつめないで、周りの人に相談して欲しいです。」と語りました。
(報告:国内事業部 岩井)
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続いて、後編の記事ではIさんの子ども時代の困難や、制度への要望についてお聞きしました。
後編の記事はこちら
※セーブ・ザ・チルドレンでは新入学サポート以外にも、子どもの貧困問題解決に向けさまざまな取り組みを行っています。活動の最新情報は随時こちらのページで更新しています。ご関心がある方はぜひご覧ください。