【インタビュー】幾重にも重なる困難と求められる支援:子ども給付金を利用した保護者の声:後編

セーブ・ザ・チルドレンは、経済的に困難な状況にあり、かつ、生活上で特定の困難がある世帯の中学生・高校生を対象に新入学・卒業時期に給付金を提供する「セーブ・ザ・チルドレン子ども給付金~新入学サポート2023~」を行いました。

今回は、前編に続き、関東地方在住  で、給付金を利用した世帯の保護者Iさんに、自身の子ども時代の経験や、制度への要望などについて話を聞きました。
(個人が特定されないよう、インタビュー内容を一部再構成しています。)

前編の記事はこちら
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■制度を利用しやすくするために求められる手続きの簡素化
Iさんはこれまで別居、DV避難、離婚手続き、児童扶養手当や国の特別給付金など  の申請を自分で行う中で、より困っている人が公的支援制度をスムーズに利用できるようにしてほしいと感じています。
「別居から離婚の手続き、ひとり親になってからの手当や助成金の申請など、とても大変でした。もっと簡素化してほしいです。

どの書類がいつ必要かを全部自分で調べて用意しておいても役所の人が分かっていないことも多く、別の担当の人に代わったり、その担当者が本籍地の役所  に問い合わせすることもありました。

事前に調べてから窓口に行って説明しても、基本的な部分を担当者が知らないと話が伝わらず、何でこうなるんですか、と逆に聞かれることもありました。」

新型コロナウイルス感染症に伴う臨時特別給付金も、案内が窓口によって違うことがあったというIさん。役所と給付金の窓口の連携、国と地方との連携が取れていない、窓口業務の手順や担当者の研修体制が整っていないと感じました。どの窓口でも同じ対応であれば、本当に困って相談する人の負担軽減につながるのではと、Iさんは考えます。

「手当の必要書類の説明も全部難しく書いてあります。もっとわかりやすくないと、母子家庭で若くしてお子さんを産んだ女性などは分からないのでは思います。自分で調べられない、どう調べて良いか分からない親御さんが多いと思います。」

■自ら情報を調べざるをえなかった、Iさんの子ども時代
これまでのインタビューでIさんは自身で必要な情報を調べ、周囲とのつながりを大事にしながら、困難な状況を乗り切ってきたことを話してくれました。しかし、その背景には周りに頼ることができなかった子ども時代の経験があったと言います。

Iさんは多子世帯の末子として母子家庭で育ちました。母親は夜に仕事をしており、Iさんも小学校の時は朝方3時や4時ごろに一緒に帰ってくる生活をしていて不登校だったそうです。
「母は3万円ぐらい置いて1週間ぐらい帰ってこなかったりすることもありました。幼いころから自分やきょうだいで、どうにか生活するしかなかった。」

中学生になると新聞配達、高校ではアルバイトをしながら自分の参考書や交通費、携帯代を工面し、自分でお弁当も用意していました。高校卒業後に就職し、家にお金を入れていたものの、体調を崩し休むようになってからは、母親に荷物をすべて捨てられ、出ていけと言われてしまったそうです。

Iさんはその時から精神科に通うようになりました。そして、自分自身でどうにかしなくては立ち行かなくなった経験から、自分で必要なことは調べるようになった、と言います。


■信じられる大人との出会い

子どもの頃、Iさんは、意を決して家から出て学校の先生に相談したことがありました。しかし、先生は母親に、そのことを話したようで、反対に自分が母親に暴力を振るわれてしまったそうです。また、周囲から母の仕事や母子家庭への差別を感じていたことも話してくれました。

こうした子ども時代を過ごす中、周りの大人を信頼できず、誰にも頼れなかったと言います。ただ、印象的だった2人の大人との関わりを教えてくれました。

「中学校2年生のときに、ある施設へ  ボランティアに通っていたんです。そこで会った利用者のおばあちゃんは、何度も同じ話を繰り返すんです。行くたびにずっと話を聞いていました。

何ヶ月かたったある日、入り口のところにそのおばあちゃんが立っていて、『あんたのこと待ってたんだよ』って言ったんです。それまで私は誰にも必要とされていないと思って14年間生きてたから、そのときのおばあちゃんの『待ってたんだよ』がすごくうれしかった。それから人の役に立ちたいと思うようになりましたね。」

「高校生の時にアルバイトしていた飲食店の社長の、お客様が喜んでくれることがうれしいという考えに触れたことも大きかったです。社長はお客さんに喜んでもらえたこと、従業員にしてもらってうれしかったことを休憩室のノートに書くように言って、みんなで書き合いました。

これを助けてもらえたのが嬉しいとか、お客さんがこうやってありがとうって言ってくれたのがうれしいとか。人に感謝することや、人に喜んでもらえることがうれしいと感じるきっかけにもなりました。」

この2人との出会いで、人に必要とされるうれしさや思いやりの気持ちを学んだことで、人と上手く話せるようになったとIさんは話します。

Iさんの体験した虐待や差別はあってはならないことですが、そうした経験した子どもにも、周りに信頼できる大人がいることで、その経験から立ち直り回復していくことができると多くの研究で言われています。    

■子どもを育てる世帯すべてを対象にした支援の充実への願い
子ども時代や子育て期の経験を通してIさんは、国や行政のさまざまな困窮世帯向けの支援について、その対象を広げてほしいと言います。

「みんなが一緒であれば、非課税や母子家庭の人たちだけずるいといった意見が出ないと思います。非課税や母子家庭対象の支援ばかりだと、対象の人がすいません、みたいな感じになってしまいます。

子どもを育てているのはみなさん一緒なので、かかる費用も一緒だし、それ以上に支払っている訳じゃないですか。手当の所得基準のギリギリの世帯の人は、ほんとに大変だろうなと思います。」

Iさんの知り合いには、子どもが18歳以上のため食料支援が利用できなかった世帯、パートやアルバイトで生活をつないでいる一人暮らしで、どの支援も対象外となってしまう青年、2022年10月から児童手当対象外となってしまった高所得の子育て世帯などがいました。

ネットニュースなどで「母子家庭だけずるい」「非課税世帯だけずるい」といった意見も目にしているIさんは、困っている人が不安を相談しにくい社会になっていると感じています。

「家庭ごとに制度利用の差があると、悩みの相談がしにくくなってしまうと思います。お母さんたちの集まりでも、例えば共働きでお仕事されていたら見えているものが違うから、専業主婦のお母さんの悩みの深くまでは分からない。

母子家庭の人もやっぱり見えているものが違うし、生活のサイクルも違かったりする。共働きでフルタイムで働いてるお母さんが同じ年の子どもを育てていても、個々で悩みが異なるし、補助金や手当も違う。そうすると、不安なことや悩みを相談しにくくなり、あの子は良いな、となってしまう。平等に制度を利用できるようになれば、みんなで話ができるのではと思います。」




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Iさんの話から、子育て世帯の支援制度に関して対象を絞ることは、対象にならない人たちから対象者への非難につながりやすく、それが対象者の制度利用への罪悪感にもつながってしまうことがうかがえます。

政府は、2024年10月から児童手当の所得制限の撤廃と対象年齢の18歳までの延長を予定しています。  

セーブ・ザ・チルドレンは、児童手当の制限が撤廃されたことで、子どもの育ちや学びを社会全体で支えていこうという土壌が日本の中で育つことを期待しています。

効果的に子どもの貧困問題を緩和   するには、すべての子育て世帯への児童手当などの給付を土台にして、低所得世帯に上乗せの給付を行うことが重要という専門家の指摘もあります。

子どもの権利保障の視点からもすべての子どもへの普遍的な現金給付を充実させることが求められています。

(報告:国内事業部 岩井)

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