【イエメン 教育と子どもの保護支援完了】国内避難民キャンプにおけるノンフォーマル教育支援と子どもの保護に関する問題への対応能力強化支援

イエメンでは、8年以上にわたる紛争により国民の3分の2にあたる2,160万人が緊急・人道支援を必要としており、そのうち850万人は子どもです1


学習支援センターで勉強に集中する生徒

イエメンにおいて子どもたちへの教育は大きな課題になっています。長期間にわたる紛争の影響により、約2,700の学校が空爆により損壊などの被害を受けるか、学校以外の用途で使用されています2
 

半壊した学校

また、経済状況の悪化により、多くの世帯が子どもたちの学習に必要な学用品を購入できなくなりました。2016年からは教員への給与の支払いも不定期となっており、約15万5,000人の教員が現在給与を受け取れていない状況です3

特に、紛争が激しい地域から国内の他の地域に逃れてきた国内避難民の子どもたちは、世帯収入の減少や頻繁な移動などにより学習機会を得にくい状況にあります4 。また、初等教育の中退率は約30%にのぼります5

これらの要因により、イエメン全土において2022年から30万人増加した270万人を超える子どもたちが教育を受けられていません 6

多くの子どもが教育を受けられない状況のなか、ユニセフが実施した子どもの読解力を測る調査では、簡単な文章を読むことのできる子どもはイエメン国内に5%しかいないことが報告されています7

今回支援を行った南部ラヒジュ県にある多くの公立学校では、すでに定員を超えて生徒を受け入れており、国内避難民の子どもが新たに編入する余地がほとんどなくなっています。

また、仮に受け入れることができたとしても、公立学校は国内避難民キャンプから離れた位置にあり、保護者は子どもの長距離通学が危ないと考え、公立学校に通うのを許可しないといったケースもあります。
 

ラヒジュ県はイエメン南部に位置する湾岸地域です
(出典: Berghof Foundation and Political Development Forum Yemen, Local Governance in Yemen: Resource Hub)


また、紛争が始まって以降、1万人以上の子どもたちが犠牲になるか、負傷しています8 。国内避難民の中には、大人の付き添いがない子どもや主たる養育者と離ればなれになった子どもが18%います 9

こうした状況にある子どもたちは、緊急下で守ってくれる人がいないため暴力に晒されるリスクが高くなっており10 、子どもたちを暴力などから守る(子どもの保護)支援も必要です。

こうした状況を受け、2022年8月4日から2023年8月3日にかけて、セーブ・ザ・チルドレンは、ラヒジュ県で、国内避難民キャンプにおけるノンフォーマル教育支援と、地域の子どもの保護に関する問題の対応能力強化事業を実施しました。

約1年間実施した支援事業について報告します。(こちらにて支援を受けた子どもたちのインタビューがご覧頂けます。)

この事業では、国内避難民キャンプにある2つの学習支援センターの運営を行い、地域から採用した教員が授業をすることで、子どもたちが教育を受けられるように支援しました。

授業が円滑に行われ、生徒たちが学習に集中できるように、学習支援センターに登録した871人の生徒へ筆記用具やノートが入った学習キットを、そして採用した47人の教員に対しては出席簿やノートなどが入った授業用キットを配布しました。

また、教員へは緊急下における教育のほか、暴力を用いない指導方法や、心理的な問題を抱えた子どもたちへの対応方法などに関する研修を行いました。

同時に、学習サークルを形成し、教員同士が授業の進め方について良い点や改善点を共有できるようにして、授業の質が持続的に向上するよう働きかけました。


学習支援センターの外観


 教員の学習サークルの様子

さらに、長らく教育から離れてしまったことで授業についていけないなど、学習に困難を抱えている50人の生徒に対して、補習授業を実施しました。
 

授業に参加する子どもたちの様子

また、セーブ・ザ・チルドレンは、子どもや保護者の声を活動に活かすことを大切にしています。学習支援センターが、子どもたちにとって安心・安全な環境になるよう、生徒会と保護者会による学習支援センター内部や周辺の環境に関する安全計画の作成と実施を支援しました。

さらに、子どもたちが授業外で取り組みたい活動について子どもたちの意見を聞き、サッカーや卓球、ボードゲームや描画などの課外活動ができるように必要な道具を配布しました。



課外活動で屋外のアクティビティに参加する子どもたちとデモンストレーションを行うセーブ・ザ・チルドレンのスタッフ

そのほか、学校での衛生対策が万全になるよう、子どもたちに対して感染症予防に関する啓発活動を実施し、石けんなどを含む衛生用品の提供などを行いました。

 
衛生啓発セッションに参加する子どもたち

子どもの保護の支援では、社会福祉労働省に勤務する4人のソーシャルワーカーに対して、支援を必要としている子どもを特定し、必要な支援を実施するケースマネジメントに関する研修を行いました。
 

ソーシャルワーカーによる会議の様子

また、教員や保護者、地域の人たちから構成された子どもの保護委員会が、ソーシャルワーカーに対するサポートができるよう研修を実施し、地域における子どもが直面する問題について話し合う会合を開催しました。これらの活動の結果、184人の子どもたちがケースマネジメントによる個別支援を受けることができました。

次回は、この活動で支援を受けたカリードさんのケースストーリーをご紹介します。

本事業は皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しています。

(海外事業部 小山光晶)

1 OCHA, Humanitarian Response Plan 2023, p.11.
2 OCHA, Humanitarian Needs Overview 2023, p.52.
3 OCHA, Humanitarian Needs Overview 2023, p.52.
4 OCHA, Multi-Cluster Location Assessment (MCLA), p.28.
5 UNICEF, “Food Price DevelopmentsAnalysis in Yemen and the Associated Socio-Economic Impact (March 2022)”, p.34
6 OCHA, Humanitarian Needs Overview 2023, p.52.
7 UNICEF “Impact of Education Disruption: Middle East and NorthAfrica - March 2022”,
 p.1
8 OCHA, Humanitarian Needs OverviewYemen 2022, p.75.
9 UNHCR, “UNHCR Yemen OperationalUpdate, covering the Period 30 November - 9 December 2021
10 OCHA, Humanitarian Needs OverviewYemen 2022, p.75.

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