【モンゴル】障害のある子どもがいる保護者の能力強化事業

セーブ・ザ・チルドレンの調査によると、モンゴルの6県で遊牧生活を送る人たちの15.3%が、全く文字を読めない状態にあることが分かりました。彼らの多くは、義務教育を修了しないまま成人を迎えています。

実際に、私たちが、首都から離れた農村部に行くと、基本的な読み書きができない大人が少なくないことを、実感しています。例えば、自然災害の際、支援物資を受け取ったことを証明するための署名ができない遊牧民によく出会います。

やがて彼らが子どもを持つと、子どもの教育や発達に関する情報や公的なサービスに十分アクセスできず、特に障害のある子どもがいる場合、幼稚園や学校に通えないものと思い込んだり、発達を促す関わりが十分にできなかったりという課題があります。


セーブ・ザ・チルドレンによる6県の農村部での読み書き計算能力の調査の様子(ゴビアルタイ県、2023年6月)

こうした状況をうけ、2022年6月から2023年7月まで、モンゴルのウブルハンガイ県とホブド県で、遊牧家庭の保護者60人が、基本的な読み書き計算能力や、障害のある子どもを支援するためのスキルを身に付けられるよう、約1年間にわたる支援事業を実施しました。

具体的な活動としては、以下を実施しました。
1. 地域の生涯学習センターの職員に対して、保護者への学習プログラムの提供方法に関する研修を実施
2. 生涯学習センターへの資機材の供与(ノートパソコン・プリンター・ポータブルスピーカー・ポータブルDVDプレーヤー・インターネットモデム)
3. 生涯学習センターによる、保護者への学習プログラムの提供

この活動では、対面指導(集団指導および個別指導)や、自己主導型学習を含む学習プログラムを提供しました。

さらに、生涯学習センターが採用してきた従来型の紙とペンでの学習形式にこだわらず、インターネット上の学習用動画、DVD、eラーニングプラットフォームなどを活用した指導を行いました。

その結果、事前・事後評価の平均点は改善し、リーディングで14.2点(40点満点)、ライティングで8.8点(30点満点)、計算で12.7点(30点満点)上昇しました。読み・書き・計算のそれぞれが全くできない人の割合は、全体の3分の1程度(33%から35%の間)でしたが、事業終了後にはゼロになりました。



生涯学習センターの職員が紙幣について個別指導する様子(ホブド県、2023年2月)

また、事後評価の際、プログラムに参加した保護者の95%(57人)が、事業参加によって、「自身の障害のある子どもの教育に対して前向きな変化があった」と回答しました。

例えば、障害のある子ども42人のうち、11人は公的な教育サービス(幼稚園や学校など)を利用していませんでしたが、うち7人が教育サービスにアクセスするようになりました。あるいは、不登校だった子どもの通学を意識的に支援するようになったり、子どもの関心に合わせてより多様な教育機会(クラブ活動への参加など)をサポートするようになったりしたそうです。

また、プログラムに参加した保護者の97%(58人)が、「事業参加によって、障害のある子どもを育てる上で利用可能な外部サービスにアクセスする(保護者自身の)能力が高まった」と回答し、首都ウランバートルや県都(県庁所在地)の医療や療育サービスによりアクセスできるようになったり、社会福祉手当を受領できるようになったりしたという声がありました。

事業参加者のケースストーリーとして、デンブレルスレンさん一家のストーリー をご覧ください。私を始め、日本で生まれ育った人たちの多くは、基本的な読み書き計算ができないことが生活に与える影響を、日常生活の場面で想像することは難しいと思います。

しかし、デンブレルスレンさん一家のストーリーからもわかるように、保護者が基本的な読み書き計算能力を持っていないと、家族の日常生活にも支障をきたすことがあります。

例えば、子どもに障害や発達特性があり、医療や学校教育へのアクセスが十分に叶わない場合、それらを諦めるしかないという状況が生まれてしまうことがあります。また、農村の成人遊牧民の15%にも上る非識字者の多くは、デンブレルスレンさんのように、「大人になってから読み書きを学ぶのは遅すぎる」と感じ、恥ずかしさを胸にしまい込んで生きていくことを選択しているかのようにも思います。

一般に、大人を対象にした読み書き計算指導に必要な時間は、子どもに対するものよりも短く、この活動で学習プログラムを提供した期間は、約6ヶ月間でした。多くの場合、大人は完全に知識がゼロの状態から読み書き計算を学んでいくわけではなく、これまでの経験から(体系的でなくても)ある程度の素地を整えているためです。比較的短期間の指導でこのような成果がでたことは、軽視されがちな成人への教育の可能性を示していると感じます。


事業への参加を通じて、子どもの宿題を手伝ったり、銀行口座を開設して子どものための貯蓄を始めることができるようになったと語るシングルマザー(ホブド県、2023年1月)

この活動は新しい試みを取り入れるパイロット事業としての要素が強かったため、多くの人を対象に実施することはできませんでした。

しかし、比較的低コスト・短期間でこのような根本的な成果を示せたことは、重要であったと考えます。今後もウブルハンガイ県・ホブド県では、地域の生涯学習センターが主体となり、当事業の試みが継続的に実施される計画となっています。

また、モンゴル全国の生涯学習センターを管轄する総合教育庁の担当者には、本事業のアプローチの重要性を認識されています。今後も、本事業の成果を他地域に拡大していくための計画を検討・実施していければと思っております。

本事業は、皆様からのご寄付をもとに実施しました。


(海外事業部 モンゴル駐在員 松本ふみ)
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