(公開日:2024.04.16)
【事業完了報告】ルーマニアでのウクライナ難民支援:保健医療支援、教育、精神保健・心理社会的支援事業
- ウクライナ
2022年2月24日にウクライナ危機が発生してから2年以上が経過した今も、危機は終わる見通しが立たず、国内外で人々の避難生活は続いています。
放課後活動で絵を描く子どもたち
セーブ・ザ・チルドレンは、2023年3月からウクライナの隣国であるルーマニアに避難しているウクライナ難民を対象とした事業を行っています(詳細はこちら)。
2023年3月1日から実施した「ルーマニアにおけるウクライナ難民のための保健・医療サービスへのアクセス向上支援および学習・心理社会的支援事業」が、2023年12月22日に完了しましたので報告します。
ルーマニアでは、無料の医療サービスを受けるためには、地域のかかりつけ医に登録する必要がありますが、ウクライナ難民は、難民を受け入れている家庭医の情報や、難民が受けられる医療サービスに関する正確でまとまった情報を得ることが難しく、医療サービスの利用が簡単にできないことが課題となっています。
セーブ・ザ・チルドレンが運営する難民受け入れセンターでも、情報の不足や言語の違いなどが障壁となり、ウクライナ難民が必要な医療サービスを利用できないといった課題が特定されていました。また、私立の医療機関でも必要な診療を受けることはできるものの、費用が高額で、多くの難民たちは受診することが非常に困難でした。
このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンは、難民を多く受け入れていたヤシ県、スチャバ県、ブカレスト、ムレシュ県、ブラショフ県の5県で、ウクライナ難民とその家族の地域の医療サービスへのアクセス向上を目指し、地域の難民受け入れセンターで、ウクライナ難民への医療サービスに関する情報提供や、医療サービスへのアクセスを支援する医療メディエーターの育成、そして緊急時の医療費補助を行いました。(医療メディエーターのストーリーはこちら)
これらの活動を通して、6人の医療メディエーターを育成し、医療メディエーターを通してウクライナ難民882人に医療サービスに関する情報提供を実施したほか、200人に対して緊急時の医療費補助を実施しました。
活動後に実施した調査では、情報提供を受けたウクライナ難民の98%が、支援により得た医療サービスに関する情報は、ルーマニアにおける医療サービスへのアクセス向上に貢献した、と回答しました。
医療メディエーターによる医療サービスに関する情報共有
教育分野でも課題がありました。ルーマニアでは、ウクライナ難民の子どもたちがルーマニアの学校に行く権利は保障されているものの、実際には受け入れる学校のスペースや人員のキャパシティ不足、言語の違いをサポートする仕組みが整っていないことなどから、ウクライナ難民の子どもたちの大半はウクライナの授業をオンラインで継続している状況でした。
これにより、対面授業で知識を深めたり、教員や友達との日常のコミュニケーションを取ったりする機会がないことが、多くの養育者から懸念事項としてあげられていました。
加えて、紛争や避難の経験が子どもたちや養育者の心に及ぼす影響は甚大で、精神保健・心理社会的支援(こころのケア)の必要性が報告されていました。しかし、事業開始以前には、こころのケアを必要としている人の38%しか支援を受けることができていませんでした。
放課後活動の実施
そのため、ヤシ県、スチャバ県、ガラツィ県、コンスタンツァ県、ブラショフ県、バカウ県、ネアムツ県7県の学校で、ウクライナ難民およびホストコミュニティの子どもたち842 人を対象とし放課後活動を実施しました。
放課後活動では、ルーマニア語の授業、読み書きや宿題のサポートなどの学習支援に加え、工作や美術の活動、遊びやスポーツなどを行いました。
また、公立学校の教員178人に対して心理社会的支援に関する各種研修を実施したほか、ウクライナ難民およびホストコミュニティの子どもたち1,328人を対象とし心理社会的支援を、508人を対象とし社会的結束促進活動を実施しました。
心理社会的支援では、難民の子どもたちに対する緊急下の心理社会的ニーズを満たすために開発されたアプローチを用い、運動やグループでの遊びを取り入れながら自己表現や他者とのコミュニケーション力を身に着けることを目指した活動を行いました。
社会的結束活動では、ウクライナ難民とホストコミュニティ双方に交流の機会を設け、特にウクライナ難民が地域の慣習、言語、社会的規範などを学びコミュニティへの帰属感を得ることを目指し、夏休み期間中に動物園や水族館、農園への遠足、工作、描画、料理、陶芸などの各種ワークショップを実施しました。
放課後活動での学習支援
心理社会的支援の様子
社会的結束促進活動での農場訪問
事業終了時の調査では、放課後活動や心理社会的支援(こころのケア)に参加したウクライナ難民の子どもたちにアンケートを実施し、事業開始時と比べて学校や学習環境を安心に感じるかどうか、活動への参加についてより居心地よく感じるか、教員や他の子どもたちとの関係性がより良好か、などの項目について質問を行いました。
その結果、全体を通した「同意する」「どちらかといえば同意する」の回答率は平均して96.72%となり、子どもたちが事業開始時と比べて安全を感じるだけではなく、他者(特に教員)と、よりよい関係を築けていること、日々の学習をより楽しいと感じていることなど、さまざまな成果が見られました。
この活動は2023年12月で終了しましたが、ウクライナ危機は収束しておらず、ルーマニアに暮らすウクライナ難民の避難生活も長期化しています。
難民が置かれる状況や必要となる支援も変化していくなかで、難民や子どもたちが少しでも安心して避難先で生活していくことができるよう、寄り添いながら引き続き支援を実施していきます。
本事業は、皆様からのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しました。
(海外事業部・福原真澄)
放課後活動で絵を描く子どもたち
セーブ・ザ・チルドレンは、2023年3月からウクライナの隣国であるルーマニアに避難しているウクライナ難民を対象とした事業を行っています(詳細はこちら)。
2023年3月1日から実施した「ルーマニアにおけるウクライナ難民のための保健・医療サービスへのアクセス向上支援および学習・心理社会的支援事業」が、2023年12月22日に完了しましたので報告します。
ルーマニアでは、無料の医療サービスを受けるためには、地域のかかりつけ医に登録する必要がありますが、ウクライナ難民は、難民を受け入れている家庭医の情報や、難民が受けられる医療サービスに関する正確でまとまった情報を得ることが難しく、医療サービスの利用が簡単にできないことが課題となっています。
セーブ・ザ・チルドレンが運営する難民受け入れセンターでも、情報の不足や言語の違いなどが障壁となり、ウクライナ難民が必要な医療サービスを利用できないといった課題が特定されていました。また、私立の医療機関でも必要な診療を受けることはできるものの、費用が高額で、多くの難民たちは受診することが非常に困難でした。
このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンは、難民を多く受け入れていたヤシ県、スチャバ県、ブカレスト、ムレシュ県、ブラショフ県の5県で、ウクライナ難民とその家族の地域の医療サービスへのアクセス向上を目指し、地域の難民受け入れセンターで、ウクライナ難民への医療サービスに関する情報提供や、医療サービスへのアクセスを支援する医療メディエーターの育成、そして緊急時の医療費補助を行いました。(医療メディエーターのストーリーはこちら)
これらの活動を通して、6人の医療メディエーターを育成し、医療メディエーターを通してウクライナ難民882人に医療サービスに関する情報提供を実施したほか、200人に対して緊急時の医療費補助を実施しました。
活動後に実施した調査では、情報提供を受けたウクライナ難民の98%が、支援により得た医療サービスに関する情報は、ルーマニアにおける医療サービスへのアクセス向上に貢献した、と回答しました。
医療メディエーターによる医療サービスに関する情報共有
教育分野でも課題がありました。ルーマニアでは、ウクライナ難民の子どもたちがルーマニアの学校に行く権利は保障されているものの、実際には受け入れる学校のスペースや人員のキャパシティ不足、言語の違いをサポートする仕組みが整っていないことなどから、ウクライナ難民の子どもたちの大半はウクライナの授業をオンラインで継続している状況でした。
これにより、対面授業で知識を深めたり、教員や友達との日常のコミュニケーションを取ったりする機会がないことが、多くの養育者から懸念事項としてあげられていました。
加えて、紛争や避難の経験が子どもたちや養育者の心に及ぼす影響は甚大で、精神保健・心理社会的支援(こころのケア)の必要性が報告されていました。しかし、事業開始以前には、こころのケアを必要としている人の38%しか支援を受けることができていませんでした。
放課後活動の実施
そのため、ヤシ県、スチャバ県、ガラツィ県、コンスタンツァ県、ブラショフ県、バカウ県、ネアムツ県7県の学校で、ウクライナ難民およびホストコミュニティの子どもたち842 人を対象とし放課後活動を実施しました。
放課後活動では、ルーマニア語の授業、読み書きや宿題のサポートなどの学習支援に加え、工作や美術の活動、遊びやスポーツなどを行いました。
また、公立学校の教員178人に対して心理社会的支援に関する各種研修を実施したほか、ウクライナ難民およびホストコミュニティの子どもたち1,328人を対象とし心理社会的支援を、508人を対象とし社会的結束促進活動を実施しました。
心理社会的支援では、難民の子どもたちに対する緊急下の心理社会的ニーズを満たすために開発されたアプローチを用い、運動やグループでの遊びを取り入れながら自己表現や他者とのコミュニケーション力を身に着けることを目指した活動を行いました。
社会的結束活動では、ウクライナ難民とホストコミュニティ双方に交流の機会を設け、特にウクライナ難民が地域の慣習、言語、社会的規範などを学びコミュニティへの帰属感を得ることを目指し、夏休み期間中に動物園や水族館、農園への遠足、工作、描画、料理、陶芸などの各種ワークショップを実施しました。
放課後活動での学習支援
心理社会的支援の様子
社会的結束促進活動での農場訪問
事業終了時の調査では、放課後活動や心理社会的支援(こころのケア)に参加したウクライナ難民の子どもたちにアンケートを実施し、事業開始時と比べて学校や学習環境を安心に感じるかどうか、活動への参加についてより居心地よく感じるか、教員や他の子どもたちとの関係性がより良好か、などの項目について質問を行いました。
その結果、全体を通した「同意する」「どちらかといえば同意する」の回答率は平均して96.72%となり、子どもたちが事業開始時と比べて安全を感じるだけではなく、他者(特に教員)と、よりよい関係を築けていること、日々の学習をより楽しいと感じていることなど、さまざまな成果が見られました。
この活動は2023年12月で終了しましたが、ウクライナ危機は収束しておらず、ルーマニアに暮らすウクライナ難民の避難生活も長期化しています。
難民が置かれる状況や必要となる支援も変化していくなかで、難民や子どもたちが少しでも安心して避難先で生活していくことができるよう、寄り添いながら引き続き支援を実施していきます。
本事業は、皆様からのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しました。
(海外事業部・福原真澄)