(公開日:2012.06.04)
マータラ県における教育支援事業 ~子どもたちが安心・安全に教育を受けるために~(2012.06.04)
- スリランカ
スリランカ南部の海岸沿いにあるマータラ県ドンドラ郡アパレッカ中高一貫校は、自然に囲まれた、人里離れた場所にあります。雨季になるとサイクロンや洪水の被害に遭いやすく、また、常に野生動物の脅威にもさらされています。同校には6年生から13年生まで250人の生徒と14名の先生がいますが、校舎は築後85年が経っており、屋根や天井をはじめあちこちに破損が見られるほか、電気の配線がむき出しになった状態で放置されていました。また、トイレも壊れ不衛生な状態で放置されていて伝染病を引き起こす可能性が高く、また、校舎から離れた森の中にあるので常に蛇にかまれたり野生動物に遭遇したりする心配がありました。同校は子どもにやさしく、集中して勉強できる環境とは程遠く、不登校の原因や勉強の大きな妨げとなっていました。
このような状況を改善するため、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)は引き続き、株式会社CHINTAI様からご寄付を頂き、同校で教育支援事業を行いました。支援の内容は(1)校舎の修復 と (2)防災訓練の実施 の2つです。実施に際しては、事前にスリランカ地方教育局および学校関係者と十分な話し合いが行われました。
(1) 学校校舎の修復、および設備の修復
関係者との話し合いの結果、至急修復が必要な既存教室棟(3教室)の修復と男子トイレの修復を本事業で実施することになりました。完成した教室棟は屋根や基礎部分についてはもちろん、これまではなかった外網を教室に設置しました。
修復前の校舎
修復後の校舎
また、ステージを整備するに当たっては子どもたちの声を事業に反映しました。本来は修復前と同じサイズのステージを整備する予定でしたが、子どもたちが持つ様々な才能がいかんなく発揮できるようステージを大きくしました。これにより、全校での集会や地域の催し物によりよく使うことが可能になりました。3月27日に開催されたオープニングセレモニーではダンスや歌が子どもたちや地域住民から披露され、子どもたちからは新しい教室で学べる喜びが報告されています。
開所式では広いステージで様々な催し物が披露されました
また、校長先生からの呼びかけにより、同校の卒業生や地域の人々からも支援が寄せられています。例えば、同窓生により修復した校舎前に国旗の掲揚ポールが整備されました。また、地域の人々は修復した校舎の壁の塗装を自ら行うなど地域が一体となって子どもたちを支援する機会となりました。
トイレについても既存のものからほぼ新設する形で建設を行いました。これまで扉がなく、外からトイレの中が見える状態でしたが、新しく扉が取り付けられています。また、トイレにおりるための階段を新設し、より子どもに優しい作りになりました。
修復されたトイレ
(2) 防災活動の実施
同校はサイクロンやそれに伴う洪水の被害などを受けやすく、また野生動物も多く存在していることから、防災に対する意識の向上が必要とされています。本事業では8・9年生35名を対象に応急処置(First Aid)の研修を行いました。スリランカ赤十字から講師を招き、怪我や蛇にかまれた場合の応急処置の仕方や、人間の身体の構造などを学びました。研修後には子どもたちによる応急処置グループを形成し、自分たちですぐに処置が出来るよう救急箱も提供しました。また、生徒だけでなく同校の教員及び地域の人々を対象に、災害時のシミュレーションを行い対策を話し合うなど、地域内の防災に対する意識の啓発を行いました。
応急処置研修の様子。スリランカ赤十字から講師を招へいしました。
生徒に実際にけがをした人になってもらい、手当の仕方を実演します。
参加した生徒からは「楽しく学べた」「毎日の生活に役立つ」といった声が寄せられています。
<同校に通うSumuduさん(17歳)の声>
Sumuduさんの父親は糖尿病を患っているため働くことができず、母親は日雇い労働者として働いていますが、収入がとても低いので日常生活さえも困難な状況です。家の経済状況を考えたSumuduさんは、学校を辞め仕事を探すことにしましたが、心配した校長先生や先生方はSumudu さんに学校で勉強する事の大切さを伝ました。それを聞いたSumudu さんは勉強の大切さを実感し、再び学校に通うことを決意したのです。そして学校が新しくなった今、その喜びをかみしめています。
「以前の学校は校舎も古くて壊れそうだったし、放課後になると犬や家畜が校舎の中に入り込んでくるので毎朝授業時間に掃除をしなければならず、とても勉強できる環境ではありませんでした。でも、今はりっぱでとてもきれいな校舎ができて、とても幸せです。今の私の目標はちゃんと学校に通って、高校の卒業試験に合格する事です」 と笑顔で語っていました。
<Lal Amerawansha校長のコメント>
「以前は、屋根の壊れた危険な校舎で授業を行っており、崩壊等により生徒はいつ怪我をしてもおかしくありませんでした。チンタイ、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンと地域の皆さんにより改築された校舎により、生徒達はより良い環境で集中して勉強できるようになりました。また、セーブ・ザ・チルドレンがこの事業を行ったことにより、学校開発委員会の関わりも前よりも増えています。」
<保護者W.G Ranjani さん(女性)のコメント>
「以前の校舎はみんなで集まって何かをするための場所がありませんでしたが、改築後は保護者を含めイベントなどを行える十分なスペースが確保されました。なので、とてもうれしく思います。」
改築されたばかりの校舎でクラスメートに授業する生徒
当事業は子供たちが安全かつ安心して勉強ができるような学校作りを目指し、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが中心となって教育省や地域の教育事務所、学校開発委員会と連携しながら実施してきました。今回の支援では子どもの学習環境が整っただけでなく、学校開発委員会が強化され地域と保護者が一体となり学校をサポートするという意識改革もおこなわれました。教育省への要望も出しやすくなり、不足していた教員の補充が行われるなど、アパレッカ中高一貫校は子どもたちが安心して勉強できる学校へと生まれ変わりました。
(報告:海外事業部スリランカ 大山美砂子)