大統領選を前に(2009.08.17)

大統領選を前に〜アフガニスタン現地報告〜

【1.アフガニスタンの現況】

2009年、アフガニスタンは国際社会における政治と外交の両面において大きな節目を迎えています。政治面では、2009年8月20日に大統領選挙が行われます。今後、アフガニスタンがどのようにその国政と経済、社会の基盤を立て直していくかを国内外に示す重要な節目となります。

一方、外交面では、米国の新政権はその外交戦略の重要課題のひとつに、アフガニスタンの治安回復と復興を掲げています。その戦略下では、軍事のみならず民生支援による復興開発を重視し、かつパキスタンなどの周辺国からの協力を取りつけて包括的にアフガニスタンの治安維持に取り組んでいくフレームが組まれています。復興と平和の実現に向けて、アフガニスタンは新たな局面を迎えているのです。

その様な状況の中、去る7月15日にアフガニスタン政府は子どもの権利に関する初の報告書を国連・子どもの権利委員会に提出しました。この報告書の提出により、1994年に批准した子どもの権利条約に規定される重要な義務の一つをアフガニスタン政府が初めて遂行したことになります。これは、アフガニスタンの子どもたちの未来にとって大きな第一歩であり、セーブ・ザ・チルドレン(SC)はアフガニスタン政府のこの行動を歓迎します。

【2.セーブ・ザ・チルドレンの教育復興支援の概要と成果】
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)は、アフガニスタンにおいて教育復興支援を継続的に展開しています。2008年も、SCJは山岳農村地帯バーミヤン州、カブール州、バルフ州、ジューズジャーン州において、下記教育事業を実施しました。

<活動地図>緑の部分がSCJの支援地
活動1:教員の科目理解向上と校内体罰禁止を目指した教員研修事業
2008 年2月から3月にかけて、バーミヤン州のサイガン郡学校教員計95名を対象に、科目理解向上及び校内体罰禁止のための研修を実施。予定より多くの教員が参加し、講師や同僚たちから刺激を受けながら、教授法に関する新たな知識とスキルを着実に身につけることができました。

科目理解向上に関しては、研修前と後との各項目の平均点推移をみると、参加者たちの理解度が飛躍的に改善されたことがわかります。各科目の基礎固めと理解促進を果たすことができました。校内体罰禁止においては、教員たちは子どもの権利の基本(非差別・保護・参加・心身の発達の重要性など)や校内暴力禁止、生徒指導方法について理解を深めることができました。

<小学校1-3年生の3科目試験>
■研修前と後との平均点推移(1-3年生)<小学4-6年生の4科目試験>
■研修前と後との平均点推移(4-6年生)<研修参加者の声>
小学校で授業を担当する19歳のモハマドモハマド(19歳)
「私は10年生(高校1年生)までの学業を終えただけ。だから、まだまだ数学や科学の教科書内容の理解が足りないと感じる。本当は学業を続けたいけど、村には他に先生ができる人がいないんだ。他の先生と意見や知恵を共有して、問題解決に取り組んでいるんだ。女子生徒が少ない学校だけど、男女に関わらず、みんなが意見を言いやすい学級づくりに取り組んでいきたい」


活動2:初等教育のクオリティ改善事業
2008年、カブールとバルフとジューズジャーンの3州の子どもたち約3,600名と学校教員120名を対象に、初等教育へのアクセスと質の向上を目指す事業を実施しました。

具体的には、教員が子どもの権利条約や保健衛生などの知識についてきちんと理解し、質の高い授業と学級運営を行うための教員研修、生徒たちが子どもの権利について学んだり、学級新聞やラジオ番組を通じて自分たちの意見を表明する機会を提供した子ども委員会の設置、公立学校に通うことのできない不就学の子どもたちを対象に読み書きと計算の基礎を学ぶ学習機会を提供する識字教室60教室の実施などを行いました。

また、補習授業の教室に、生徒約3,600名分の文具と教員120名分の教材を配布し、生徒たちが文具・教材を用いて、読み書きを効率的に身につけることができるように学習環境を整備しました。

Photo:Mats Lignell(左)セーブ・ザ・チルドレンが支援する補習授業で、読み書きと計算の基礎を学ぶ少女たち(右)セーブ・ザ・チルドレンが支援するバーミヤンの学校の授業風景。2008年3月、1年生として入学を果たした新入生たち
活動3:保健・衛生・栄養教育事業
アフガニスタンの5歳未満児の死亡率(出生千対257人)は、世界で2番目に高く※1、日本の64倍に相当します。国民の約6割が食糧不足に直面し、5歳未満児の半数以上が発育不全という深刻な状態にあります※2。さらに、子どもの健康状態や教育と密接に関係する女性(15−24歳)の平均識字率はわずか 18%と低迷※3。こうした窮状を鑑み、教育活動を通じて子どもたちの保健・衛生・栄養の状況の改善に取り組みました。

2008年11月から、バーミヤン州中央郡4校区の学校生徒及び不就学の子ども約3,750名、学校教員約50名、親約375名を対象に活動を行っています。各学校で、ビタミン剤補給や寄生虫駆除、教材配布等の啓発キャンペーンを実施したり、子ども・おとなを対象に、保健・衛生・栄養に関する各種研修を実施しています。

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※1:Unicef, 2009, The State of the World's Children 2009, Maternal and Newborn Health

※ 2:UNDP, 2007, Afghanistan Human Development Report 2007, Bridging Modernity and Tradition: Rule of Law and the Search for Justice

※3:Unicef, 2009, The State of the World's Children 2009, Maternal and Newborn Health

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