「アフガンに生きる子どもたち」 第四回
女の子も学校に通えるように
村の意思決定者と信頼を築く。それが女子教育のカギとなる=サリプル州
カブールの事務所で、現地職員たちと昼食をとっているとき、こんな話が持ち上がった。
アフガニスタン全土の計398郡のうち、中学・高校に女子生徒が1人も通っていない郡の数は? なんと「200郡もある」という。全国の半数以上を占める。教育省が実施した全国教員能力試験の結果、こうした状況が付随的に判明したのだ。不安定な治安、校舎やトイレ整備の遅れ、女性教員の不足、社会・文化的慣習など、理由は多岐に渡る。
目の前で食事をしていた若い現地職員がつぶやいた。「おれたちがすべきこと、まだまだ沢山あるな」 その言葉にうなずけた。
近年の治安情勢の悪化と符合して、女子教育の推進を阻む劣悪な要因も次第に増加。南部や東部、北部の一部では、学校や教員、生徒が標的となり危害を受ける件数が増えている(i)。2009年だけで、学校をターゲットとした襲撃や脅迫、強盗は613件を数え、2008年の348件と比べても大幅に増えている。女子教育に不満を抱く武装グループが登下校中の女子生徒や教員を銃や硫酸で襲撃するケースもある。
アフガニスタンでは現在、500万人の子どもたち(学齢期の子ども全体の41%相当)が未だ教育機会を享受できずにいる。女子に限っては、その6割が不就学のままだ(ii)。
女子教育を推し進めるには、基盤となる学校環境の整備もまだまだ必要である。全国の半数以上の学校は適切な建物がなく、簡易テントや青空のもとで授業がなされている。夏は照りつける太陽、冬は身を刺す寒さと格闘しながら、子どもたちは懸命に勉強を続ける。北部サリプル州での光景が忘れられない。12月の寒空のもと、テントの下で肩を寄せ合いながら授業を受ける女子生徒たちの姿があった。八年生(中学二年生)の少女は「この季節、テントの教室はすきま風がとっても冷たい。机も足りなくて地面で進級試験を受けました」と話してくれた。
女子の不就学の要因のひとつは学習環境にある=サリプル州
フィールドで援助活動をしていると「何事も根気が肝要」そんなことを自分に言い聞かせることもある。学校の建設地選び一つをとっても、その土地に根付く価値観や慣習に配慮することがとても重要になる。女子学校の場合、校舎が村から遠すぎると女子生徒たちは長距離通学ができない。逆に、村の中心は、男子校や人目の多いバザールに近すぎるため、たとえ立派な校舎があっても、女子が通うには相応しくない学校と見なされる。そのため、村全体が納得できるように、村人たちと何度も協議を重ね、空き地へも足を運ぶことが必要になってくる。
2カ月の間、ファリアブ州の村人たちと話し合いを重ねたこともあった。村の外れに程良い土地があるというので、村人たちと向かった。ゴツゴツとした石ころが転がってはいるが、学校を建てるには十分な広さだ。地主も地元の子どもたちのためなら、と協力的だ。ヨシッ、ようやく土地が決まった、とホッとしたその時だった。一人の男が近寄ってきた。家畜のロバを連れている。どうやら、彼も地元の人間のようだ。すると、その男が村人たちと何やら言い合いを始めた。男は「雪解けの春になると、この土地は洪水が起きて、地盤も弛む。学校を建てるなんて危険だ」というのだ。村人の言い分は、確かに傍を流れる小川から水が溢れることはあるが、学校建設に影響はない、というもの。
結局、土地選びは振り出しに戻ることになった。目に見えない慣習やリスクを如何に見抜くか、慎重さも問われる。そのため、各州・郡の教育局や知事、村の長老、PTA、生徒たち、他の支援団体も交えて、じっくり協議を重ねることがやはり大切になってくる。
村のことを誰よりも良く知る長老たちと話合うとき、相手をじっと見据える鋭い眼光に底知れぬ迫力と温もりを感じることがある。村人たちと膝を突き合わせて議論を重ね、信頼と協力関係を築いていくこと。それがアフガニスタンにおける女子教育推進の第一歩なのである。
園田 『解放教育』(明治図書)2010年7月号より
i UNAMA, 2010, Annual Report on Protection of Civilians in Armed Conflict 2009
ii Ministry of Education, Afghanistan, 2010, The Emergency Education Strategy, unpublished paper