「アフガンに生きる子どもたち」 第七回
北部をゆく(上)
テベール村の就学前教室でゲームをする子どもたち
学校で過ごす時間は少女たちにとって特別。サリマ(左)とマリカ(右)
アフガニスタン北部の夏は、雲ひとつない無辺の青空が広がる。まばゆい太陽光が差し込み、黄金色に輝く麦畑が風に揺られ波打っている。その乾いた空気が汗ばむ体に心地よい。
村の屋台にはバレーボールくらいの大きさに実ったスイカや、パキスタンから輸入された山積みのマンゴーが並ぶ。ソフトクリームをおいしそうに頬張る子どもたちの姿も見える。そんな農村景色を眺めながら、ファリアブ州とサリプル州の村々、学校、子どもたちを尋ねた。
白のスカーフで顔を包み、教室の一番前の席でダリ語の授業を受ける少女がいた。先生に当てられると、彼女はスッと立ち上がり、ダリ語の教科書をよどみなく読み始めた。16歳のサリマ、ファリアブ州ゴザリ村の小学校に通う5年生。「英語とダリ語、算数が大好き。計算するのがとっても得意!」。そう話す彼女は経済的な貧しさのため、学校に通うことができない時期があった。でも今は、その4年間の遅れを取り戻すべく、必死に学校に通っている。家から学校までは徒歩1時間。それでも、遅刻は絶対しないという。毎朝4時に起き、近所の礼拝堂でお祈りを欠かさず、3人の幼いきょうだいの面倒を見て、朝食の支度をしてから学校に通う。家に戻れば、近所の井戸から水を汲み、炊事に洗濯、家畜の牛や羊、鶏の世話もこなす。彼女にとって、学校で過ごす朝8時から12時までの4時間は、1日の中でも特別な時間だという。「学校で友達と一緒に授業を受けたり遊んだりするのはとっても楽しい。1時間の通学は大変じゃないよ。親友のマリカとも一緒だから。彼女は同い年だけど8年生のクラス。クラスは違うけど、私たちはいつも一緒よ。」
サリマには叶えたい夢がある。「できるなら、大学までずっと勉強したい。将来は学校の先生になりたいの。アフガニスタンには女性の先生が少ないから。お父さんもお母さんも、私が学校の先生になってアフガニスタンの子どもたちのために働くことを喜んでくれると思う。」
サリプル州テベール村――。礫土でできた民家の小さな一室に足を踏み入れると、16歳の少女ワヒダが出迎えてくれた。4〜6歳までの村の幼児たち約15人も一緒だ。ワヒダは村の就学前教室のファシリテーターとして先生役を担っている。「就学前教室のお手伝いができてとっても嬉しい。村の子どもたちが将来、きちんと学校に通えるようになって欲しいから」と彼女は話す。朝は家事をして家族を支え、昼間は就学前教室で村の子どもたちの面倒を見て、午後には地元の学校で8年生の授業を受ける。
就学前教育は、小学校入学を控えた幼児たちの認識能力や順応性、学習レディネスを高めるために非常に重要な役割を果たしている。また、バイリンガル学習導入の機能も果たす。村の子どもたちと普段から接するワヒダはいう。「幼児教室で子どもたちと会話をするとき、公用語のダリ語で意思疎通を図るのはとっても大変。だって、私たちの村の母語はウズベク語だから。でも、小学校ではダリ語の授業もあるし、子どもたちが幼い時からダリ語に親しむことは大切。学校に入学してから、この教室での体験がきっと役立つと思うの」。そして何よりも、ワヒダは子どもたちの成長に喜びとやり甲斐を見出している。「子どもたちが、ダリ語やウズベク語でモノのかたちやアルファベットを理解して、しっかりと言葉をしゃべっているのを聞くと、私もとっても嬉しくなるの」。
村の幼い子どもたちに慕われるワヒダ
ワヒダは将来の夢をこう語る。「学校で勉強するのは大好き。特に歴史の授業がお気に入り。アフガニスタンや外国の過去の出来事を学ぶのが楽しい。このままずっと勉強を続けて、大学にも通いたいな。将来は、やさしいお医者さんになるのが夢。私たちの村には医者がいないから、たくさんの人たちを救いたいの――」。
園田『解放教育』(明治図書)2010年10月号より