イラク難民の手作り絵本(2010.03.01)
ある日サミールは足音で目を覚ましました。
その音はサミールのくつの音でした。
「私を履いて!」
「どうして?」
「どこへでも連れていってあげるよ」
「どこへでも?じゃあ、イラクへ連れていって。
イラクの北や南、いろんなところへ!」
その後、サミールとくつは、イラク中央部バグダッドにあるイラクの歴史的な建物や、イラク南部のバスラに生い茂るヤシの木や川など、イラク各地の上空を飛び回ります。
最後にサミールは、お母さんの声でイラク空旅行の夢から目を覚まします。
「サミール、いらっしゃい。新しいくつよ。」
サミールは思わず「魔法の靴だ!」と喜びます。
これは私たちの絵本作りワークショップに参加した親が制作した「僕の魔法のくつ」という物語です。ヨルダンで難民生活を送るイラク人の親が、祖国イラクを想い、そして、子どもにイラクの遺産や自然を伝えようと、このような物語を作りました。
私たちの活動では、これまでの約1年間、特に「絵本作り」「物語作り」という点に注目してイラク人支援を展開してきました。「絵本作り」と聞くと、それってなんの支援?と思われるかもしれません。私たちは、この活動を、学校や幼稚園に通うことができていない子どもたちのための「家庭における教育」を手助けする方法としてとりあげています。
とはいっても、参加するイラク人やヨルダン人の親も、初めはちょっと懐疑的です...。
「読み聞かせなら、昔から知っている」、「教育は幼稚園や学校でするものでしょ」
ワークショップ2日目には、作ってみた物語を、即興劇や読み聞かせを通じて子どもたちに発表します。「子どもたちにわかりやすい絵本ってどんな絵本なのか」、「どんな物語を子どもは好むのか」、親たちは、子どもの直の反応を受け、伝わる嬉しさ、そして、子どもと共有できることを体感していきます。
親たちはさまざまな思いを絵本にのせます。
心優しい子どもに育ってほしいという親の子への思い、イラクの様子を伝えようとする物語など、ワークショップ終了時には参加者の人数分のそれぞれの絵本ができあがります。
親たちからは、「読み書きできない自分にも、子どもに伝えられることがあることがわかって、本当にうれしい」、「絵本が子どもとの時間の中でこんな役割を果たすなんて思ってもみなかった、もっと広めていくべき」、「子どもの教育にもっと積極的に関わろうと思った」、「ワークショップの機会を通じて、近所付き合いが始まった」、といった感想が聞かれ、実施しているスタッフやボランティアたちも、確実な手ごたえとやりがいを感じています。
現在、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、皆様からのご寄付とジャパン・プラットフォームの助成により、現地のひとびとがこれらの活動を私たちの支援なしで行うことができるよう、地元のコミュニティセンターの職員や幼稚園の教員へ研修を実施したり、また、それら施設の強化支援を行っています。