コミュニティの力を感じながら (2010.06.01)
一緒に作った人形。ちょっと照れくさい子どもへのメッセージも、人形の口を借りてうまく伝える。
「いくつの施設が事業後に本当に活動を続けられると思う?」
昨年の秋、活動の現地移管作業を始める前に私は1人の現地スタッフに聞きました。「『本当に』続けられるところ...?」と聞き返してきたので、「そう。『本当に』続けられるところ」と答えると、彼女は少し考え、「1つ続けられればいいんじゃないかな...」と自信なさそうに言いました。いつもは「大丈夫、大丈夫」と強気なスタッフですが、私の「本当に」の念押しに、そして彼女もこれまでのさまざまな経験から、どれだけ現地移管作業か難しいかを知っていたので、適当な答えはできず、「なんとか1つの施設ぐらいは...」という思いだったのでしょう。
自分が作ったお父さん役の人形を使いながら、コミュニティ施設の中に設置された親子コーナーで人形劇のワークショップを実施する、ボランティア指導者(写真右)。
活動の現地移管先として、幼稚園や親子センターに加え、5つのコミュニティ施設を対象としていました。しかし、通常は他の活動をメインとしているコミュニティ施設に、半年という限られた活動期間でどれだけ現地移管作業ができたものか...私も内心、期待1/4、不安3/4でした。(そうだよねー、難しいよね...)と思いつつも、「5施設すべてが継続できないと。私たちがどう動けばきちんと現地移管ができて、活動が続けられるかな」と、スタッフにプレッシャーをかけたのを覚えています。私たちの活動では、ヨルダンで働くことが難しいイラク難民たちがボランティアとして活動に参加しています。活動が途絶えてしまうということは、彼らたちもまた元の閉鎖的な生活に逆戻りしてしまう恐れがあるということを意味します。
現地移管作業を開始して数カ月、指導者研修が終わり各施設でのワークショップを担当していた例のスタッフが、「5施設の内、2施設は続けられるかも」と嬉しそうに報告してきました。私たちからのサポートを受けつつも、施設自体が自主的に計画し、小さな活動を既に始めているというのです。一方で、一見活動がうまく回っているように見えていた別の施設については、「長期的に活動を続けていけるか、不安」と相談してきました。「それから次はどうなるの?」子どもは話の続きが知りたくてしょうがない様子(アンマン市内の幼稚園に設置した親子コーナーにて)
現地移管では、その場で参加者が活動に夢中になり、賛同してくれるだけでは不十分です。私たちの直接的な支援終了後も活動が成果を上げ続ける仕組み作りには、支援実施中よりも一段と積極的な関係者自らの参加・コミットメントが必要不可欠です。
継続するための資金はどこから持ってくる?ここのスタッフだけでは、弱いけど、誰がサポートに入れる?今はうまくいっていても、今後もワークショップの質を保ち、さらに向上していくためには、どうやってスタッフへのフォローアップを行っていく?現地移管のための各種研修等を行いながら、各施設から挙がってくる不安要素1つ1つにどう対応し、克服していくか、施設のスタッフとボランティア、そして私たちセーブ・ザ・チルドレンが一緒になって考えていきました。
そして、現地移管作業も終盤に差し掛かった4月中旬、例のスタッフが言ったのです。「5施設、全て続けられるかも!」5月8日のジャパン・プラットフォーム助成事業の終了を迎え、これら5コミュニティ施設を含む、15施設への現地移管作業は完了しました。もちろん多少の不安は今もあります。でも、現地コミュニティから湧き出てくる活動継続に対するやる気と力によって、私が事業開始時に感じた不安と期待の数字は逆転し、今では安心3/4、期待1/4となりました。
現地移管活動の完了をもって、ジャパン・プラットフォーム助成によるセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのヨルダンにおけるイラク難民支援事業は無事完了しました。ヨルダンの中に点在するイラク難民へのアウトリーチから、幼稚園の修築などを通じた就学促進活動、そしてコミュニティを巻き込んだ家庭における教育促進活動に続く過去2年半の活動を通じて、これまで多くのみなさまからご支援と温かい励ましをいただきました。
事業終了後も、自分たちで活動を実施していることが確認された、アンマン県内でも比較的貧しい地域にあるコミュニティ施設の様子。
今もヨルダンには多くのイラク難民世帯が生活しています。現地移管先施設での自主的な活動を通じ、これからもイラク難民を始めとするヨルダン内で弱い立場にある親子を支えていけることを願っています。今後は、これら施設の継続活動を現地セーブ・ザ・チルドレンと協力しながら見守っていくとともに、他地域における親子センター作りを引き続き展開していく予定です。