生活再建に向けた第一歩を支える 〜北部帰還民支援〜(2011.08.01)
2009年5月に内戦が終了してから2年が経過しました。内戦を逃れて避難民キャンプにいた人々の多くが、故郷に帰還しています。2011年6月末現在、避難所にいる人々の数は1万2千人にまで減っています。一方で、故郷に帰ることが出来ても、多くの人々が内戦で家屋や田畑など今後の生活をしていくための手段を失っており、今後、彼らが安定した生活を送れるようになるには長い時間がかかります。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)は、このように帰還後の生活に大きな困難を抱えている帰還民世帯、なかでも脆弱な人々を中心に、生活の場と現金収入の手段を提供することで、人々が生活の再建に注力できる環境を整え、子どもたちの健全な発達を促すことのできる社会基盤作りに寄与する支援を行っています(ジャパン・プラットフォーム助成)。
帰還した人々には今後の生活を安定して送ることの出来る収入手段がありません。すべてゼロからのスタートです。避難民キャンプから戻ったばかりの世帯は特にそのような機会や手段が限られており、多くが日雇い労働でわずかな生計を立てています。単純労働は不安定なうえに収入も多くなく、ひと月の平均収入は2,000〜3,000ルピー(約1,600〜2,400円*1ルピーは約0.8円)といわれています。この額は、政府が公式に算出した毎月2,233ルピーの貧困ライン前後であり、生活再建のための資金を蓄えることはおろか、日々の食糧にさえ事欠くような状況です。
さらに、寡婦や高齢者だけの世帯や、障がいのある世帯などの社会的に脆弱な人々は平均月収が700ルピーに満たないケースも報告されています。
このような厳しい状況の中、SCJは女性や高齢者でも比較的容易に管理や維持が出来る作物栽培や家禽・家畜飼育のために必要な物資を提供する支援を行いました。そして、生活の目処が立たない状況にある帰還民が現金収入を回復することで一日もはやく独力で生活を営めるよう支援し、ひいてはスリランカ北部の復興と安定に寄与することを目指しました。
現在までに作物栽培の支援として、スリランカの一般家庭の食事によく使われる野菜(玉ねぎ、ナス、オクラ、苦瓜、チリなど)や豆類(緑豆、ひよこ豆など)の種子を250世帯に配布しました。栽培から約3ヶ月後には収穫でき、市場において販売が可能になるほか、残ったものを家庭で消費することも出来ます。また、種子だけでなく、肥料や汲み上げポンプ等の配布もセットで行いました。以前は深井戸から水を引くために長い距離を歩いて水を汲みに行ったり、他の農家のポンプを一回100ルピーで借りたりと時間的、金銭的な負担がかかっていましたが、ポンプを配布したことにより、上記のような手間がかからなくなっています。
汲み上げポンプを受け取った裨益者世帯。
ポンプを配布したことにより、作物栽培の負担が軽減しました。
また、家禽飼育の支援として78世帯にヒヨコを配布しました。畜産局の獣医が同行して、ヒヨコの健康状態や質を確認し、配布前に予防接種を実施して配布を行いました。現在まで順調に育っています。飼育から約3ヶ月後には成鶏となり、食肉用として販売することできるほか、約5−8ヶ月後には卵を売ったり、新たに孵ったヒヨコを、家禽飼育を望む別の世帯に売ることで、現金収入を得ることができる見通しです。
配布した幼鶏は感染病や強い日光に当たって死なないよう、屋根付の養鶏小屋で飼育されます。
ヤギについても268世帯に配布を行いました。特に、今回支援を行ったキリノッチ、ムライティブは、内戦前国内有数のヤギの産地だったのですが、内戦によりヤギの生産が壊滅的な状態となっているので、同地域では高い需用が見込まれました。配布に際してはヒヨコの場合と同じく畜産局の獣医が同行し、ヤギの健康状態や質を確認しました。また、配布前にヤギに予防接種を実施して健康なヤギを配布するようにしました。ヤギは家の周囲に生える草を食べるので、帰還したばかりの世帯でも飼育にかかる金銭的な負担はありません。各世帯には雄ヤギ1匹に対し雌ヤギ4匹を配布しました。飼育から約6ヶ月後には交配が進み、平均して約4、5匹の子ヤギが生まれることが期待されます。子ヤギは1匹あたり約6,000ルピーで売ることができます。また、飼育から約8ヶ月−1年後には成ヤギとして約8,000−10,000ルピーで売却できる見通しです。
避難前にヤギを飼育していた世帯の中から裨益者世帯を選びました。
SCJでは、一日でも早く帰還民世帯が生活を再建できるように今後も支援を続けていきます。