おやこのカタチ

さまざまな国の
親子のつきあい方を学ぶ

フレドリックさん

出身国:
スウェーデン
家族構成:
5歳の息子、3歳の娘、妻
日本滞在歴:
14年(2006年~)

日本文化に興味があり、学生時代は日本語を専攻していました。夏期留学プログラムで岐阜県を訪問し、その後、日本の大学に留学。大学卒業後、日本にある外資系企業に就職しました。日本人の妻と出会い結婚、現在は2人の子どもを育てています。

ある1日の過ごし方

5:30
起床、ランニング
6:15
子どもたち起床、朝食づくり
6:45
朝食、幼稚園準備
8:00
妻と子どもたちを送り出す
在宅勤務スタート
17:00
在宅勤務終了
洗濯、掃除、夕食づくり開始(日によって妻と交代で)
18:30
妻、子どもたち帰宅後に夕食
19:30
子どもたちが妻と遊んでいる間に夕食片付け
子どもの宿題のお手伝いなど
20:00
風呂
21:00
子どもたち就寝
24:00
就寝

子育て環境はどう違う?

スウェーデンと
日本の子育てでは、
どんなところが
違うと感じますか。

まず、遊び方がまったく違うと思います。都会に住む子どもが多いということもあるかもしれませんが、日本の子どもはきちっと決められた中で遊んでいると感じます。例えば、ハンカチなどの道具を使ったり、公園に行ったり、虫捕りをしたりといった、何か特定の場所で具体的な遊びをしようと計画を立てて準備をして、その決められた枠の中で子どもが遊んでいることが多いと思います。必要な道具を準備したり、その場所へ連れて行ったりするなど、親が子どもの遊びに直接サポートとして関わる機会も多いです。

一方、スウェーデンで私が育ったときは、自然が豊かな地方で育ったということもあり、もっと自由に遊んでいました。周りの友人を見ていると今でもそうだと思いますが、私が子どもの頃は、親から「外に出て遊んで!」とだけ言われ、きちっと決められた遊びはありませんでした。いつも近所の友だちと自由に遊んでいました。多くの遊びは準備や計画などなく、子どもたちが創造しています。楽しく感じる遊びをつくり出せるかは、基本的に子ども自身に委ねられていると思います。だから、子どもたちは幼いときから、自分の興味があることや、友だちと一緒にしたいことをしています。

体罰に対する認識も違います。スウェーデンでは、子どもの権利条約が、「子どもとどのように関わるか」という人々の考えに影響を与えています。子どもへの体罰も1979年に全面的に禁止されました。現在、スウェーデンでは、体罰を許容しないという風潮が一般社会に広がっています。

日本では、最近、親による子どもへの体罰が禁止されましたが、子どもへの体罰に寛容だと感じます。来日して間もない頃に働いていたお店で、お客さんが自分の子どもをたたいたり、子どもに「ばか」と言ったりするのを何度か見ました。子どもにも尊厳があるのに人前でけなしたり、実際に暴力を振るったりといった光景を見て、強い衝撃を受けました。

体罰や言葉による暴力を容認する意識が、少しずつ変化し始めると良いと思います。少なくとも、法律で体罰が禁止となりました。それをどう実行していくのかは別の話になりますが、それでも、子どもにとって体罰や言葉の暴力は大きな弊害があるので、日本社会の中で体罰に対する議論が広がっていることはうれしいです。

子育て環境については
違いますか。

日本では、多くの母親が、いまだに専業主婦として子どものためにあれこれすることを期待されていると感じます。保育園や幼稚園に通わせていても、特に女性は、「母親なんだから、子どもといる時間がたくさんあるだろう」と、園のイベントやPTAに参加することを求められる場面が多いのではないでしょうか。

共働き家庭も増えてきていて、こうした考えは少しずつ変わってきていると思います。子どもを大学まで行かせたいなら、経済的にも専業主婦でいることは難しくなってきています。それでも、特に母親たちは家族の世話をすべきという期待を社会から押し付けられてしまっているように感じます。

私たち親も、できるだけ良い親になりたいと思っている。だから、そのような価値観や期待を押し付けられると、子どものためにどれだけの時間を割いているかほかの人と比べてしまい、大きなストレスになってしまいます。

スウェーデンでは、「専業主婦」という考え方は、1960年から70年ごろになくなりました。その頃、若い世代によって、ジェンダーや子どもの保育について社会運動が起きたのです。それまで、性別による固定的な役割の考え方によって、女性たちが自分らしくある機会を奪われていたのですが、その社会運動の後、女性が男性と同じように働くようになってきました。つまり、社会が求めている政府がスタートし、両親ともに働くことが当たり前になっていったのです。その流れの中で、夫婦は共働きであるという前提ができ、その結果、多岐にわたる利用しやすい子育て支援体制が充実してきました。

スウェーデンでは、学校や保育施設の時間外で、学校や保育施設側から親へ求められることは多くありません。両親ともにフルタイムで働いている前提だからです。日本では、どちらか一方の親は、子どものために多くのことができると期待されます。日本でも幼稚園の無償化など、親の助けになるような支援が増えてきていると感じます。しかし、親が背負わされるストレスを減らすため、あるいは共働き家庭の現実に即した形になるよう、国がもっと介入して、支援できると良いです。

こんなとき、どうしてる?

子どもが駄々をこねたとき、
どのように対応していますか。

買い物に行くと、「ガチャガチャしたい」など駄々をこねることがあります。駄々をこねただけで欲しいものを与えてしまうと、それを覚えて、欲しいものが手に入るまで泣き叫ぶようになってしまう。駄々をこねたときは、一貫性を持って「ダメだよ」と伝えた上で、「いつも、これにお金を使うことはできないよ」など、なるべく落ち着いて理由を説明するようにします。

子どもたちは少し悲しい気持ちになることもあるかもしれません。でも、人生では、自分の欲しいものがいつも手に入るわけではないですよね。幼いうちに、がっかりする気持ちを学ぶことも大切だと思います。

一貫性に関しては、私と妻はお互いにサポートしあいながら、子どもに同じメッセージを伝えるようにしています。「ママはダメだけど、パパに聞いたら大丈夫」といった状況にならないようにするためです。子どもが駄々をこねるような場面は特に気を付けます。どちらかの親の方がもう一方より良いとか、どちらかの親が怖いといった状況をつくらないように意識しています。

特に、父親は怖い存在として期待されますよね。片方の親がいつも怒って怖い存在であると子どもが思い込んでしまうと、その子どもと関係性がつくれなくなってしまいます。そうなることがないよう、私も妻もポイントを揃えて説明することで、子どもとの関係性がどちらかに偏らないようにしています。

妻の大切にしたいポイントを尊重し、彼女が「いけない」と言えば、私も「いけない」と言います。意見が合わないときは、あとで彼女と話をします。「これは、本当に“いけない”と言うべきだったか」「これは“良し”として良かったのか」など。私たちは一つのチームだと思っているので、これはとても重要です。

あなたはイライラしないように
どんなことをしていますか。

子どもといるときは、ストレスがかかる別の作業をしないように心がけています。できるだけ、やるべき家事は子どもが寝ているときか、子どもが家にいないときに片付けます。今は在宅勤務をしているので、会社への通勤時間を家事の時間として使うことができます。仕事が終わり、子どもが帰宅するまでの間になるべく家事を終えられるようにしたいと思っています。

新型コロナウイルス感染症が日本で流行り始めたとき、子どもたちと過ごす時間は「ただそこにいることが大切」だと気が付きました。緊急事態宣言中も妻はお店で働いていたため、私は子どもたちの世話をしながら仕事をしなければならず、本当に大変でした。自分がパソコンで仕事をしなければいけないときに、子どもたちがやってくる。すぐにストレスでイライラが募り、自分がなりたくない親の姿になってしまったのです。

そうした状況を避けるために、子どもの近くにいるときには、ほかの作業をすることがないようにしています。自分にストレスがない状態にする。そうしないと、衝突につながってしまうし、子どもたちも自分も不幸にしてしまうと思います。

どんなときに子どもと衝突し、
それをどのように解決しますか。

タブレットの使い方などで衝突することがあります。子どもは、いつでもタブレットを使いたい。しかし、私たち親は子どもがタブレットを使うのをなるべく避け、使うときは短時間にしてほしい。そういうときは、まず、子どもたちが理解できるように、なぜスクリーンをずっと見ているのが良くないのか、代わりにどんなことができるかを説明します。タブレットは子どもにとって、とても興味深いし、面白いので、説得するのは難しいと感じます。

ほかには、事前にタブレットを終わらせる時間を約束するようにします。私が子どもの頃、自分で何も決められないことに、すごく腹が立ったことを覚えています。自分のことをほかの誰かにすべて決められてしまうのはいら立ちますよね。子どもであっても、一人の人間であり、自分に関わることは自分で決めたい。その記憶があるので、自分の子どもには「何分までこのタブレットで遊ぼうか?その時間が終わったら、ほかのことをしようね」と約束をして、子ども自身に主体性があると感じられるように工夫しています。

子ども自身が理解して片付けると決めたら、うまく解決するし、次に切り替えられる。子どもが、親に楽しみを壊されたと感じるのではなく、自分でほかのことをすると決めたと思えるようにすることを大切にしています。子ども自身が、生活の中で意思を持って行動する人であることが重要だと思います。

大切にしていること

スウェーデンでは、
「子ども」をどんな存在として
考えていますか。

スウェーデンでは、子どもたちは未来がある存在なので、世界で一番大切だと考えられています。社会の中で「子どもは一人の人間として、自分の権利や願いを持っている」という考え方が深く浸透しています。国が政策や法律を決めるときは、子どものウェルビーイング*が取り上げられて検討されます。

また、日本と比べると、子どもに自主性があることがより大切にされていると思います。子どもは親の所有物ではなく、物理的に小さいけれども、私やあなたと同じような人間であるということ。子どもは、大人のサポートを必要としているところもあるけれど、同時に権利を持っていること。子ども自身に起きている事柄に対し、子どもは自分の意見を言うことができること。

そういった子どもの権利条約の内容は政治やメディアでもよく議論されてきましたし、セーブ・ザ・チルドレンのような団体が、このテーマを長い間取り上げてきました。大人が子どもについて考えるとき、子どもの権利が、大人の中に深く浸透しているのです。

「親子のつきあい方」で
大切にしたいことはありますか。

子どもとの信頼関係です。私や妻は、あなたを手助けするためにいつでもいるよ、ということを子どもに知ってもらうこと。こういったことは、子どもが成長したら、さらに重要になると感じます。何か起きたときに、誰かに相談しにくいことが出てくるかもしれない。そのときに、親には話ができると感じて、困ったことを話してくれたらと思います。どんなことが起きても、私たちは子どもを手助けするし、子どもたちが私たちを怖がる必要はない。そう思ってもらうことが大切です。それは、いつでも、子どもたちの人生にとっての安心感の基礎になると思っています。

あとは、子どもたちのそばにいることを優先すること。私にとっては家族が一番大切です。私は家族よりも仕事が優先にならないような仕事を選びました。子どもたちが私と一緒に過ごせるのは数年しかないし、その時間を取り戻すことはできないので、大切にしたいと思っています。

*ウェルビーイングとは、健やかであること、およびそうした状態に到達する過程のことであり、身体的、精神的、社会的、認知的健康を指し、個人にとって良いことを含む。すなわち、意義のある社会的役割への参加、幸せで希望に満ちていると感じること、善良な価値観に従って生活すること、良好な社会関係と支持的な環境があること、ライフスキルを使って困難に対処すること、安全で、必要な保護を受け、質の高いサービスにアクセスできること、などが含まれる。
~ 『人道行動における子どもの保護の最低基準』(2018年 日本語制作・公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン)P.261 より ~

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