おやこのカタチ

特別インタビュー

一青窈(ひととよう)さん

出身地:
東京都
家族構成:
5歳の息子、3歳の娘、1歳の娘、夫
プロフィール:
1976年生まれ。台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、幼少期を台北で過ごす。2002年、シングル「もらい泣き」でデビュー。翌年、同曲で日本レコード大賞最優秀新人賞などを受賞。5thシングル「ハナミズキ」が大ヒットを記録し、現在も国内外問わずさまざまなアーティストによりカバーされている。また、映画や音楽劇への出演、他アーティストへの歌詞提供など、歌手の枠にとらわれず活動の幅を広げている。

ある1日の過ごし方

5:30
起床、パソコンチェックなど
6:00
3 歳の娘起床、オムツ交換、一緒にミルクティづくり、絵本読み
6:30-7:00
5 歳の息子と 1 歳の娘起床、長女と朝食づくり
7:30
夫起床、家族で朝食
8:30
家から少し遠い公園で子どもと遊ぶ
9:30
子どもたちを保育園へ送る
10:00
ジム、英語レッスン
11:30
スタジオで歌唱練習、昼食、読書
14:30
家を出発、都内でライブ出演
18:00
帰宅、夕食準備、保育園のお迎え
19:00
子どもたちとお風呂、夕食
20:30
絵本タイムまたは家族で音楽セッション
21:30
子どもたち就寝後、家事や次の日の準備、整体
23:30
クラブハウスなどを聞き就寝

おやこの視点の違いは?

子どもの気持ちに
後から気づいたことはありますか。

友人の誕生日で、中島みゆきさんの「糸」の歌詞に友人夫婦とその子ども2人の名前を入れ、替え歌を歌った時、急に息子が泣きだし押入れから出てこなくなりました。理由を聞いたところ、「僕は暖めてくれないの?」と。はっとさせられました。「そうか、ごめんね、あなたの名前が入っていなかったね」と、もう一度息子の名前を入れて歌いました。

また、3歳の娘が車から頑として降りないこともありました。理由は、車のドアボタンを押したかったのに、ママが押してしまったから。30分以上、ずっと抱っこして泣き止むのを待って理由を聞き出した後に自分で開閉させました。

子どもが泣いたりするのは理由があり、それを丁寧にすくい上げるようにしています。子どもには意思があり、ただ、それをうまく伝える言葉を持っていないだけだと思っています。思いつく限りの理由を並べて、「こういうこと?」と一緒に答えを探すようにしています。それでも解らなければ「わかってあげられなくてゴメンね。」と伝えます。

子どもは一人の人間、
自分とは違う人間なのだと
思うことはありますか。

私は、未知のことに挑戦したいタイプですが、息子は少し違います。トランポリンの行列に1時間も並んで、直前でやめると言い出すこともあります。「せっかく順番がきたのに」と思いますが、私が挑戦好きだから子どもも好奇心旺盛という事ではなく、それぞれに人格がある、と感じます。

また、子どもと大人の行動が違うことも実感しています。娘たちはお弁当に使うピックやスプーンなどのカトラリーを、長さや色でグループ分けするが好きなのですが、あとで読んだモンテッソーリの本に、その年齢ではそうした行動がみられる、と書いてあり納得しました。大人だったらしない整理整頓が面白いなと思います。散らかりますし、片づけたいと思いますが、やりたいように本人が納得するまでやらせます。

我が家は、床には絵を描いて良いことにしています。私が好きな芸術家の大竹伸朗さんのアトリエ兼自宅では、家中が絵で埋まっていたんです。それを見て、子どもたちが描いた落書きの横に日付と名前を入れて、大きくなってから誰がいつこの絵を描いたかわかるのも良いと思いました。最初は白い壁に描かれて泣きたくなりましたが、今は逆に楽しんでます。子どもは壁があれば絵を描きたいし、障子があれば破りたい。そうしたことをすべて今しかできない事だから良しとすると、だんだん楽になります。

どうしても上手くいかないときは
どうしますか。

イライラした時は、ティッシュを投げるとか、枕に向かって叫ぶとか、子どもにミュージカル調に歌いかけるとか、工夫してイライラを分散させます。子どもに怒っても何も解決しないし、怒って良かったことはありません。

本当にやってはいけないこと、例えば道路に飛び出すことも、「ダメ」というより「人は死ぬんだよ、パパとママと会えなくなるよ」と子どもに伝え、わかってもらうことが大事だと思います。店でどうしても欲しいものがあって駄々をこねる時は「ママも欲しい!」と大げさにジェスチャーをしてぽかんとさせるとか、うるさい時はヨガで使うテインシャという小さなシンバルを鳴らして注目を集めるとか、子どもが体験して伝わりやすい表現の方法を工夫します。

子どもとの向き合い方は?

工夫することで子どもが変わったと感じることはありますか。

帰宅時に子どもが玄関の鍵を開けたいときは、順番にそれぞれ満足するまでやらせます。ただ、長い時間やり続けると、冬はあまりに寒いので、色んな種類のおもちゃの南京錠を買い、おもちゃのキッチンセットに付けました。それでも玄関で大人の高さで「鍵を開けたい」とはなるんですけどね。

食器洗いもやりたがります。ビシャビシャになるのですが、子どもが届くよう椅子を置いたり、子ども用のスポンジを買ったりと、子どもサイズに変えると、黙々とやります。実際にやることで学び、他のお手伝いもしてくれるように変わっていきました。

そうした「何かしたい」という欲求が生まれる瞬間は一人ひとり違います。「ハサミで切りたい」「字を書きたい」、その欲求が出てきたタイミングを逃さないよう、子どもたちを一生懸命観察しています。

子育ての中で、こんなサポートがとても助かった、などありますか。

台湾では、まったくの他人でも子どもというだけで、かわいがってくれます。料理屋さんで、お店の人が「抱っこさせて」と、大人が食べている間に子どもを抱いてあやしてくれる。日本で生まれ育った夫は心配しますが、私にとっては、当たり前。人の助けに充分甘えさせてもらって、「どうもありがとう」と思います。

だから、私も困っているお母さんがいたらお手伝いしたいし、公園や駅で激しく叱っている親にはつい声をかけてしまいます。公園で、川に石を投げちゃダメ、濡れちゃダメと怒っているお母さんには、「見てください、うちの子は(濡れるどころか)もう川の中に入ってますから」と声をかけます。声をかけても無視されることもありますが、おせっかいな人がいても良いと思っています。

「他人に迷惑をかけちゃいけない」と気を遣えるお母さんたちが、子育てにストレスを抱えていらっしゃる。私は歌を届けることで、そうしたお母さんたちが少しでも柔らかい気持ちになってくれたら嬉しいです。

私自身、両親を早くに亡くしたので、人はいつか「死ぬ」とどこかで感じています。だからこそ、「今こうしたい」という動物的直観に従う方が良いと思っています。その瞬間は二度とやって来ない、恥をかいても自分のやりたいことをやる、と。子どもにもそうさせてあげたいです。明日子どもが突然死したら、子どもがやりたがっていたことをやらせてあげたかったと後悔すると思うからです。

大切にしていることは?

ご自身にとって、
「子ども」とはどんな存在で、
どんな子ども時代を送って欲しいですか。

子どもは、万能で超越している、可能性の塊です。大人が失ってしまったものを持っていて、うらやましいと思いながらいつも見ています。そして、いろんな世界を知って、可能性を狭めない子ども時代を送って欲しいです。

児童養護施設に歌いに行く時には子どもを連れて行きます。施設には、お父さんやお母さんがいない子どもたちや、たたかれたり蹴られたり、悲しい思いをしてきた子どもたちがいるということ、それでも寄り添ってくれる他人がいる事、お友達が助けてくれる社会がある事を、肌で感じて欲しいと思っています。

スラムにもいつか連れて行きたいです。自分の環境がどのようなものか、世界を見ることで知って欲しい。また、そういった場所で働く人がいることを知って、将来、人の役に立つ、人が笑顔になることで自分が喜べる仕事について欲しい。自分が喜ぶことより人が喜ぶことを優先できるように、と願っています。たくさん素敵な人たちに出会って、体験して欲しいです。

「親子のつきあい方」で大切にしたいことはなんですか。

子どもは私と「同じ人間であるということ」です。私自身、親というよりは、たまたま長く生きているだけで、子どもに気付かされる、勉強させられることだらけです。

「これ食べたくない」などの子どもの生理的な気持ちは正しいと感じるので「あなたのその衝動は大事だし、よくわかるよ」と伝えます。一方で、「でもママは次にこれをしなきゃいけないから、今これをしてもらった方が助かるんだ」と私の希望も伝えたり、「お部屋をきれいにしなきゃいけないんだよ、どうしたら良いと思う?」と相談したりもします。形式的に「親子」というよりも、この人生を楽しく生きていくための「チームメート」としてどんなことができると思う?と常に子どもに聞いています。

海外のスラムを訪問した時に、その日を生きるだけで精一杯の子どもたちに会ったことで、日本で普通に言われている「しなきゃいけない」の常識が崩れました。ちゃんとお箸を使えないことも、なんとも思わなくなる。お箸すら持てない子、きれいな水すら飲めない子が世の中にいるんですよ、って。

そう考えると子どもは何をしたっていいですし、大して怒ることもないのではと思います。子どもとママやパパが笑顔でいれば、あとは他に大切なことはない、と思っています。

*インタビュー当日、一青窈さんはお子さんのアルバムを持ってきてくださいました。たくさんの可愛い写真と、愛情が込められたコメントがちりばめられた素敵なアルバムで、スタッフも大感激でした

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