「わかりやすい支援制度の紹介と柔軟な適用を」―子どもの食応援ボックス利用者の思いー

セーブ・ザ・チルドレンは、2020年より、子どもたちの食の状況改善を目的に経済的に困難な状況にある家庭を対象に、食料品などを提供する「子どもの食 応援ボックス」の支援を続けてきました。今回、「2023年夏休み 子どもの食 応援ボックス」を利用した世帯の保護者に、子どもの食応援ボックスに申し込んだ経緯や、現在の状況などについて話を聞きました。
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「死別によるひとり親は枠の外にいるように感じる」(関東地方在住、Jさん)

Jさんは、数年前に夫が亡くなり、現在ひとり親として子ども2人を育てています。セーブ・ザ・チルドレンの食の応援ボックスは、2020年に初めて利用したそうです。
「夫が急に倒れて亡くなり、ショックを受けていると新型コロナウイルス感染症が広がって、そうした不安な時期に応援ボックスに助けられました。あの時、助けてくれる人が世の中にいるんだって思って箱を見て泣いたことを覚えています。」



■頼れないんだ、私ががんばるしかないんだという思い

「数年前に、夫が急に病気で倒れて、倒れてから数時間で急死しました。それまでは健康に暮らしていたのですごく驚いて、ショックをうけました。」


「夫が亡くなってから、死亡届を出しに行くとすぐに、住民税などの請求がきました。葬儀代も払わなければいけない一方で、保険金や遺族年金が振り込まれたのは数ヶ月後でした。本当に振り込まれるのかも不明なまま、預貯金を切り崩して生活しなければならず不安でした。」





世帯の収入を支えていた夫が突然亡くなり、周囲にはしばらく休養することをすすめられましたが、Jさんはすぐにパートに復帰し、勤務時間数も増やしました。


「ひとり親になったら、児童扶養手当を受け取れると思っていたんです。でも、遺族年金を受け取ると児童扶養手当を受け取れないことを手続きに行って初めて知りました。その時に、『制度に頼ることができないんだ』『自分ががんばるしかないんだ』と思い、パートの時間を増やすことにしました。」


しかし無理がたたってJさんは数ヶ月後に倒れてしまいます。当時小学生と中学生だった子どもたちは、しばらく祖父母が預かってくれましたが、その後も体調がすぐれず、入退院を繰り返しました。
「祖父母もどんどん高齢になってきているので、今はなかなか頼れません。」


■死別によりひとり親になったことで感じること


Jさんは、配偶者の死亡によりひとり親になったことで、他にも既存の制度の外に置かれてしまっていると感じる場面があるそうです。


例えば、Jさんの子どもは現在高校生で、大学進学を希望し自治体の学習支援に通っていますが、大学進学時に利用できるはずの「高等教育の修学支援新制度」(授業料等減免と給付型奨学金の支援制度)は、父の生命保険の分の預貯金があるため、対象外となっています。


「遺族年金とパート代を合わせても月20万円ほどの収入です。1番目の子どもの時はどうにかなっても、今小学生の2番目の子どもの時にまでお金があるのか・・・。保険金を資産とみなされますが、一人で子育てをしている中で自分がいなくなってしまったらどうなるのか、不安でいっぱいです。」


そのため、無利子の貸与型の奨学金を申し込んでいますが、審査に落ちれば有利子の奨学金を借りて進学するしかありません。




またJさんの子どもが通う小学校へは、配偶者が死亡によるひとり親であることは伝えていますが、学校に提出する書類の保護者欄には必ず「父親」の記載欄があります。さらに、行政に提出する書類や、奨学金の申請書でも、「死別」の欄はなく、「未婚」の選択肢を選ぶしかありません。Jさんは、書類を記入するたびに、何とも言えない気持ちになると言います。


子どもの同級生にもひとり親世帯はいますが、自身と同じような状況でのひとり親は多くはないため、誤解から「遺族年金があるからいいよね」と暗に言われたり、子ども同士で「Jの家は幽霊が出るー!」と言われたりするなど、困った時にもなかなか周囲に相談できない現状です。


■死別によるひとり親に対して求められる情報の周知


ただ、夫の死後数年経って、ようやく同じような経験をしている人たちと出会い、いろいろな情報交換ができるようになりました。


同じ境遇のひとり親と話をすることによって、Jさんの心も少しずつ軽くなっていったと言います。同時に、死別した場合にどのような手続きが必要なのか、利用できる制度は何かをもっと早く教えてほしかったと訴えます。


「千葉県柏市のウェブサイトに、『死別でひとり親になられる方へ』というページがあって、そこに、死別後の手続きや利用できる制度などがまとまっているのを、後になって知りました。配偶者の死という状況の中でも、残された側は死亡届の提出や行政手続きなどを行わなくてはなりません。経済的なサポートに加え、必要な手続きや、メンタルのサポートなどについても書かれていて、こういうものが当時もあればよかったと、今改めて思います。」
*千葉県柏市居住ではありません。インターネット検索により当該自治体のウェブページを知りました。


厚生労働省の最新の調査*では、母子世帯の場合、ひとり親になった理由は、「死別」が 5.3 %、離婚などの「生別」が 93.5 %となっています。離婚してひとり親になった世帯と比べると、人数も少なく、制度で十分想定されていないであろう配偶者の死別によるひとり親世帯。


Jさんは、なかなか社会の中で認知されていないこと、それによる偏見があると感じています。実際、子どもが不利益を受けないよう、死別であることを隠しているため、就学援助制度や高校生等奨学給付金制度などを利用することを躊躇する世帯もあるのではないか、とJさんは話します。
*厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」より
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/86-1.html


Jさんのお話から、配偶者死亡によりひとり親になった世帯に対する社会の理解を促進するとともに、制度の充実を図ることが必要であると感じます。また、死別であることから制度の利用を控えている状況もあることが分かりました。
公的支援制度は、本来すべての子どもが健康に生き、育ち、学ぶ権利を保障するためのものです。セーブ・ザ・チルドレンは、どんな状況にある子どもや子育て世帯でも、必要な情報や支援につながることを、今後も政府や自治体に訴えていきます。


(国内事業部 鳥塚早葵)


セーブ・ザ・チルドレンでは子どもの食応援ボックス以外にも、子どもの貧困問題解決に向けさまざまな取り組みを行っています。活動の最新情報は随時こちらのページで更新しています。ぜひご覧ください。
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